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公園の植え込み攻防戦~キツネとリスとX~

土曜日の20時更新です……

 紫陽花の花が小雨に打たれてる。


 余りにも絵になっとったから。柄にもなく「もう梅雨かぁ」て独りごちてみた。

 

 公園の植え込みに住んどるからお前も雨でずぶ濡れやろキツネ、て世間様には思われてる?


 イヤ全然やねんな、それが。だってお稲荷さんの信者が植え込みに何本も傘広げて差してくれとるから。雨に濡れんで済んでますわー。

 

 ワシは寝そべりながら右前足の蓋パカッて開ける。


 今日の義手はステンレスボトルや。大好物の冷たい甘酒をゴクゴクやる。ぷぅはあ~、旨ッ!


 ふと、故郷の伊吹山から出て来て一緒に公園暮らし始めたかめ丸のコトを思う。アイツ冬眠から覚めてすぐ旅に出てしもた。嫁さん探すとか言うて。亀のクセに発情しやがって、なー。


 あんなんでも居らんと寂しいもんで。


「かめ丸……」


「かめじゃないと思う」


 ぎょっとして隣を見る。何か知らんヤツ座ってますけど。


 ……リスやなコイツ。


「ここワシの寝床」


「カリカリカリお邪魔しますカリカリ」


 むっちゃカリカリしながらリス。何かの種みたいなん食うとる。


「この公園。こじんまりとしてていいトコだと思う」


「…………三助やけど」


「あ、シマちゃんです。生まれた時から人間にずっと軟禁されてた」


「はいぃ?」


「ずっと部屋に閉じ込められてた。人間の居ない時はケージから出してもらえない日々」


 ペットってコトやね。


「コレ。人間からの支給品」


「種か。好物?」


「うん。今日脱走する時頬っぺに詰めてきた」


 家出したペットやんけ。しかもややこしい。


「……ご主人様が探してんちゃうの?」


「ご主人様じゃなくてただの人間だと思う。シマちゃんを閉じ込めて王様のように扱う変態人間」


 いい飼い主っぽいけど。


「シマちゃんは窓から眺めてたこの世界に初めて足を踏み入れた。キツネと亀が住んでるなーっていつも見てたこの公園」


「どっから?」


 向かいの二階建て一軒家を指差すシマちゃん。


 家出ペットの家出が外出やったコトが判明。とりあえず甘酒を一口啜るワシ。

 

「あ」

 

「どしたシマちゃん」

 

「この時間、人間と録画した深夜アニメ毎日観てた」

 

 今、平日の昼間やけど。飼い主さん夜の仕事してんのか。

 

「夜はドラマとかリアタイで観てた」

 

 ヒマを持て余した専業主婦か。

 

「夜中はオンラインゲームしてた」

 

 引きこもりニートの線出て来た。もしくは引きこもり専業主婦。

 

 少しフリーズしてんなシマちゃん。

 

「どした?」

 

「うん……アニメの続き、気になってた」

 

「帰った方がええんちゃうか。雨降ってるし人間も心配しとるやろ」

 

「え? シマちゃんは帰ったりしないと思う。だって今日からここで三助と暮らすんだから」

 

「はあああああああああああああああッ?」

 

「毎日三助がダラダラしてんの見てたから大丈夫だと思う」

 

 ヤバい。のぞき魔でKYの小動物にロックオンされてしもたワシ。

 

 どないしよ。逃げるか?

 

 それとも……

 

「さ~ん~す~け~く~ん、あ~そ~ぼ~」

 

 植え込みの外から聞き慣れた声。ウサや!

 

 ガサガササ。

 

「お、お~ウサか」

 

「ヒマだから水溜まりで転がりあいっこしよ三助……」

 

 ガチャン、て音聞こえた。ウサがワシの後ろから顔出してるシマちゃんにロックオンしたんがわかった。

 

「あーッ! リスさんだあああああああああ!」

 

「こ、こんにちはうさぎ」

 

「頬っぺ! 頬っぺに何か入れてる?」

 

「え? うん……ひまわりの種を少し」

 

「食べてッ! オモしろオカしく食べてみてッ!」

 

 これがホンマもんの野性のクレイジーKYやでシマちゃん。いっぺん食い付いたら離せへん。骨の髄まで飽きるまでしゃぶり尽くす。それがウサや!

 

 ……シマちゃん頑張って種食うとるわー。「忙しなく動いて!」にもキチンと対応しよる。素直な子。


 あ、気に入られたな。


 家に来いて誘われてるで……イヤ、こっち見んなて。ワシ関わりたぁないから。

 

 …………何かアニメの話で意気投合してます。

 

 スンゲー盛り上がってるやん。ジャンプ系アニメ命とか二期待ちきれねーとか叫んどる。お、シマちゃんウサのコト〝師匠〟って呼び出したで。

 

 アニメ一緒に見よ、てなって…………向かいの家仲良う入って行きよったがな。


「毒を以て毒を制す、かぁ」

 

 小雨の降りしきる中、ステンレスボトルの義手を天にかざしてみるワシ。


 自由に乾杯。

それではまた……

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