吸血鬼も似たような苦労してると思う
土曜日の20時更新です……
「ウ ~サ~くん。あ~そ~ぼ」
玄関の方からウサを呼ぶ声がする。トイプードルのロッキーかモモンガのヨースケくんが遊びに来たのかな。
でも、何か……しわがれてない? 声。
タンクトップに緑ジャージの部屋着で寝っ転がってた私。気になったんでドアスコープを覗いてみる。
七十代位のおじいちゃんが立ってた。
見た目は中肉中背で普通っぽい。こざっぱりしたカッコの、どこにでもいるおじいって感じ。
でもね、ひとつだけ。どう見ても普通じゃなかったんだ。
鼻、長ッ!
二十センチ以上あるよこれ。
私は部屋の奥でスマホ(私の)弄ってる白うさぎの元まで走ってく。
「ウサウサウサウサ!」
「どしたのリン?」
「お友達にサ、ピノッキオ関係……いる?」
「いないよー」
「だよねー」
ウサの両耳がピコーんてなった。ヤベ、玄関にオモシロ案件あるってバレたか。
かっ飛んでくウサ。玄関をバッて開ける。
「うわ、ピノキオだピノキオだピノキオだアアアアアアッ!」
うちの子、いきなりのテンションマーックス。
ピノキオってホントいたんだー。マジ人間にしか見えん……つか、ピノキオも年食うんだっけか?
「やっぱお友達? ウサ」
「知らなーい」
正体不明のUMAがウチの玄関に来てますッ!
チュパカブラ系のヤツだ多分。長い事血吸ってなくてシワシワなってんの。きっと、そう!
「ウサよ。ワシの事もう忘れたんか?」
「うん。忘れたー」
「つれないのォ。高尾山で散々世話してやったろう」
「高尾山、じじいだらけ!」
「それ登山客じゃ。ワシ、今はじじいのなりしとるがな。山では山伏の装束に高下駄履いてうちわ持っておったであろう」
「ハイハイ! えー、赤い顔! おっきい人! 羽根生えてる! 空飛ぶ!」
情報多いな。でも流石に今ので私にもわかったよ。このおじい天狗だ! いるんだね天狗。高尾山てウサがダイエットで山籠りしてたとこだけど。
「娘~」
「え? あ、ハイ。私スか?」
「邪魔してもよいかのぅ?」
とりあえず部屋の上座にお通しする。
ウサはおじいの鼻と股間を見比べるのに忙しい。やめてくれハズいから。
「粗茶です」
タンクトップでオレンジジュース出す私。おじいは「え?」みたいな顔してたけど。飲みモンこれしかないですウチ。
「あの……何でおじいちゃんの格好なんです?」
「擬態じゃよー。バリ天狗のカッコで電車乗ってみい。〝ガチ勢のレイヤー移動なう〟とか呟かれるから」
「空、飛べばいいのに」
「神通力は山ん中でしか使えん設定にしとる。ワシ、チートとか嫌いじゃ。あとピノキオと比較されんのNGなんでヨロ」
何か…………話しやすいのにちょいイラつくな~。
ウサは股間チェックが済んで鼻が長いだけのおじいに飽きたみたい。もうスマホ弄ってる(私の)
「ところでなウサ。山でお主のウェイトを削ってやったろ神通力で」
そうなんだ!
たった半日で体重元に戻して帰って来たから、おかしいなーとは思ってたけど……
「約束の対価。もらい受けに来たぞぃ」
「対価って何? ピノキオ」
おじいがこっち睨んでくる。何で私?
「……ウサ、その人ピノキオ違う。天狗さん」
「天狗って何ー?」
ウチの子、天狗知らない件が判明。つか、私も何となくしかわかんないです。
「このおじいと山で何か約束したの?」
「約束はしたよリン。ダイエットさせてくれたら……」
「うん。くれたら?」
「鼻、折るって」
一瞬、ド変態かと思ったけれど。
天狗の鼻を折る。
よく言うヤツだこれ。しかも本人の希望て。
でもこの天狗、どっちかっつーと普通だよね? 偉そうな感じしない。逆に空気読んでるっぽいし……
「天狗はな、その時代時代に合うた生き方をする為に常に鼻をへし折られ続ける必要があるんじゃよ。此奴はワシの鼻を折る前に走って逃げよってな」
「だって、面倒くさいぃぃぃぃぃ!」
ウサが部屋の端から端をゴロゴロ転がって愚図る。
おじいがまたこっち睨んできた。イヤ、知らないよもう。こーなったウサは手に負えないんだから。
「娘~。別にお主でも良いから。ひとへし、やってくれんかのう」
ひと揉み、みたいに言ってきた。マッサージ感覚なのかおじい。
「ゴメンなさい。ムリ」
「娘はウサの主人であろう。ならば責任取ってもらおうか。ホレ、ひとへし」
「イヤです」
「ひとへし」
「ヤだ」
「やってくれるまで帰らんからな。うハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
はああ。思わず溜め息つく私。
「時代にへつらってまで長生きとか…………無いわ~」
おじいの鼻が、ポキーんて折れた。
それではまた……




