ある日の黒猫に関する考察
土曜日の20時更新です……
性。
サガなんだよ、猫のサガね。
アタイは今、グループホーム『おだんご』の一階ゴミ箱前にいる。
ティッシュボックス大の段ボール箱が床の上にまんまで置いてあった。入居者さんがバラして捨てんの面倒だったんだな。
たまにあんのよ、うん。
落ち着けアタイ……。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
「ちっちゃい段ボール箱だああああああああッ!」
そう叫んだ刹那、もう飛び込んでたね。
そしてキッチリ収まってた。その箱ん中に。
黒猫の頭だけピョコンて出てる小さな段ボール箱。何か新しい生き物かってくらいのフィット感。
ドヤ顔……だったと思う。
「呪術パイセーン。何やってんの?」
白うさぎのウサ。毎週土曜にアニマルセラピーのバイトでやって来る疫病神だ。
「ここはアタイの領域だから。入ってくんな」
「ふーん」
ふーんて。いつもだったら呪術系アニメのネタ、ウザいくらいブッ込んでくんのに。
「領域テンカイすんのーとか術式のカイジしないのーとか言わないのかい?」
「うん、言わない。だってパイセンの呪術、地味だからつまんね」
ふふ。言ってくれんじゃん。
アタイら黒猫の家系は限られた雌だけが能力を受け継ぐリアル呪術使い。漫画とごっちゃにしてんじゃないよアニオタうさぎ。
本来、呪術って生活を豊かにする為のモノなんだ。やたら戦ったりとか呪ったりするもんじゃあ……
「面白いの?」
「あ?」
「面白いの? ……箱に入るヤツ」
何か半笑いでキタ。ムカつくなーおい。
「どうしたんだいウサくん?」
茶色いムキムキセラピー犬もやってキタ。トイプーのロッキーだ。
「おや? ジュジュさん……ぷっ、そんなトコ入ってたらゴミと一緒に捨てられちゃうぞ!」
コイツ完全笑っとるよなー脳筋のクセに。コンビでアタイのコト弄るなんてサ。いい度胸じゃないか。
「猫ってすぐ箱入りたがるよねロッキー」
「アレはね。箱に入ろうとする自分、入ってる時の自分が可愛いと思い込んでて。それを世間にアピッてるんだよ」
アホ考察キタ。
「何だか浅ましいね」
「それでもジュジュさんは私達の先輩なんだウサくん。頑張ってる彼女にエールを送ろう!」
バカコンビが「可愛いー」とか「箱ぴったしー」とか言ってくる。呪い、かけてやろっかな~。
「猫が箱に入りたがるのは!」
一階にある事務所のドアが、ばーんて開く。
「液体だからだよ諸君ッ」
新しいバカがキタ。職員の里見だ。
液体だってーッ? 素直に反応するうさぎと犬。
「猫の体は液体になるんだ。それでぴっちし箱に入れたらスゴく気持ちいいらしい!」
コイツは元漫画家だから脳ミソが液状化してる。
「この研究でノーベル物理学賞取った学者がいるくらいだから。見てみ、体がホラ四角!」
「マジウケるキモー」とか「ゴミ箱に捨てちまえー」とかキャッキャ言うとる。エロイムエッサイムエロイムエッサイム……あ、何か召喚しそうになったわ。
けどね。
言い返せないのよ~。
だって何でこんなトコ入りたくなんのか自分でもわかんないから。やっててスンゴイ面白いし、上手に出来たら見て欲しいし、自分自身「アタイ、液体化してる!」とか思うもん。
つまり猫にとっては娯楽であり、パフォーマンスであり、能力の確認でもあるんだ。
この行為。突き詰めて考えたコトなかったな。
……ゴロゴロゴロゴロ。
ヤベ!
つい悦に入ってゴロゴロ鳴っちゃった。ハズッ。
「パイセンがゴロゴロいってるね」
「きっとこの箱がお気に召したんだよ」
「安心してんだろうな多分」
うん。かもね。
…………
……うん。もう、いいから。
早く散りなさいよ。いつまで見てんのアンタ達。
イヤだから落ち着かないって。和んでんじゃないよ。ちょっ、写真撮んな里見。一緒に写るなよバカコンビ。箱に落書きすんの止めてウサ。
「シャーッ!」
思わずシャーッてなったわ。
マジックペン持ったまま固まってるウサ。何か気まずぅ。
「あ……シャーは言い過ぎたゴメン」
アタイはゆーっくり箱から出るとその場を立ち去ろうとして。ふと、ウサの落書きに目を落とす。
のろいのやかた、て書いとった。
それではまた……




