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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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トワイライト~夕暮れ便り~

作者: 富依 なを
掲載日:2020/11/18

午前中の打ち合わせが長引き、遅い昼食を取ろうと食堂でいつも席に座ろうと思ったら、部下の相原さんがコーヒーを飲みながら窓際席でぼんやり外を眺めていた。

私はしばらく相原さんの横顔を見つめていた。

いつも、彼女のふとした表情を見ると懐かしい気持ちになる。

いつか、どこかでこの表情を見たことがあるようなそんな気持ちに…。

私が固まっていたら、不意に相原さんがこちらに顔を向けた。

突然過ぎて、視線を外すタイミングを逃し、見つめ合ってしまう。

「課長。お疲れ様です。今からお昼ですか?今日は遅いんですね。」

少し疲れた顔に笑顔を貼り付けて相原さんは言った。

「う、うん。」何故か相原さんの笑顔に見とれてしまって立ち尽くす。

右の頬だけに出来るえくぼ。

やっぱりどこかで見た事ある懐かしい笑顔。

「課長?座ってくださいよ。」

相原さんは笑顔のまま向かいの席を見た。

「いいの?」お昼休みに上司と同席なんて嫌じゃないかな?とつい気を使ってしまう。

「いいに決まってるじゃないですか!お昼、課長と一緒に出来るなんて嬉しい。」相原さんは屈託なく言って可愛く両手を顔に前で合わせた。

相原さんはいつも素直で可愛い。

座ってお弁当を広げる。

「わぁ美味しそうなお弁当ですね!」相原さんは黄色い声を上げて大袈裟に褒めてくれる。

「テキトーだよ。自分の分作るだけだし。」

「さすがですよね。課長は仕事も出来て、家事も出来て完璧な感じで。」

「相原さんも毎日お弁当持って来てるよね?」

と相原さんの手元を見た。今日はコンビニ弁当みたいだ。

「あれは、母が作ってくれてたんです。」と相原さんは目を伏せる。

「あ、そうだったんだ…。お母様、残念だったね。大変だったよね。」

相原さんのお母様は先日病気で亡くなったばっかりだった。なんか話が変な方向に行ってしまったなぁと反省してると「トワイライト夕暮れ便りって知ってます?」と唐突に相原さんが聞いてきた。

突然のことで、曲名だと気づくのにちょっと時間がかかった。

「あー明菜ちゃんの、ね。」と思い出して懐かしんでたら「いい曲ですよね。」と相原さんが言ったのでちょっとびっくりした。

「知ってるの?」

「はい。母がすごく好きな曲だったみたいで…。最後までトワイライトの…シングルレコードって言うんですか?小さめのレコード。あれ大事に持ってたんです。中学の時の先輩に借りてたのを返せなかったものだって言ってました。」

「そうなんだ。私も明菜ちゃん大好きでシングルは全部持ってたなぁ。」

まだあったっけ?帰ったら探してみようと考えていた。

「うちレコード聞けるものがないからずっと聞いた事なかったんですけど、母が亡くなってから急に気になってネットで検索して聞いてみたんです。そしたらめっちゃ良くってハマってしまいました。」

「子供の頃はあの歌詞はちょっと大人っぽくってよくわかってなかったけど、大人になってから聞くとしみじみ良い歌詞だなって思うよね。あんな燃える恋がしてみたかったなぁって。」

自分で言っててちょっと恥ずかしくなって目を伏せた。

「課長は今からでも充分恋できると思いますよ。」

と相原さんは微笑んだ。

「でも若い頃みたいな純粋な恋は無理だよね。」

そう言って淡い恋の思い出をなんとなく思い出していた。

「母もこの曲聞くと中学の頃の初恋を思い出すって言ってました。ずっとずっと心に残ってる恋で、ずっと好きだったって。あんな純粋に人を好きになることはもうないのかもって。母はきっとその人の事ずっと好きだったんだろうなぁって。父のことはちゃんと愛してたと思いますけど、でも初恋の人がずっと心に残ってたんだろうなぁって思ってます。」

相原さんはそう言って私を見てほほ笑んだ。

「そうなんだね。」と私は頷く。

「あ、そろそろお昼終わりですね。私業務に戻ります。」

そう言って相原さんは席を立った。


家に帰って、昔のレコードを引っ張り出してみた。

レコードが入ってる箱の中に、中学の頃部活の後輩とやりとりしていた交換日記が数冊入っていた。

「懐かしい……」思わず声に出してノート開く。

当時流行ったくせのある丸っこい文字が並んでいる。

美術部で1番気があっていた後輩の山田由紀ちゃんと卒業するまでずっとやり取りしてたっけ。

中学の頃、恋愛対象か否かは関係なく好きな同性の先輩にラブレターを送るってのが女の子の中で流行っていて、確か彼女が入部してすぐくらいにラブレター貰ったんだっけ?そこから仲良くなって、交換日記したり休みの日遊びに行ったり、友達以上恋人未満的な関係が心地よくてずっと一緒にいた事を思いだしていた。

交換日記の内容はたわいもないことばかりで、ほとんど明菜ちゃんの話題だった。

昨日の夜ヒットの衣装可愛かったね!とか今度の新曲すごくいいね!とか明星の記事読みました?とか、可愛らしくて微笑ましくて、ちょっと小っ恥ずかしくてニヤニヤしてしまう。


「先輩、の髪の毛触ってもいいですか?」と部活終わりに部室で話してたら遠慮がちに恥ずかしそうに言った由紀ちゃんを思い出していた。その後、私の髪をポニーテールに結って「先輩、明菜ちゃんみたい!」ってはしゃいでた由紀ちゃん。

そして、ハッとした。

レコードの束からトワイライトを探す。

やはりない。

そうだ、丁度卒業式に由紀ちゃんに貸したんだっけ?

卒業しても会いたかったから、今度会った時に返してねって言って渡したんだっけ?

でもその後由紀ちゃんが引っ越してしまって、中々会えないまま何となく疎遠になってしまったんだ。

不意に「中学の先輩に借りていて返せなかったものだって言ってました。」という相原さんの言葉を思い出した。

そして相原さんの笑顔と由紀ちゃんの笑顔が重なる。


翌日、相原さんに会ったら聞こうと思いながら、朝からバタバタとしていて全く時間が無い。

夕方やっと落ち着いて、給湯室で紅茶を入れていたら、

「課長。」と後ろから声を掛けられた。

振り向くと相原さんが立っていた。何故かうっすらと涙を浮かべている。

「どうしたの?なにかあった?」心配して相原さんのうるうるした瞳を見つめる。

「これ。」と相原さんは1枚の絵葉書を私に差し出した。

「課長宛ですよね?これって。」

私は絵葉書を裏返して宛先を見る。

実家の住所に多田咲子様と書かれている。

そして通信欄に目を通す。

「元気です……。って1行だけしたためようと思ったんですが、さすがそれだけだと心配されるので…先輩に会いたいです。ずっとずっとそばにいたいです。ちゃんと伝えたくて思いあぐねて時がどんどん過ぎていきました。

でも私は元気です。先輩もお元気ですか?幸せですか?私はもうすぐ結婚します。こればかりは抗えませんでした。もうお会いすることはないと思います。最後にずっと好きだったことを伝えたくて…先輩の事好きになれて良かったです。ありがとうございました。由紀」

読み終わって顔を上げる。

胸が詰まって苦しかった。

「例のレコードの中に入ってたんです。レコード聞くこと無かったからずっと開けてなかったんですけど、昨日何となく開けてみたら、出てきて…宛先見てビックリして…。」

相原さんも苦しそうに涙を堪えている。

「母はこれを出そうとしてたのか、思い出をしまっておきたかったのか分からないですけど…でもこれは課長に持ってて欲しいなって思って…。」

私は相原さんの言葉を聞いてもう一度ハガキに目を落とす。

堪えきれなくて涙が溢れた。

私にとっては淡い思い出だったのに、由紀ちゃんにとっては一生心に残る恋だったんだと思うと、苦しくなる。

「それとこれも課長に返しますね。」と相原さんはレコードを差し出した。

懐かしいジャケットだ。ポニーテールの明菜ちゃんが眩しい。

「これは相原さんが持っててくれない?」と相原さんを見ると、彼女は静かに首を横に振ると「うちうちに置いてても聞けないし。」と言って私を真っ直ぐみた。

「課長んちってレコードプレーヤーあるんですよね?これ、聞きに行ってもいいですか?それに明菜ちゃんの他の曲もレコードで聞きたいです。」と無邪気な笑顔を向けてくる。

「え?うちに来るの?」驚いて、苦笑いをした。

「私、母に似てるでしょ?顔も性格も。」相原さんはちょっと開き直った感じで距離感を近づけてくる。

私が戸惑っていると

「好きなタイプも似てるみたいです。私もこの前まではこの恋は心に秘めておこうと思ってたんですけど、もう諦めないって決めました。だからグイグイ行きます。」

そう言って涙の残った目で清々しい笑顔を私に向けてくる相原さんを不思議な気持ちで見つめていた。

そんな私に不意に口づけて相原さんはハニカミながら嬉しそうに笑った。

私もつられて笑う。

ロマンティックな雰囲気のはずなのに何故か2人で笑いあっていた。

幸せな気持ちに包まれながら…


おわり

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時を超えた恋に胸熱くなりました。。 由紀ちゃん、先輩への想いをレコードと心の中にずっと大切にしまっていたんですね… きっと彼女は叶えられなかった恋を娘に託し、天国から見守っていることでしょ…
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