真昼の決闘
土曜日の20時更新です……
「何か……来そうな気がするわ」
ふと、予感がして新聞読む手が止まったの。
お昼前、誰も居ない客待ちのソファーで寛いでいたんだけれど。第六感て言うのかしら。私、鋭いのよそれ。
シャンプー台上の鏡に映るスキンヘッドの中年男。うん、今日も油ギッシュだわね私。
カランコロ~。
お店のドアが開いた。
「こんにちはー。やってますか?」
来たわね!
筋肉パンプアップしたトイプードルが下から覗いてくる。その後に白うさぎとモモンガもちょこんと顔を出した。
「散髪お願いします。ご主人」
三匹はてててとお店のバーバーチェアに座ると、それぞれが鏡の前に百円玉置いたわ。
色々と間違ってるんだけどアナタ達。
特にテディベアカットのトイプーちゃん……
トリマーんトコ行きなさいよ!
ウチ、床屋さんだからねーッ。あと何で毎回百円出してくんのかしら? 一応カット代三千円頂いてるんですけどーッ。
「テディベアカットでお願いします」
知っとるわッ。アンタらが来るようになって勉強したわトリミングの。
「耳んトコ、自然な感じで」
うさぎちゃん、いつも同じ注文すっけど。自分でグルーミングすれば? 片耳を両前足で挟んで、こう、なでつけるヤツ……ティモテって言うの。やれば?
「モテるよーにして」
アンタが一番ムズいわモモンガ。ハサミ入れるとこある? これ、このちっこいオツム。
まぁ、こっちもプロだからさ。やるわよ。まな板の上に乗っかっとるし。
まずはモモンガねー。
「彼女募集中なのかしら」
「うん、ムササビの京子ちゃんにフラれちゃったの。オレ結婚焦ってる」
「いきなり結婚?」
「だよー。モモンガの平均寿命五~六年だから」
ちょっと泣きそうになった。とりあえずラインカットバリカンでオデコにハート入れといたわ。
「ヤベッ、これ凄! モテモテじゃね?」
むっちゃ喜んどるー。コラコラ、店ん中滑空すんのやめてえ。
次はうさぎちゃん。
「短毛なのよね~耳……」
「リンが、お金出すんだからしっかり仕上げてもらいなさいって言ってた」
ふうう。この子だけ飼われてんのよねー。ま、どの子が相手でも手抜きなんてしないけど。例えそれが百円であったとしてもよ!
黒耳の中っ側の毛が割と長いから……フワッとした抜け感出してみた。うん、いいんじゃなーい?
「いいと思う」
冷静なのが怖い。つか、あんま興味ないんじゃないのこの子。つき合いで来てる感あるし。
そして最後ね。
コレが厄介よ。トイプーのテディベアカット。トリミングサロンなら一万は頂戴するらしいけど。私は百円でやるの。
「筋肉のカットが映えるよーにお願いします」
礼儀正しいけど凄い注文つけてくるのよ。この子マッチョが売りみたいだから。
床屋なんだけどね。何か全身やらされてる。
トリミングは毛が逃げないよう切るのが基本。だから人間用とは研ぎを変えてる。刃角鋭く、切れ味抜群のハサミよ。
これで、ひたすら切る!
チョキチョキチョキチョキ……
異常に発達した上腕頭筋から広背筋にかけてのイカついライン。ふふ、嫌いじゃないのよマッチョは。
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ……
「…………如何かしら」
「素晴らしいです、ご主人。私のアピールしたいパーツのカットが綺麗に出てるぅ!」
お気に召したようね。
待ちくたびれてモモンガとうさぎはソファーで寝ちゃってるけど。トイプーは彼らを優しく起こすと丁寧に礼を言って出て行ったわ。
私はスキンヘッドの汗を拭うと再び新聞を広げて読み始めた。
気分を新たにして午後からの営業に備えないと。
お昼ご飯は、抜きね!
それではまた……




