とある水棲生物の冒険
土曜日の20時更新です……
「まだまだ日差しがあっちっちだよ~!」
堤防の上から美味しそうな声が聞こえてくる。シロは川面から少し鼻っ面を出してクンクンします。
とても素敵なジビエの香り。うさぎさんだ!
まだ子供だけどシロはオオメジロザメ。お腹ペコペコだからこのチャンス、見逃さないよ。地上に向かって明るく声かけ。
「暑いなら川、入っちゃいなよーッ!」
反応がないー。相手のノリに合わせ過ぎたかな? チャラく思われたかも。
ちょっと不安になってたらキョロキョロしてる黒耳が目に入りました。シロがどこにいんのかわかんなかったみたい。
「こっちこっち~」
胸ビレをバチャバチャやると白うさぎさんが気付いてこっら見下ろしてキタ。
「誰ーッ?」
「イルカのシロです。初めまして」
「イルカ?」
「はい。まだ子供なんで小さいけど。それよりうさぎさん、暑いでしょ。川遊びしてかなーい?」
全然降りて来ないなぁ。思ったより疑り深いジビエさん。
「とっとこー。あいつイルカっつってるけど」
何だか覆面被ったちっこいのがもう一匹顔出してきたよ。クンクン、これってご馳走のハムスターさんじゃないスか!
「イルカって水族館で芸やってるコスいヤツだよね」
「ウシャしぇんぱい。あいつシャメでしゅ」
「え、サメって映画とかによく出て来るアレ?」
マズッ、正体バレちゃった。騙して水ん中引きずり込む作戦失敗。ん~、この後どしょっか……
「サメすげー! マジすげー!」
白いのが堤防をぴょんぴょん飛び降りてくる。どーゆー状況? コレ。
「サメってサ、何でも食べんの?」
目の前の獲物に逃げられたくないよ。シロは必死に正解を探ります。
「あ、ううん。今はビーガン食べてる……」
「ビーガンて何?」
今度は覆面がてってけ駆け降りて来る。
「完全菜食主義のコトでしゅよ~。しぇんぱい」
「つまんね! 映画とやってるコト違うじゃん」
ま間違えた? えとえと何て答えれば……
「船噛ったりサ、人間襲ったりサ、しないの?」
「えッ……うん。まだシロは子供だから」
思わず言い訳しちゃった。シロ、ダセー。
「あ、アレやってよ十八番の。アホみたいに大口開けて飛び込んでくるヤツ!」
「な何ソレ?」
「がばーッてアホみたいに!」
「こ、こう?」
ゆっくり水面から顔出してお口開ける。
ちゃぷん。カパ……
「違ああああああああああああああああううう!」
鼻っ柱、上から前足でごん! てやられたー。ここ弱点。
「ぐうぇっぷ……」
「もっと、こう……魂込めて来てッ。映画みたく!」
こ、こう?
ざばー。ガパー。
「もっと、血だらけの感じでッ!」
ザッパーン! ぐぅぱーッ!
「チビるくらいのヤツ、カマーン!」
ずぅわバァァァァン……ぐぅわばああああッ…………
何十回、やらされたかなコレ。気付いたらシロはプカプカ浮いてました。
「いい芝居だった小ザメ。この気迫、忘れんなよ」
うさぎ監督はそう言うと、いい顔して堤防を登ってった。後に残ったハムさんが小声で囁いてくる。
「今度ウシャしぇんぱいのコト食べようしたら……カマボコにしゅるから」
地上って怖い。
あったかい海に戻ろーっと。
それではまた……




