ウサ、悪夢の職務質問 ~起死回生~
土曜日の20時更新です……
「……持ってない」
うつむき加減で答える僕。
「はい。じゃちょっと、交番まで来てもらえますか」
眼鏡の警官が言う。リンの為に早く買い物しないとなのに。何で邪魔すんの? 意地悪が好きなの?
「はああ……無いわ~コイツ」
「は?」
「ムリ」
「はい?」
うつむいたまま首横に振って。じり、じり、と後退る僕。耳が斜め後ろにピーンてなってる。
「リンが待ってるから……早く買って帰らないと安心出来ないから」
「イヤ、だから交番にね」
「動物虐待」
「へっ?」
「ペットが健気に飼い主のお使いしてるの阻止するってSNSで拡散します」
「何言ってんの君」
僕の頭はうさぎの基本プラン『逃げる』の一択でフル稼働してた。どしたらこのピンチからうまく脱出出来んのか?
ヘビ、キツネ、ワシと渡り合ってきたスキルの全てを賭けて、ちっちゃな脳ミソが出した答え。それは……
ヨクワカンナクナッタカラ。トリアエズ逆切レ。
「陰キャのポリ公がなアアアッ。権力振りかざして小動物イジメてんじゃねーゾ!」
やってやるッ。
小動物なめんなよ。いつでも入る(保健所)覚悟出来てんだこっちは!
「……とにかく、来なさい」
ざさッ!
警官の出した右手をステップバックで躱す。反射的に耳からナイフを抜こーとした瞬間、
ふわっ……と。
後ろからよく知ってる手で抱きかかえられた。
「スイマッセーン。うちの子が外、出ちゃったみたいでぇ~」
リンだ!
部屋着のまま来てくれてた。髪の毛ボッサボサ。
「あ、あなたのペット? どちらにお住まいで?」
「そこのマンションです。501号室。確認します?」
リンの慌てて来た感じ見て警官は納得したみたい。
「気をつけて管理して下さい」とか言って。自転車乗って帰ってく。
無言で、警官の後ろ姿を見てるリンと僕。
お使いが出来なかった申し訳なさと警官に対する怒りとで、僕はぷるぷる震えてた。
リンはポッケからスマホを取り出すと
「ベランダからね。武器的なモノ持ってます? のとこまで撮ったから。職質動画で晒すかな~」
悪そーな顔で微笑みながら僕を覗き込む。
目の下にクマが出来てる。
ぎゅうう、てリンの部屋着の袖握ったら何か涙が出てきた。後から後から涙が出てきた。
「泣かなくていいよ、ウサ」
リンは袖で涙を拭いてくれて。こう言ったんだ。
「行ってらっしゃい」
あ、行くんだ。
それではまた……




