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八月の時 修正版 第1話

ホラーではありません。



オレンジ色の街灯に照らせれながら134号線を北上する。


 この時間でもこの道は交通量が多い。

季節は8月、海に繰り出す若者が目立っていた。


 GPSに表示されている時刻は、既に深夜0時30分を過ぎている。

運転手である高木尚哉は、このドライブには乗り気ではなかった。


 車中には高木を含め5人。

乗用車の中では、少しばかり狭いと感じる。


狭いだけではない。

高木にとって現在の状況は仕事よりも気を使った。


男2人に女性が3人。 


 この構成であれば後部座席に女性3人のはずだと思った。

実際は、会社の後輩である倉沢武が後部座センター。

去年入社の本庄麻美が後部座席右。後部座席左が本庄の友人である女性。

助手席には、これまた本庄の友人の女性。


倉沢、本庄以外は高木は初対面である。


「そうそう、大学では何を専攻してるんだい?」

高木は当たり障りの無い話題で助手席に声を掛けた。


 先程から助手席の空気が落ち着かない。

それは自分にも原因があると高木は思っていた。


高木は若い女性との会話が苦手なのである。


 本庄麻美とは仕事上の付き合いでもある為、問題はない。

大学生と聞くだけで、本庄とのようには話題が続かないのである。


「……ドイツ語とフランス語を……」助手席から声が聞こえた。


前部座席の静かな会話を麻美の苦情が遮る。


「座席配置がおかしいですよ!」麻美は頬を膨らませながら運転席のヘッドシートを掴む。


 その苦情に対し、冷静な返答したのは倉沢武だった。

倉沢は今年26になる。高木の部下であり、冷静沈着で計算高い面もある。

恋愛については、計算が出来ない人間でもあった。


「高木さんの隣には、かわいい女性に座って貰うべきだろ?」

倉沢は上司の為だと言い張る。


話を聞きながら高木は左手でハンドルを操作する。


「倉沢さん、悪いんですけど私も同い歳です」

ヘッドシートから手を離した本庄が、ドアに肘を置いたまま抗議する。


「そして私達が後部座席なのは、容姿という一点での事になりますよね?」

本庄は右手に広がる黒い海面を眺めながら話す。



 高木はこの押し問答の勝敗は、最初からわかっていた。

倉沢が座席配置を提案した時、既に倉沢の魂胆は失敗していたのである。

失敗を予見した高木は、酔いやすい人を前にと提案した。


 倉沢のごり押しで、高木案は否決されてしまった。

高木は、本庄が車酔いしない事を知っていたのである。


後部座席では本庄の友人も加勢し、倉沢は身振りを交えた被告人弁論を展開する。


 高木は倉沢の麻美への恋心は知っていた。

だから自然な形で後部座席へ行けばよかったのだと思っていた。

助手席の女性は、見るからに乗り物は苦手そうに見えた。


麻美達は倉沢の被告人弁論を楽しんでいるようだった。


「26にもなって大学生に弄られるなよ」高木はハンドル握りながら呟く。


「面白い人ですね」手で笑いを抑えながら笑顔で言った。

助手席の女性は高木の呟きが聞こえたのであろう。


倉沢の喜劇で車内はやっと和やかな雰囲気に変わっていた。



「高木さん、次の細い路地を左折です」麻美がヘッドシートに飛びつきながら指示を出した。


 ウィンカーを出し、指定された路地へ左折する。

急に曲がった為、しがみついていた麻美が運転席と助手席の間へと態勢崩す。


「高木さん……痛いです……」麻美は変な姿勢から高木に顔を向け、苦笑いをしていた。


「そうか? まぁ適度にね」高木は麻美の頭に左肘を乗せながら答えた。


車は細い住宅街の坂道を登っていく。


 滑り止めの舗装をされた道の両脇には一見してわかる高級住宅が並んでいた。

道はカーブが多く、目的地は見えなかった。



遥か先、小高い山と暗闇に包まれた森が見えるだけだった。

ここまで読んで下さってありがとうございます。



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