公爵令嬢でも悪役令嬢でも身分の高い令嬢でもない私は王子様に好かれました
私がこの大きなお城にいる理由。
それは二つあります。
一つ目、それは私が気に入られたからです。
誰にって?
それは王子様です。
二つ目、それは私が身分の低い人間だからです。
私はこの世界では身分の低い人間として扱われています。
この世界ではそうです。
しかし私はこの世界の人間ではありません。
私はピチピチの女子高生だったんです。
それなのにある日、私は車に引かれそうになっている男の子を助けようとして私が車に引かれました。
目を覚ますと私はこの世界の道端に倒れていました。
見たこともない不思議な世界に私は夢かと思いましたが誰かに小石を投げられその小石が当たった所が痛かったので夢じゃないことは分かりました。
小石を投げてきたのは小さな妖精さんでした。
可愛い妖精さんに目を輝かせながら近づくと妖精さんはいきなり私と同じサイズの人間になりました。
イケメンの妖精さんです。
しかし、イケメン妖精さんは私の世界にいるような男子とは違います。
まるで外国人のように鼻は高く。
まるで女の子のような長い睫毛とくっきりとした二重。
まるで細い糸のように細くさらさらとした金髪の短髪。
そして私より高い身長。
引き締まった体。
それはもう、完璧です。
私はイケメン妖精さんと過ごすことになりました。
その妖精さんにこの世界のことを聞きました。
この世界には意地悪な王子様と優しい王子様がいるそうです。
優しい王子様はとても優しく国民に慕われています。
しかし意地悪な王子様は国民に嫌われています。
その二人は王様から好かれており、どちらが王様の後を継ぐのかで争いが起きているみたいです。
そんな事は私には関係ありません。
だって私はイケメンの妖精さんがいれば良かったからです。
それに私みたいなこの世界にきたばかりの人間にとってそんな事は興味がなかったのです。
毎日、楽しくイケメン妖精さんと過ごす事が私の幸せです。
しかし、最近の彼は暗い顔ばかりしています。
「どうしたの? 最近は暗い顔ばかりね」
「君には秘密にしておこうと思ったんだけどいつか言わなければいけないから今、伝えるよ」
「何? 怖い話なの?」
彼の顔は暗く険しい顔です。
私が怖くて彼の話を聞きたくないと思うほど彼の顔は言いたくなさそうにしています。
「俺は王子様から兵士になれと手紙がきたんだ」
「えっ。王子様?」
「そうだよ。意地悪な方の王子様からね」
「嘘。ダメだよ。兵士になんてならないよね?」
「仕方ないよ。王子様の命令だから」
彼は諦めた顔で言います。
私も彼の気持ちは分かります。
意地悪な王子様の命令を聞かない人は残酷に殺されてしまうと噂で聞いたからです。
それでも私は諦めることができませんでした。
こんなに優しい彼が、この世界の事を知らない私に色んな事を教えてくれた彼が兵士になって死ぬかもしれないのです。
命令を聞いても死ぬかもしれない彼に私は諦めることができませんでした。
どちらも死ぬかもしれないなら私が意地悪な王子様に言ってやろうと思いました。
そして私は意地悪な王子様のお城へ向かいました。
彼には秘密です。
「すみません。王子様にお会いしてお話があるのですが?」
私はお城について門番さんに言いました。
「はあ? お前、階級は何?」
「階級? ですか?」
「お前の階級はないだろう?」
そう言えば彼に一度、階級の話を聞いたことがありました。
階級はピラミッドのようになっており、上に行くごとに人数は少なくなります。
一番上は王様や王子様。
その下に王族がくる。
そしてその下にお金持ちの人達、裕福層。
その下がお金持ちの人達に物資を与え、少し利益をもらえる中裕福層。
そして一番下が自給自足をしながら生活をしている自己層。
そのピラミッドにいる人達には国からバッチを与えられそれをつけて過ごしているのです。
私にはそのバッチはありません。
だって私にはこの世界で産まれた訳ではないのでいない人間だからです。
しかし、私みたいにバッチがない人はいます。
彼らは親がいない子供達です。
彼らは親に捨てられたり、親から奴隷として人に売られたり、そんな子供達は大人になってもバッチはありません。
一生を奴隷として過ごすからです。
この世界は身分がないと生きていけない世界なのです。
だから彼は私を家から出そうとはしませんでした。
でも、今は家から出て彼を救いたいのです。
「何をしている」
いきなり私の後ろの頭上から男の人の低く機嫌の悪い声がしました。
「それがこの女が王子様と話がしたいと言っておりましたので無理だと伝えた所です」
私はゆっくりと振り向きました。
するとそこには見上げないといけないほど身長の高いこれまたイケメンな男性が立っていました。
イケメン妖精さんの彼に負けず劣らずイケメンです。
彼と違う所が目は少しつり上がっていて少し目付きが怖いです。
鼻は彼と同じように高く。
何故か口元は片方の口角が上がりニヤリとした顔に見えますが、髪の毛も彼と同じでさらさらで色が私と同じで黒いです。
やはり引き締まった体は高級そうな服の上からでも分かります。
このイケメンさんは誰なのでしょう?
「どうか私に王子様とお話をさせて下さい」
私はそのイケメンさんに頭を下げました。
そんな私に門番さんが焦って私の腕を引っ張ります。
「痛い」
「おい、離せ」
イケメンさんは痛がる私を助けるように言って門番さんを睨み付けます。
空気が変わりました。
門番さんの緊張感が私の腕から伝わります。
門番さんの手は汗ばんでいたからです。
「おい、女」
「はっはい」
「王子に会ったら俺のモノになれ」
「えっ」
このイケメンさんは何を言っているのでしょう?
私がイケメンさんのモノになれとは?
どういう意味なのでしょう?
「おいっどうなんだ?」
「えっと、あなたのモノになれとはどう意味でしょうか?」
「そのままの意味だ。お前は一生、俺の隣にいろって事だ」
「それは、その、えっと」
「お前に選ぶ権利はない。何故なら俺がその王子だからな」
「えっ」
王子様?
だとすると私は王子様に会っているのだからさっきの俺のモノになれは確定ですか?
待ってよ。
私には彼がいるんです。
「さあ、中に入れ。お前は今日からこの城の主のメイドだ」
「メイド? 俺のモノとはメイドのことですか?」
「そうだ。お前みたいな変な奴がいればつまらない毎日が楽しくなるだろう?」
「無理です」
「はあ? お前に選ぶ権利はない」
王子様は機嫌が悪い顔で私を睨み付けます。
私は殺されるかもしれないです。
どうしよう。
私は何も言えなくなりうつむいてしまいました。
すると王子様は乱暴に私の腕を掴み引っ張ります。
私がバランスを崩しかけた時、王子様は私を横抱きにしました。
顔色一つ変えずに私の体を持っています。
私はお姫様抱っこをされて何処かへ連れていかれます。
王子様の顔を見上げても王子様は前を見たまま表情から気持ちは読み取れません。
少しして一つの部屋に入りました。
王子様は入ってすぐに鍵を閉めました。
ここが何処なのか私には分かりません。
私はキョロキョロと部屋中を見回します。
王子様は私をソファに座らせ王子様はソファの前にある大きな机と立派な椅子がある所へ行き、椅子に座ります。
「それで話って何?」
王子様は机に足を乗せ私に言いました。
「えっと、妖精さんの兵士になる話をなかったことにして下さい」
「妖精? あ~それは無理だね」
「どうしてですか?」
「あの妖精は魔法が使えるから戦力になるんだよ」
「でも他の人がいませんか? 私は彼と一緒にいたいんです」
「他の人にしてもいいけど君はそれでいいと思う? 他の人が君のせいで戦争で死んでも何とも思わない?」
王子様は私を鋭い目で見つめます。
王子様には分かっているみたいです。
私が望まない事を。
「ヒドイです」
「君の為に教えてあげただけだよ」
「私はここに来た意味がないので帰ります。彼が兵士になる前まで一緒にいたいので」
私は立ち上がりドアへ向かいます。
鍵がかかっているので開きません。
内側のドアなのに鍵穴があります。
「開けて下さい」
私は王子様の方を振り向いて言います。
「無理だよ。君はもう、この城から出る事はできないよ」
「どうしてですか?」
「だって君は俺に会ったら俺のモノになるってなったじゃん」
「それは王子様が勝手に決めた事ですよね?」
王子様は私の前に立ち私の顔の両側に手を置き、少し屈んで私に目を合わせます。
その顔は意地悪な王子様の名前の通りに片方の口角を上げニヤリとしています。
私は逃げられないのです。
「君は俺のモノ。君は俺の言うことを聞いていればいいんだ」
「あなたがヒドイ人なのは知っています。だから私はあなたの言うことを聞きます。でも心はあなたにはあげません」
王子様はそんな私の言葉に目を見開いて驚いた後、私にキスをしました。
そしてニヤリと笑って私に言いました。
「お前、面白い。メイドじゃなくて俺の婚約者にしてやる」
私はその言葉を聞いて足に力が入らなくなりズルズルと座り込んでしまいました。
その時、王子様にはバレないように少し泣きました。
悔しくて。
◇
それから私の生活は激変しました。
毎日がつまらないです。
毎日、部屋から出る事も許されず窓から外を見るだけです。
彼に私は大丈夫だと伝えなければいけません。
その日、王子様にお願いしようと思いました。
「王子様。お話があるのですが」
「ん? 疲れてる」
王子様が私の部屋へ来たと同時に座る間もなく私は言いました。
王子様は疲れた様子で機嫌が悪いようで私を睨み付けます。
「しかし、私は彼の事が心配なんです。彼は今も私を探しているのかもしれないので」
「だから疲れてるって言ってるだろう」
王子様は私の話なんていつも聞いてくれません。
でも今日は負けません。
彼に私は大丈夫だということぐらい伝えることはできるでしょう?
誰かに手紙を書かせて送るだけなんだから。
「彼は私を助けてくれたんです。そんな優しい人が私の事を心配しない訳がないんです。どうか彼に私は大丈夫ということだけでも伝えて下さい」
「うるさいって言ってるだろう」
王子様はそう言って私にキスをしてきました。
まるで私を黙らせる為にするキスは何の感情も感じ取れません。
苦しくなって王子様の胸を叩けばやっと離してくれました。
私は泣いていました。
私の泣く姿なんて王子様には見せたくありませんでした。
私の弱い所を見せたくなかったからです。
王子様はそんな私を見て驚いた後、自分の親指で私の涙を拭いました。
とても悲しそうに見える王子様。
どうしてそんな顔をするのでしょう?
私には王子様の気持ちが分かりませんでした。
「あいつの話はこれからするな」
王子様はそう言って私の部屋から出ていきました。
あいつとは彼の事でしょう。
これで彼に私は大丈夫だと伝えることができなくなりました。
やっぱり王子様は意地悪でヒドイ人です。
◇◇
彼の事が心配で眠ることができない日々が続いたある日のことです。
王子様がいつものように私の部屋に来て嬉しい言葉を言いました。
「明日、あいつが兵士としてこの城に来る」
「えっ彼が」
私は嬉しくて彼と言った後に口を抑え王子様を見ました。
だって彼の話はしてはいけないからです。
でも王子様は怒る事もせず無表情です。
怒っていないのだから大丈夫なんだと理解しました。
「でも、会って話すのは禁止だ」
「えっ」
「お前は俺のモノだ。他の男と話していい訳がない」
「分かりました」
私は落ち込みながら答えました。
話してはダメでも見てはダメなんて言われてないので明日は彼を見つけようと心に決めました。
「何を考えている?」
「えっ」
「最近は顔色が悪かったが今は嬉しそうだ」
「当たり前です。明日、私の心配はなくなるんですから」
「そっか。君が元気になるなら良かった」
王子様はそう言って私に笑いかけました。
初めて見る王子様の笑顔はなんて美しいのでしょう。
私は不覚にもドキドキしてしまいました。
そんな王子様を見ても意地悪なのは変わらないのです。
◇◇◇
次の日、兵士として呼ばれた人達が沢山お城を訪れました。
私は一人一人を窓から見ていました。
彼を探していたのです。
すると彼がいました。
やはり彼はいつ見てもイケメンです。
今日は訓練をしている兵士達を窓から見ました。
いいえ、彼だけを見ていました。
一生懸命に頑張る彼の額から汗が流れているのが見えます。
その汗をタオルで拭いてあげたいと思いました。
近づくこともできない。
見ているだけ。
その日の夜のことです。
窓ガラスからコンコンと音がしたので私は窓を開けました。
すると光る小さな物が部屋へ入って来ました。
そしてそれは私と同じくらいの大きさになりました。
彼です。
「心配してたんだよ」
「私もよ。あなたに大丈夫だって伝えたかったの」
「何もされてない?」
「まあ、一応はね」
「俺は君を助けに来たんだ」
「どうして? そんなことがバレたらあなたは殺されちゃうよ?」
「でも俺の為にここにいる君が可哀想だから」
「私は大丈夫だからあなたはあなたの人生を楽しんで」
「俺は君といる方が楽しいんだよ」
彼はそう言って私を抱き締めます。
暖かい彼の腕の中は王子様とは全然違います。
「おい、今日はどうだったか?」
いきなり私の部屋に王子様が入ってきました。
王子様は私と彼が抱き合っているのを見て鋭い目つきで私を見ます。
すごく恐怖を覚えました。
「お前は俺のだって言っただろう?」
王子様はそう私に言って彼から私を奪い取り抱き締めます。
王子様の腕の中は暖かくないです。
王子様の顔を見るために上を見上げても怒っているだけです。
子供がおもちゃを取られて怒っているみたいです。
「この女は俺のモノだ。お前は出ていけ。嫌なら殺す」
王子様の目は本気です。
私は少し震えてしまいました。
「私は大丈夫だからあなたは部屋に戻って」
「でも」
「大丈夫よ。大丈夫だから」
私は彼に作り笑顔を見せました。
それくらいしなければ彼は王子様に殺されてしまうと思ったからです。
彼が出て行き沈黙が部屋を包みます。
王子様の私を抱き締める力は弱くなりません。
私はどうなってしまうのか怖くて仕方ありませんでした。
「これでいいんだ」
「えっ」
王子様は自分に言い聞かせるように呟いています。
意味が分からず王子様を見上げました。
すると王子様と目が合います。
王子様の顔は悲しそうにしています。
またこの顔です。
何故そのような顔をするのでしょう?
私は王子様の顔を見ると胸が苦しくなるので見上げる事をやめ、ただ王子様が飽きるまで抱き締められていました。
◇◇◇◇
明日はとうとう、私と王子様の結婚式です。
彼はどうなったのかというと、彼は兵士に選ばれたことが白紙に戻り彼は故郷へと帰りました。
その時に彼から一通の手紙をもらいました。
そこには彼がいつ私の無事を知ったのか、彼が何故、殺されずに兵士にならず故郷に帰れたのかが書いていました。
それを読んだ私は嬉しくなりました。
あの人の思いが分かったからです。
「おい、今日は早く寝ろよな」
王子様がいつものように私の部屋に来て言いました。
「とうとう私は王子様と結婚をするんですね」
「そうだ」
「私に選ぶ権利はないんですよね?」
「ない」
そんなトゲのある言い方をしても最初の頃とは違います。
私は笑顔で聞いています。
「何でそんなに笑ってるんだよ?」
「それは王子様の気持ちが分かったからです」
「何だよそれ?」
「王子様が私の為にしてくれていたことを全部、彼に聞きました」
「えっ」
「王子様は私の為に彼に私の無事を伝えてくれて私の為に彼を故郷に帰したんですよね?」
「それで君の心が手に入るなら俺は何でもする」
「私の心が欲しかったんですか?」
「だってお前は俺のモノだ。お前の心も体も全てが俺のモノなんだよ」
「すごい独占欲ですね」
「それはお前にだけだ」
さっきから王子様は私に甘い言葉を言っている事に気付いているのでしょうか?
今なら、あの悲しそうな顔の王子様の気持ちが分かります。
あれは私の全てが王子様のモノにならないからですよね?
でも今は違いますよ。
「王子様」
「何だ?」
「大好きです。私の心も体も全てがあなたのモノです」
私は笑顔で王子様に言いました。
王子様は嬉しそうに笑って私を抱き締めました。
「明日まで待てない」
「えっ」
王子様はそう言って私を横抱きにしてソファに寝かせました。
王子様の顔は何処か苦しそうで我慢している顔です。
私は分かっていましたが知らないフリをします。
「王子様。早く寝ないと明日の結婚式に寝坊しますよ」
「でも」
「明日、結婚式ができなくなってもいいんですか?」
「分かった。それならこれで我慢する」
そして王子様は私にキスをしました。
唇じゃなくて首元に。
そしてその首元にできた赤い痕を見ながらニヤリと笑いました。
「もしかしてキスマークつけました?」
「うん」
そんな普通にうんと言われても困ります。
「ドレスじゃ隠れないじゃないですか」
「首飾りとかつけるから大丈夫だって」
「もう」
「君は俺のモノだっていう印」
今日の王子様は本当に甘いです。
でもやっぱり私にだけ意地悪な王子様です。
読んで頂きありがとうございます。
楽しく読んで頂ければ幸いです。