餃子とアイドル
土曜日の20時更新です……
普段は絶対ここには座らない。
中華料理のチェーン店の窓際の席。窓といっても足元から天井まであるデカいヤツで、外からは食ってるとこが丸見え状態。
生ビールと餃子ダブルをつまみながら。商店街を行き交う人達、逆に観察してみた。
元漫画家の里見洋介、現在はグループホーム職員をやっとります。あ、元漫画家という表現は正しくなくて。正確には〝カンバックを目指してる〟元漫画家です。
誰からも望まれてはないんですけどね。へへ。
企画を幾つか用意して。それからネームを何本かずつ切ってイケそうなヤツを持ち込みすっか、とか考えてたんですが。
何も浮かばね~!
驚きました。やりたい企画とか、ないんスねボク。そりゃ廃業するワ。こんなポンコツ。
家に居てもしんどいんで。
ネタ落ちてねぇかと思いながら、魚の死んだよな目して餃子食ってます。休日の昼間っから酒飲んでるだけの兄ちゃん。
「お?」
何か白いのがチラと視界の下……
足元を見るボク。
窓越しにウサが見上げてました。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、てな感じで。
餃子、パク、オッケー? みたいなゼスチャーしてますね。両手で大きくバツ印作るボク。「チェッ」て舌打ちしてきました。聞こえんだよ音。
何か振り返って手招きしとる。
商店街奥から人間並みのデカさのガリガリが走って来ます。白と黒の……パンダか、アレ?
『餃子は手に入ったのかい? ウサくん』
『ごめんパン田さん。里見がウンて言わない』
何やら打ち合わせを始めた白黒凸凹コンビ。パンダ、初めて見たけど。あんなガリっとした動物でしたっけ?
「な、何何?」
こっち向いて距離を取るパンダ。
いきなり前方回転受け身カマしてきます。そのまま両後ろ足を開いてストレッチの体制。そしてボクをじっと見る……柔道のデモンストレーションか何かですかこれ?
『パンダのでんぐり返しだーッ!』
小学校帰りの子供達のグループが遠巻きに叫んでますね。皆ガッツポーズしてる。
『里見さん、だったかなウサくん。彼は今、パンダのスペシャルパフォーマンスを堪能したんだ。もうわかってると思う』
何をだよ。餃子、欲しいのかコイツら。
『里見は鈍いトコあるから。見て、あの顔。何でオレが餃子やんなきゃいけないんだよ~て口とんがらせてる』
あ、とんがってた口。ハズい。
『信じられないな。パンダのでんぐり返しを見る為だったら、人生棒に振ってもいいって連中がワンサカいるんだが』
『里見は普通じゃないから。ペンネームに〝ずるむけ赤ちんこ〟ってつけてる変態漫画家さんです!』
ちんこ違う、ティンコね。周りに集まって来たオーディエンスに発表すんのやめてウサ。リーマンがスマホで検索始めたっぽい。
『パン田は夏バテ気味でね。高カロリーを補充しないと庶民に夢と希望を与えるという天分を全う出来そうにないんだ……クッ、一体どうすれば?』
バッてこっち向くうさぎ&パンダ。
「イヤ、知らねぇから」
ぎゃああああああって癇癪起こすウサ。何か久々に見たけどオモロいです。
『もう店入ってって里見の餃子、口一杯放り込んで逃げちゃお!』
『それはムリゲーだウサくん。パンダはね、一番星の生まれ変わり。アイドルとして皆の規範となる存在でなければならない』
『ケーサツに追われてるからホシなんだ』
間髪入れず『ランチの予約を思い出した!』と叫びながら走って逃げてくパンダ。
ウサが嬉しそうに後を追っかけて行きます。
オーディエンスが散り散りになる光景を見つめつつ、残りの餃子をビールで流し込むボク。
ゆっくりとスマホアプリを立ち上げると〝暴露系うさぎとデスペラードパンダ〟のキャラデザインを始めました。
とりあえず企画一つでけた。
それではまた……




