届かぬ想い
土曜日の20時更新です……
ウサくんが興奮状態だ。
別に珍しいコトではないけれど。私の勤める犬カフェまで来て騒ぐのは初めてかな。
ちょっとお客様も戸惑っているね。白うさぎがいきなり飛び込んで来て狂ったよーに「いいね! いいね!」とか叫びながら店中転げ回ってるんだから。
「ウサくん。接客中なんだが」
「ロッキー! い……いいねがッ、いいねがッ!」
耳から少し煙が出てる。
私は落ち着いてテーブルを振り返ると年配のご婦人に声を掛けた。
「麗子様。友人がピンチなので五分ばかり退席する許可を頂きたいのですが」
「ダブルバイセップス・フロント」
私は上腕二頭筋をアピールしてみせる。こっくり頷く麗子様。この方は前面の筋肉がお好きなのだ。
マッチョトイプードルの私、ロッキーはこの店のナンバーワンだから。急いでテーブルに戻らなければいけない。
そそくさとウサくんを連れて店の裏へ。
「落ち着いてウサくん。いいねがどーしたんだい?」
「スマホ、ロッキーのスマホ、ライーン送ったから!」
路肩にウサくんをお座りさせると私はスマホをチェックした。リンさんからスクショ届いてるね。まぁ、いつもリンさんのスマホでウサくんが送ってくるワケだが。
「久しぶりにスマホ見たらッ……アイちゃんから、いいね来てた!」
なるほど。コレ呟きの画面なんだ。確かに来てるね。ウサくんが夢中になってるアイドルグループのアイちゃんがいいねしたって証拠のスクショ。
わざわざ、さっき送ってくれてるんだけど。その上で凸しに来たのかな。
「それ、それな! グループ解散前のテレビ生ライブでアイちゃんスゴかったから。僕、呟いてん!」
関西弁出ちゃってるよウサくん。伊吹山って関西なんだ。
そう言えば……グループ解散するんだっけ?
「アイちゃんの呟きに僕がリプしてもろーたいいねやなくってえ。ぼ・く・が、呟いてアイちゃんがいいねしてくれたヤツやねん!」
うん。何が違うのかよくわかんないけど。とにかく価値あるいいねなんだ、きっと。
私のカワイイ友人が「奇跡やん、奇跡やん」て騒いでいるうちに。先程一瞬だけ頭を掠めた疑問を処理してみるコトにした。
…………いつ解散だっけ?
「六月。東京ドームで解散やで!」
「えっ……あ、うん。そか、東京ドームでね」
「うん。僕、お金無いから行かれへん! でもな、アイちゃんが最後までキラキラでいられるよーに毎日祈ってます」
あ。
もうダメ…………
関西弁だと攻撃力アップするのか涙腺が崩壊寸前だ。
「ぐふぅッ、ウサくん。悪いけどテーブルに戻る時間でね……」
「うん、おおきになロッキー。僕、この感動をお友達にどーしても伝えたかってん!」
ウサくんは私にぎゅっとハグしてから稲妻のよーに走ってった。
「…………少しパンプしてから戻ろう」
プッシュアップをしながら。
何だか涙が出て止まらなかった。
もう七月の一日なんですけどー。
それではまた……




