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異世界転生って、最高じゃない?

作者: 東谷空夜

「不遇な人生を送ったあなたを転生してあげましょう」

「え!?本当ですか!!」


白い空間。

そこにいるのは、平凡な見た目をした男と神々しいオーラを纏った女。男は、女に平伏しそうなほど頭を下げ、女はそれを満更でもない様子で受け取る。


「では、あなたの次の人生が幸福で満ちたものであることを祈っています」

「あ、ありがとうございます!では、さようなら!」


そう言って、男は白い空間から消えた。

次に、男の目に映ったのは森だった。

彼の元いた世界ではそうそう見ないような立派な森。鳥の囀りと共に、何かの咆哮も聞こえる。

そして、彼が意を決して一歩、前に進もうとした瞬間。ガサッ!と後ろの茂みから何が飛び出した。

それは、圧倒的な素早さで距離を詰め、彼を自らの血肉にせんとして、その首に牙を────


────突き立てたはずだった。


肉を裂き、その口内に広がるはずの血臭がしない。

おかしいと思って、彼の首筋を見る。

優れた敏捷性を持ち、一撃必殺の四足獣の牙は、何か薄い光の膜によって防がれていた。

そして、男の顔が、恐怖から安堵に変わり………最後に、その顔を染めたのは優越感だった。


「ああ!ありがとうございます、女神様!僕に、こんな素晴らしい力を授けて下さって!」


一人、感激する男を無視して、四足獣は攻撃を続ける。しかし、その攻撃は、かすり傷すらつけることなく終わる。

しかし、それを煩わしく感じたのか、怒気を孕ませて、彼は言葉を吐く。


「おい、うるさいぞ。畜生如きが。人間様に、何してんだ?」


不意に、四足獣の前脚が爆ぜた。

のたうち回る四足獣を、男は蹴って、蹴って、蹴り飛ばす。

それを何度か繰り返した後、飽きたのか、はたまた満足したのか、彼は四足獣の頭を吹き飛ばした。



────神の間


「……うっわ、どうしたらああなるの?というか、私の名を出して欲しくないのだけれど?」


先程送り出した男を、女神は眺めて、そう呟いた。

そして、それを見つめるものが一人。その身を燕尾服で覆った慇懃な所作を見せる青年だ。


「……それで?今回はどのような力なのです?」

「確か……防御が主体の力よ。あの光の膜が一つの鎧だと考えていいわ」

「では、あの爆発は?」

「あれね、光の膜が爆弾なのよ。だから、光の膜に触れた部分が爆発したでしょ。概念的には、粘着爆弾が近いわね」

「歩く爆弾というわけですか」


そこで、青年は軽く頷いて、次の本題に移った。


「それで、期限は何時です?」

「一年にしようと思ったけど……五年にしたわ。一年だと逆転がないのよ。ハラハラ、ドキドキさせるような逆転劇、必要でしょ?」

「流石ですね。神の癖に、よくそこまで出来るものです」

「神だからよ」


呆れたような青年の物言いに、女神は自慢げに答えた。

そろそろ……と青年は、ポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。


「リーシェ様、御時間です」

「そうね、ありがとう。シド」




リーシェと呼ばれた女とシドと呼ばれた男。

その二人が、向かった場所は広い空間だった。劇場のようなその場所に、数多の神々がところ狭しと座っている。

古今東西、様々な神々が一同に会するなど、以前までは百年に数回程度。しかし、現在は違った。

神々が今か今かと待ち侘びる、その視線の先。幕で仕切られた壇上。それが、神々の新しい『娯楽』だった。


────ビィィィッ!


その音に、今まで騒いでいた客席はシーンと静かになる。

そして、幕が開く。

その中から現れたのは……スポットライトで照らされたリーシェだった。


「長らくお待たせしました。今宵のギャンブルを始めたいと思います」


その芝居掛かった言葉に、神々から歓声が響く。

それに、リーシェはただ笑みを浮かべるのみ。


それを、傍から見ていたシドは何時も熱狂的なことだと、彼女が発案した新しいギャンブルを思い返す。


────ギャンブル。

それはさして珍しいものではない。神々の中でも、一部のものが好んで行う程度のものだった。

この度、リーシェが発案したものは競馬や丁半に近い。


「まあ、馬じゃなくて異世界人。丁か半じゃなくて、異世界人の生死ですがね」


つまり、異世界人に人智を超えた力を与えて、それを取り上げた時、どうなるかを予想して、賭ける。


「穴だらけですが……神に金品なんてものは嗜好品ですからね」


神にとって、金品とは趣味で集めるものであり、あってもなくてもいいもの。

それ故、神々は退屈な日々を終わらせるために、積極的に金品を賭けてくれた。もちろん、あの宝が、宝石が欲しいということもあるのだろう。


「おや?」


ふと、騒がしくなったことに、壇上をシドは見る。

そこには、先程の男が映し出されていた。


「あれはダメね」

「そうだな、あれは敵を作るやつだろう。間違いなく、死ぬな」

「そもそも、期限まで生き残れるか怪しいわね」

「いやいや、今回の期限は長い。心変わりするかも知れませんぞ」


様々な意見が飛び交う。

長年、人を見守っていたが故に、その眼は確かなものであり、どの意見にも信憑性がある。

それが何回か続いた後、モニターがガラリと変わった。


「さあ、此度のメインでございます!期限は、全て一年!残念なことに、一人は期限の内に死んでしまいましたが……」


客席から落胆の声が溢れる。

しかし、それにリーシェは大袈裟なほどその均整のとれた身体を動かして、喋る。


「ですが!この度!我らが愛すべき人間が居ました!」


その言葉に、神々の顔が喜色に染まり、ざわめき立つ。


「では!見ていきましょう!!」


モニターに次々と三人の人間が映し出される。

一人は自らの行い故に、飼っていた奴隷に殺さた。

一人は絶望し、自殺した。

そして、最後の一人は自らの足で立ち上がり、困難を乗り越えた。


「やっぱり、あれが愛すべき人間の姿よね」

「そうであるな。困難に立ち向かい、明日に希望を抱いて生きていく、それが我らが愛した人間よ」


神々から、賞賛の言葉が溢れ出る。

しかし、それとは対照的に他の二人には非難の声があがる。


「ふん。与えられただけの力に頼るからそうなるのだ」

「ただの人間に戻っただけであると言うのに……情けない」

「人の身で在りながら、神の力を振るった代償よ」


それを聞きながら、シドは全くだと思う。

彼は、神に翻弄される彼らを可哀想などとは思わない。

なぜなら、神は一方的に押し付けているわけではない。彼等には、力を与え、一時の夢を見させてあげたのだから。

ただ、神はそれを観察しただけだ。

寧ろ、その力に奢らず、頼らず、地道に自らの力で過ごしたのならば良いのだと、彼はそう考える。


「まあ、流石、我が主ですね」


その主曰く、どうせ転生させるなら自分達も楽しめるようにしたいということなのだが……それは達成したと言えるだろう。


「あんな顔をした主は久々に見ましたからね」


それは、ある本を見たリーシェが神々がこんなに聖人であってたまるか!と言ったことを思い出して、苦笑する。

そこで、彼はこちらに歩いてくるリーシェに気づいた。


「おや?終わったようですね」

「いやはや、やはり人は可愛いわね。だから、彼らを愛したくなるのだわ」

「全く人が悪い。嫌いな人間も多いでしょうに」

「それでもだわ。たまに愛すべき人間が生まれるから、私たちは人間を離せないのよ。だから、その愛すべき人間を見出す異世界転生って………」


そこで彼女は一度、息を吸って────


「最高じゃない?」


冷酷に、恍惚に笑った彼女の言葉に、シドは静かにええ、と笑みを浮かべて賛成した。

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