同担拒否の少女
土曜日の20時更新です……
三十分。それが限度ね。
この季節の活動限界時間。
茹だるような暑さの公園。の木の上でせらは身を潜めてるかしら。
一応日陰にはなってるけれど。熱中症のリスクを考えてストーキングにかける時間を三十分に設定してるのだわ。
ツインテメガネの女子小学生。瀬良じゅりあって先生やお友達は呼ぶ。夏休み中だけど。
せっかくたっぷりと趣味に時間を割けるってのに。誰もお外で遊ばない。せらの推しのウサ達も例外でなないはね。てか、暑いのダメだからあの子。
でもね。
待つのがストーカーのお仕事かしら。
カモフラージュ用に買ってもらった迷彩のワンピにリンとお揃のキャップを被って。今日もせらは推しを待つのだわ!
「水分は必要だと思う」
後ろで声がするのね。せらが振り返ると木の枝に一匹のリスちゃん。ちっちゃい麦わら帽子被ってヤクルト抱えてる。
「アナタ……シマちゃんね?」
「どうも。シマちゃんです」
そう言うとストローでちぴちぴヤクルト飲むシマちゃん。
「何でシマちゃんのコト知ってるの人間?」
「瀬良じゅりあ小三。ウサ関連なら何でもお見通しなのだわ」
「師匠の知り合いなんですか瀬良? いつも監禁場所の窓から瀬良が木の上とか植え込みの中とかベンチの下に潜り込んでんの見てたから遊びに来た」
推し(ウサ)被りってだけで戦争になりかねないこの界隈で。さらにせらをストーキングしてた?
「監禁場所って公園前のお家のコトでいいかしら?」
「オケ。シマちゃんを宝石のよーに扱う変態人間が住んでるトコ。何で知ってるの瀬良」
大切に飼われてんのね。せら調べによれば、この子は基本この家で飼われてるんで窓から見てるってのはホント。つまりストーカーじゃなくて只の覗き魔なのだわ。
同業者でなければ許してあげる。せらの背後を取った件ね。
「瀬良はいつも一人で隠れんぼしてて不憫だとシマちゃんは思う」
「優しいのね。でもアナタの世界から見るモノが全てでなくってよシマちゃん」
せらは太い木の枝に跨がりながら汗だくになってたかしら。そしたらこの子。
「コレ塩飴あげる」
おおおぅふ。
危ない危ない。お乳出るかと思ったわー。
まだこの子に気を許したワケじゃあない。せらは基本同担拒否だから。ウサ推しってだけでも敵認定していいんだけれど。
様子見してる。
出来ればもう少し距離を置いて観察したいトコかしらね。今、せらの目の前の枝に座ってるこの子。
近い…………
まともに目が合ったわね。よく見るとおてて器用なんだ。結構忙しなくヤクルト飲んでる。
……例のアレ。見たいのだわ。
頬っぺにどんどん食べ物詰めてくヤツ。
ホントにあんな滑稽なコトするのかしら?
せらはウサが働いてるパン屋さんのクッキーを常備しているの。ワンピのポッケから取り出したソレを細かく割って手のひらに置いて。
「良かったら、その……塩飴のお返し」
少しドキドキしながら差し出したわ。
「知らない人からモノもらっちゃダメって師匠が言ってた」
そう来たかー。
何かメタにもそんな指導してたかしらウチの推し。
とりあえず拒絶されたんで顔まっ赤っかのせら。一刻も早く、この場から逃げ出さないとッ。
「えとえとえと…………でも瀬良はもはや知らない人じゃないとシマちゃんは思う!」
そう言うと上手にクッキーをつまんでは、お口に詰め込んでくシマちゃん。
あっ、と言う間に頬っぺたパンパンのパン。
ちっちゃな麦わら帽子よか大きく膨らんだお顔。あの頬っぺには優しい気持ちもいっぱい詰まってるのだわ……
ぶぅわあああーッ、どぉばあああーって。
久々に吹き出たと思ったお乳。思わずペタンコの胸、両手で押さえたもの。
シマちゃん……………………
いい子!
「おふぅちふぁえるヒぃマひゃん」
スルスル~って木を降りてお家帰ってった。
せらも慎重に木を降りたかしら。そして総括するの。
今日もウサには会えなかった。別にリン家に凸しに行っても構わないんだけれど。今は大丈夫ね。
あの頬っぺたパンパン顔を思い出す。
心が笑顔になった。
それではまた……




