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Cafe Shelly

Cafe Shelly 親孝行、したいときには

作者: 日向ひなた

 東京に出てきてはや十年。節目の年となった。

 思えば二十歳のときに、フリーター生活のままではいけない、いつまでも実家生活でぬるま湯につかっていてはダメだと思って、思い切って東京に出てきてみた。まぁ、多くの人そんなことを思って東京に出てきているというのは、あとから知った事実ではあるが。

 とにかく東京にさえ出てくればなんとか道が開ける。そんなことを思っていたのだが。世間はそんなに甘くはなかった。まずは食っていくことを考えなければならない。結局は田舎でフリーターをやっているのと何ら変わらないアルバイト生活からスタートとなった。

 が、田舎暮らしと大きく違うのは、人と情報が山のように存在すること。インターネットだけではわからない、肌で感じる情報は格段に都会のほうが多い。そのおかげで、オレは一つの希望を見出した。

「で、カズくん。今日の仕事は?」

「カズくんと呼ぶんじゃない。社長って呼べって言ってるだろ」

 そう、オレは社長になった。といっても、社員は目の前にいる五歳年下の相棒、ゆうきだけだが。ゆうきはちょっと頭の足りないやつだが、オレと同じような志で東北の田舎から出てきた。人懐っこさが取り柄の大柄な男だ。

「今日は午前中にクライアントと打ち合わせ、そのあと午後からはセミナーだったろ。セミナーの準備はできてるか?」

「もちろん、バッチリ」

「そして夜はオフ会。これはプライベートだからオレだけになるけど」

「了解しました」

「バーカ、そこは承知しました、だろ。何度言ったらわかるんだよ」

 目上の人には了解ではなく承知しました。これはオレが東京に来て初めてオヤジがオレを訪ねてきたときに教えてくれたことだ。今までそんなこと教えてくれたことなかったオヤジが、社会人としての心得としていくつか教えてくれたことの中の一つ。今まではすべて了解で済ましていたけれど、それは間違いだってことをこのとき初めて知った。

 その他にも、時間、特に締切は必ず守ること。最初だけでなく別れ際の挨拶もきちんと行うこと。靴は常に磨いておくこと、などなど。このときに教わったことは、オレ自身が信頼されるために全て必要なことだということを実感した。

 そのおかげで、オレは二十八のときには独立をすることができた。何で独立をしたのかと言うと…

「カズくん、クライアントさんがきたよ」

「はい、おまたせしました。早速ここまでの投資状況を振り返ってみましょう」

 そう、オレの仕事は投資アドバイザー。この仕事をするには、金融庁で金融商品取引業の登録が必要となる。が、これが実はかなり厳しい。大手の投資会社はもちろん持っているが、オレのような個人でやっている人間が登録できるのはまれである。実はこれを登録するには、それなりの資金が必要。オレは短期間にその資金を投資で増やすことができた

 どうしてオレにそんなことができたのか。これはおふくろのおかげでもある。

 オレのおふくろも実は投資活動を行っている。この分野、勉強を始めると無茶苦茶奥が深い。巷に溢れているような自動売買ツールなどでは、最初は勝ててもどこかで損をするようになっている。お手軽では勝てないものだ。

 おふくろはオレがまだ東京に出てくる前に投資の勉強を始めて、わずか二年で独自の理論を打ち立てた。オレが二十三歳のときに一度実家にお金のことで相談をしたときに、この理論をおふくろから教わった。

 教わったと言っても、一日や二日で理解できるものではない。おふくろが勉強してまとめたノートを手渡され、これが理解できるようになったらお金には困らなくなるよ、と言われた。今ではこのノートがオレのバイブルになっている。

 それからオレは投資の勉強に没頭し、今のような立場を築いた。お金は十分にある。なのにおふくろはいまだにオレに荷物を送ってくる。中身は季節の果物やオレが好きだったポテトチップスなど。こんなの、いくらでも買えるのに。まぁこれが親心というものなのだろう。

 そういや、田舎にはずいぶんと帰ってないな。前に帰ったのはじいちゃんの葬式のときだったから、五年くらい前か。あの頃はようやく食っていけるようになったくらいのときで、往復の交通費をもらった記憶がある。おそらくおふくろやオヤジの中では、オレという存在はあの頃からなんら変わっていないんだろうな。

「ゆうき、午後のセミナーの参加者って何人だっけ?」

「えっと、今日は十人。今回はちょっと年配の人が参加するよ」

「何歳くらいだ?」

「えーっと、六十二歳、かな」

 六十二歳、オレの両親と同じ年齢だ。両親は大学の同級生だったと聞いている。

「それと主婦の人が三人参加するよ」

 主婦か。オレには年の離れたアネキがいる。面倒見がよくて、今は専業主婦をやっていると聞いている。そういやおふくろもそんなタイプだったな。アネキにもずっと会っていないが、みんな元気にしているだろうか。

 それにしても、投資講座も様子が変わってきたものだ。なぜか女性の参加が多くなってきた。以前は引退したサラリーマンや、若手のフリーターみたいなやつらが多かったのだが。それだけ投資というのが身近になってきたのだろう。

「さて、みなさんこんにちは」

 こうして始まった投資講座。合計十回の講座になるのだが、それで投資家として成功できるわけではない。あくまでも基本中の基本を知ってもらうだけになる。そのうえで中級、上級講座へと進んでもらうのがこちらの狙い。

「先生、質問があります」

 講座の終盤、一人の女声が手を上げて質問をしてきた。例の六十二歳の女性だ。

「はい、なんでしょうか?」

「先生はこの知識をどこで勉強したのですか?」

 講座の内容そのものとは関係のない質問。だが、こういった質問にも答えてあげないと。

「実は、私はおふくろから学びました。といっても、おふくろが私に託してくれた投資ノート。これを自分で解析したんです。納得するにはかなり時間がかかりました」

「素敵なお母様ですね」

「オレからするとちょっと変わったおふくろですけどね。今じゃ自分の老後の費用は自分で稼ぐから、お前の世話にはならないよ、なんて言ってますよ」

「うふふ、私と同じ考えだわ。私も老後のことを考えて、自分で投資をしてお金をきちんと確保しようと思ってあなたのところに来たの。ぜひ私にも老後の不安がなくなるような生活をさせてね」

 おふくろと同じ年齢の人からそう言われると、なんだか弱いな。これが同年代の若い連中なら

「もっと自分たちでしっかりと勉強しろ!」

とハッパをかけるところなのだが。

 その質問を皮切りに、どうして自分が投資の勉強を始めようと思ったのか、その話題が盛り上がった。その多くは、この先の生活に不安があるから。そのために、投資に関するきちんとした情報を得て、確実な資産運用をしていこうという意見が多い。これが若い連中になると、一発当てて悠々自適な生活をしたいというサクセスドリームを語るのだが。投資に対しての意識も、ずいぶんと変わったものだ。

「そういえば、あなたは親孝行なさってるの?」

 最後の質問で、投資とは全く関係なことを六十二歳の女性がしてきた。

「親孝行、ですか。まぁおふくろは自分で稼いでいるようですし。オヤジは自分のやりたい仕事を自営でやっていて、それなりに満足した暮らしをしているみたいだから。オレが何かをするってことはないですねぇ」

「何かをするのが親孝行じゃないのよ。たまに帰って、顔を見せる。たったそれだけでいいのよ」

 たまに帰って、か。田舎には五年も戻っていないし。このところ働きづくめだったから、ぼちぼちゆっくりしたいな。

 今回の講座は、この六十二歳のおせっかいおばちゃんのおかげでほんわかしたムードで終わることができた。そしてオレの心の中も、田舎にいる両親に向けられていた。

「おい、ゆうき、今度オレが休めるときっていつだっけ?」

 正直このところ忙しすぎて、自分のスケジュールも把握していない。こういったことは全てゆうきに任せてある。

「えっと、カズくんが休めるとき…全部埋まってるなぁ。強いて言えば、三連休の二日目の午前中に人と会う約束をして、翌日の夜に食事会が入っているから。ここだったら一泊二日で休めるよ」

「そっか。うちの田舎までは…」

 あらためてどのくらい時間がかかるかを検索。近くの大きな街までなら日帰りできるくらいなんだけど。そこから車で二時間くらいかかるところだからなぁ。誰か迎えに来てくれれば、一泊二日で実家に戻れなくはないか。

「よし、善は急げだ。ゆうき、そこでオレは実家に帰るから。予定は入れないようにしといてくれ」

 ということで、急遽次の三連休の二日目、三日目で実家に戻ることにした。そのことを早速電話でおふくろに伝える。

「あら、めずらしいわね。どうしたの?」

「いやぁ、しばらくそっちに帰ってなかったから。今度の三連休の二日目と三日目で帰ろうかと思ってさ」

「えぇっ、あんた急にそんなこと言われても。今度の三連休はお父さんと旅行に行こうかと思ってたのに」

 喜ぶかと思ったら、意外な答えが返ってきた。でも、おふくろはすぐにこんなことを言ってきた。

「じゃぁさ、あんたも一緒に旅行に行く?」

「えっ?」

「せっかくだから一緒に行こうよ。ちょっと穴場の温泉に行くつもりなのよ」

 そこからおふくろはペラペラとしゃべり始めた。場所はどこだ、温泉がどうだ、食べ物がこうだと、とにかくオレと一緒に温泉に行くつもりで情報をどんどん入れてくる。

「わかった、わかったよ。じゃぁそうするよ。そこの場所だと、新幹線で行ける駅で待ち合わせでいいか?」

「そうね。そこから電車で行けるからそうしようか。あ、私達がそこに着けるのは午後二時くらいかなぁ」

 ここで頭の中で計算。オレが二時にそこに行くには、こっちを十一時くらいに出れば十分間に合う。大丈夫だな。

「ゆうき、連休の二日目に人に合うのって、確か9時くらいだったよな?」

「うん、でもあの人って時間にルーズな人なんだよなぁ」

「あ、あの人か」

 あの人とは、オレが独立のときにお世話になった児玉社長のことだ。面倒見のいい人で、オレに資金援助もしてくれたので頭が上がらないんだけど。唯一の欠点は時間にルーズなこと。今回は先手を打っておかなきゃ。ということで、早速児玉社長に電話をいれる。

「もしもし、児玉社長ですか。カズですけど」

「おぉ、カズくんか。今度、よろしく頼むよ」

「その件ですけど、この日久々に両親に会うことになりまして。それで十一時にはこっちを出たいんですよ。そこでお願いなんですけど…」

 ここまで言ったところ、今度は児玉社長からすかさずこんな言葉が。

「おぉ、それはいいことだ。カズくん、親孝行はしなきゃいけないよ。君もずっと親に心配かけていたんだろう。そもそも親孝行とはだねぇ…」

 あ、この人、もう一つ欠点があった。話し始めると長いんだよなぁ。時間には遅れてくる上に話が長くなって、結局予想以上に時間を食われてしまう。勘弁してくれって感じだな。

 電話での話ですらこうなのだから。適当にあいづちを打っておくか。

 児玉さんの親孝行論を一通り聞き終わったところで、こんな言葉が飛び出した。

「カズくん、この日は会うのはやめよう。なるべく早く両親のところに行ってあげなさい。私のせいで遅刻なんてされたら、君のご両親に顔向けできないからね」

 これには驚いた。まさかそんなことまで考えてくれただなんて。

「あ、ありがとうございます」

「それと、その市で待ち合わせをするならぜひ寄ってみるといいところがあるんだが」

「どこですか?」

「喫茶店なんだけどね。これがちょっと不思議なところなんだよ。何が不思議なのかは行ってみてのお楽しみだ。駅からそう遠くないところにあるから、早めに行ってぜひ寄ってみなさい。ひょっとしたらカズくんの人生が変わるかもしれないぞ」

 人生が変わる?そう言われると行ってみたくなるものだ。電話を切ったあと、児玉さんから喫茶店の場所がメールで送られてきた。

「カフェ・シェリーか。待ち合わせが2時だから、9時にここを出れば十分時間はできるな。ゆうき、スケジュール変更だ」

 児玉さんが紹介してくれたカフェ・シェリー、ここには一体何が待っているのだろうか。ネットで検索してみるか?いや、ここは体験を楽しみにとっておこう。

 そうして両親に久々に会う日がやってきた。おふくろの方から、待ち合わせはどこで何時頃、宿には何時に入ってこの日はどんな食事をして、翌日は何時に出ていく、などなど細かなスケジュールがLINEで送られてきた。昔からおふくろはこういった細かい計画をたてるのが好きだったからなぁ。その細かい性格が投資に向いていたようだ。

 逆にオヤジは大雑把で大胆。行き当たりばったりのところがある。いわゆる正反対の正確の夫婦。よく一緒にいられたものだ。いや、正反対だからこそ一緒にいられたのかもしれないな。

 オレはその二人の性格を譲り受けている。投資に関しては細かな分析と大胆な判断が必要。おかげで今まで大きな失敗をすることもなくここまでやってこられた。ありがたいことだ。

「さてと、ここまでは順調っと」

 両親と会う当日、昼前には待ち合わせにしている街に到着。しばらく時間があるので、児玉さんから紹介されたカフェ・シェリーへと足を向けることにした。

 この街はそこそこ大きな都市。なにしろ日本で三本の指に入る四星グループの本社があるからな。初めて訪れる街だが、どこか素朴なところもある。東京のギスギスしたものとは雰囲気が違うな。

「えっと、この通りかな」

 児玉さんから聞いた住所を手がかりに、スマホの地図を片手にカフェ・シェリーへと到着。ここは街なかにある路地を入ったところにある。

 この路地が変わっている。パステル色のタイルで敷き詰められた道。両脇にはレンガでできた花壇。道幅はそれほど広くはない。そのおかげで、いい感じで密集している感じがする。一歩この通りに足を踏み入れると、なんとなく心がウキウキする。

 カフェ・シェリーはこの通りの中ほどにある。黒板の看板が出ているが、そこにはこんな言葉がチョークで書かれていた。

「あなたのいちばん身近な祖先、本当に大切にしていますか?」

 身近な祖先?何のことだろう。そういや、墓参りなんてずっとしていないな。じいちゃんの葬式のときは…あ、墓なんて行ってないか。いつ以来行っていないんだっけ?

 そんなことを思いながら、店に入る階段をのぼる。そして扉を開ける。

カラン・コロン・カラン

 心地よいカウベルの音。同時に広がるコーヒーの香り。その中に甘い香りも含まれて、一気にオレの興奮が高まった。これは期待できるお店だな。

「いらっしゃいませ」

 かわいらしい女性の声。見ると髪の長いきれいな店員さんがオレを出迎えてくれた。うん、いいね。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

 今度はカウンターの方から声がする。振り向くと渋い中年の男性の姿。この店のマスターって感じだな。

「えぇ、旅行でね」

「よかったらこちらにどうぞ」

 案内されたのはマスターの真ん前のカウンター席。個人的には、あのかわいらしい女性店員のそばがよかったんだけど。

「ご旅行でこの店に寄られるというのもめずらしいですね」

「いやぁ、オレの知り合いの社長が、この街に寄るんだったらぜひこの店に行けと言ってきてね。なんでも不思議なところだって。オレの人生が変わるって言われたから」

「ははは、ちょっと大げさかもしれませんが。まぁ不思議な体験ができるかもしれないのは確かですね」

 マスター自ら不思議な体験と言うくらいだから、何か起こるのだろう。でも、どんな不思議な体験ができるのだろうか?ひょっとしたらこのマスターがマジックでも見せてくれるんだろうか?

「では、不思議な体験をご希望ということですので、ご注文はこのシェリー・ブレンドでよろしいでしょうか?」

 マスターがメニューを指差す。どうやらこのお店のオリジナルブレンドのようだ。でも、どうしてこのブレンドコーヒーで不思議な体験ができるんだろう。

「ではそれでお願いします」

「かしこまりました」

 マスターはコーヒーを淹れる準備を始める。するとあのかわいらしい女性店員が私の方に近づいてきた。

「こんにちは。ご旅行なんですね」

「えぇ、これから両親と待ち合わせて、温泉に行くことになっていまして」

「へぇ、親孝行な方ですね」

「いやぁ、親孝行だなんてとんでもない。なにしろ両親に会うのは五年ぶりくらいだし。この旅行も金は両親が出すようですしね。私は自分の交通費を負担しただけですよ」

「それでも親孝行ですよ」

「うぅん、そうなのかなぁ。オレは両親に対して何もしてあげていないし。本当なら金もオレが負担してあげていいくらいなんだけど、なぜかうちの両親はそういうのを避けるんですよね。まぁ、おふくろに至っては十分お金を持っているし。オヤジも自分の好きなことをやって稼いでいるから、金銭面では子どものお世話になりたくないんでしょうね」

「親孝行って、お金のことだけじゃないんですよ。親に甘えること。これも親孝行の一つですからね」

「おいおい、マイは親に甘えすぎだろう。未だにお父さんから隠れてお小遣いもらってるだろう」

 マスターがオレと店員さんの会話に口を挟んできた。

「そういうマスターだって、アイちゃんに甘いじゃない。知ってるわーよ、この前こっそりお小遣い渡してたの」

 そう言われたマスター、ちょっとバツが悪そうな顔をしている。なんだかこの二人、微笑ましいな。

「いやぁ、失礼しました。まぁ、親というのは子どもには甘くなっちゃうものなんですよ」

「マスターも人の親なんですね」

「親といっても、別れた妻が親権を持っていて。マイと結婚するまでは会わせてもくれなかったんです。でも、私は遠くからアイのことを見ていました」

「マイと結婚って、えっ、あの店員さんとご夫婦なんですか?」

 これはびっくりした。あの店員さん、どう見ても二十代だよな。で、マスターは四十代だろう。

「ははは、恥ずかしながら年の差婚でして。でも、別れてもやっぱり子どもは子どもなんですよ。アイの方から時々連絡をしてくれて。そのときは年甲斐もなく私も気持ちがはしゃいじゃいますね。はい、おまたせしました、シェリー・ブレンドです」

 照れながらコーヒーを差し出すマスター。親というのはいつまでも親をしていたんだな。それに甘えるのも親孝行か。そう思いながら、差し出されたコーヒーを手にする。うん、とてもいい香りだ。

 いよいよコーヒーを口にする。どんな味がするかな。

 うん、うまい。これは今まで飲んだコーヒーの中でも格別の味がする。でも、どこな懐かしい感じがするな。なんだろう、これ。昔味わった事があるような感じがするぞ。どことなくホッとして、そして安心できる。このとき、ふと子供の頃の記憶がよみがえってきた。

 あの頃、我が家はまだそんなに裕福ではなかった。といっても貧乏というほどではない。たしか2DKのアパートに住んでいたよな。オヤジはまだサラリーマンをしていた。おふくろは時々パートに出かけて、そのときはオレは鍵っ子だった。

 そんな暮らしの中、朝は必ずそろって食事をしたものだ。あ、思い出した。この味はそのときに出ていた朝食のコーヒーの味だ。インスタントコーヒーだったけれど、なんとなく大人って感じがしていた。オレ、コーヒー飲めるんだぜって、友達に自慢したことがあったな。

 あのとき、オヤジもおふくろもオレと姉貴を育てるので精一杯だったんだろうなぁ。そんな両親に、オレは何かしてあげているだろうか。親孝行、できているんだろうか。二人に甘えることなく、立派に生きていく。それはオレの意地であって、親孝行とは違う気がする。

「お味はいかがでしたか?」

 マスターの言葉に、ハッと我に返った。頭の中で両親のこと、親孝行のことがずっと巡っていたな。

「あ、いや、とても美味しかったですよ」

「どのようなお味がしましたか?」

「どのようなって…」

 そう言われると返事に困る。懐かしい味がしてから、昔のことを思い出し、そこから両親のこと、親孝行のことを考えていた。なんてことを素直に言うべきなのだろうか。

「安心してください。今、あなたが感じた味。それが今あなたが欲しいと思っているものの答えなんですよ」

「それ、どういう意味なんですか?」

「このコーヒー、シェリー・ブレンドには魔法がかかっています。飲んだ人が今欲しいと思っているものの味がするんですよ。人によっては、欲しいと思っているものがイメージとして浮かんでくることもあります」

「今欲しいものの味…ということは…」

「どのようなお味がしましたか?」

 オレは素直に、自分が感じた味をマスターに話し始めた。そして、オレが小さかったころの家族の思い出まで話をしてしまった。

「そんなオヤジとおふくろですが、今ではそれなりに裕福な暮らしをしているようです。オヤジは好きな仕事を、おふくろは投資をやってます」

「へぇ、だったら老後の生活は安泰だね」

「はい、そのおかげで今回の温泉旅行もオレを誘ってきたんですよ。こういうのに甘えるのも、親孝行って言っていいんですかね?」

「そうですね。親がやりたいようにやらせてあげること。これも親孝行の一つだと思いますよ。親にとって子どもは、いつまで経っても子どもなんですから。私の母も同じですよ。マイと実家に帰ったら、あれ食べろ、これを持って帰れといつもうるさいんですから」

「そのおかげで、我が家の家計は助かってますけどね」

 奥さんである店員のマイさん、店内の他のお客さんと会話をしながらも、こちらの話に聞き耳を立てているようだ。

「じゃあ、オレはこれからどんな親孝行をすればいいんでしょうか?ただ親に甘えるだけだと、なんだか申し訳なくて」

「ご実家の方にはお帰りにならないんですか?」

「そこなんですよ。今回も一泊二日の日程をやっと空けられたくらいで。なんだかんだと忙しくて、実家に戻る暇すらないんです。まぁ、仕事がそれだけあるってことで、オレとしてはありがたいことなんですけどね」

「失礼ですが、ご結婚は?」

「これがまだなんですよねぇ。やっぱ結婚するのも親孝行なんですかね?」

「まぁ、親としては孫の世話をしてみたいという願望があるでしょう。それに、早く子どもには落ち着いた生活を送ってほしいと思うものですよ。ひょっとしたら、今日はそんな話もご両親から出てくるかもしれませんね」

「結婚かぁ…」

 そう考えたら、今はそんな女性との出会いというのがないことに気づいた。投資セミナーに来る人の中で、適齢期の女性がいないわけではない。が、やはりそれはあくまでも生徒さんだし。恋愛対象として見ることはできない。

 プライベートで遊ぶ仲間についても、オレよりもちょっと上の年齢が多いし。女性は結婚をしている人がほとんど。独身といっても、かなり上の年齢で社長をやっている人ばかりだし。そんな人と結婚をしてしまったら、尻に敷かれるのは目に見えている。

「まぁ、焦らなくてもいいと思いますよ。私もマイと結婚をしたのは四十代になってからですしね。何より親孝行なのは、今の状況を知らせることじゃないですかね」

「今の状況を?」

「はい。親はいつでも子どものことが心配なんです。ちゃんと食べているのか、仕事は順調なのか、困ったことはないのか、などなど。親に心配をかけないこと、これが一番の親孝行じゃないですかね」

 親に心配をかけないこと。これで思い出した。おふくろがよく果物や日用品をオレに送ってくれているが、これはオレの生活を心配してのことなんだろう。お金についてはおふくろからの投資ノートをもらったおかげで、心配ないどころかひと財産は築けている。が、その反面健康などについては今ひとつ無頓着だった。

 また、結婚についてもそうだ。おそらくこのあたりについては、両親ともにこの先のことを心配しているんじゃないだろうか。

「両親に心配をかけないためには、どうすればいいでしょうか?やっぱ結婚しないといけないのかなぁ」

「なにも結婚だけが心配事じゃないですからね。それに、結婚したらしたでまた心配事が増えますよ。お嫁さんとの仲はうまくいっているのか、子どもはいつできるのか、などなど。ウチも実家に帰ったらしょっちゅうそのことを言われますからね」

 マスターのところでさえそうなんだから。オレの両親も同じなんだろうな。

「じゃぁ、どうすればいいんだ…」

「私からひとつ提案してもいいですか?」

 突然、マイさんが会話に割り込んできた。というよりも、さっきからこちらの会話に聞き耳を立てていたのは間違いない。さて、どんな提案なんだろう?

「毎日、ご両親に電話をしてみるのはどうですか?」

「毎日電話、ですか?」

「はい。こちらから声を聞かせるだけでも、間違いなく安心してもらえると思いますよ」

「でも、毎日だなんて何を話せばいいのか…」

「対して会話しなくてもいいんですよ。もしなにか変わったことがあれば報告すればいいし。なければ今日も一日何もなかった、でいいんですよ」

「毎日電話ねぇ…」

 正直、あまり気乗りがしなかった。照れもあるのはわかっている。

「実は、それをやったおかげでどん底から這い上がった人がいるんですよ」

 マイさんのその言葉に、ピクッと反応した。そういう成功体験は大好きだ。

「ど、どんな人なんですか?」

「新城さんという作家さんなんです。新城さんは作家としてなかなかデビューできなくて、生活もかなり困っていました。私達も彼の小説は面白いとは思っていたんですけど、思ったよりも道は険しくて」

 そういうヤツ、確かにいるな。オレの仲間の中にも、芸術家を名乗っているけれどそれでは食っていけなくてアルバイト生活をしているのがいる。

「そんな新城さんにも、お墓参りをすることと両親に電話をかけることを勧めてみたんです。そうしたら、驚くことが起きました」

「どんなことが起きたんですか?」

 お墓参りと両親に電話をかけること、これが何をもたらしたのだろうか?こいつはとても興味が湧いてくる。ひょっとしたら何かの賞をもらうことができたのだろうか?

「新城さんの小説をプロデュースしてくれる人が現れたんです。このお店でたまたま知り合ったんですけど、その方は以前出版業務をやっていて、いろいろな企画を立てていた方なんです。その人の戦略が、とにかく話題性を高めようということで、小説の内容も少し手を加えて、さらに見せ方も工夫をして、電子出版を始めたんですよ」

「電子出版、ですか。オレもたまに読みますけど、ほとんどビジネス書だからなぁ。で、どうなったんですか?」

「これがなんと一位を獲得して。そこに出版社が目をつけて、今度は本を売り出すことになって。こうして新城さん、メジャーデビューすることができたんです」

「すごいですね。でも、その方と知り合ったこととお墓参りや両親に電話をかけることって、何かつながりがあるんですか?」

 ここは大きな疑問だった。そういうことをしなくても、たまたま知り合うなんてこともあるわけだし。

「それについては私が説明しますね」

 今度はマスターの番だ。

「お墓参りや親孝行など、自分の祖先を大切にしようと思っている人の多くは、自分に自信を持つことができるそうです。自分の祖先や親に恥じないような生活を送る、という意識が高まるんだとか。その自信が自ずと人を呼び込むらしいですよ」

 自信が人を呼び込む。これはよくわかる。オレも今の投資の技術に自身を持っているからこそ、生徒さんやゆうき、児玉さんのような人たちが周りに集まってきているから。それなら別にお墓参りや親孝行は関係ないじゃないか。

「自信ならオレにもありますよ」

 そう伝えると、マスターはニッコリと笑って言葉を続けた。

「実は自信だけじゃないんです。もう一つ、謙虚さというものが身につくんですよ」

「謙虚さ?」

「そう。自信家だけなら世の中にはたくさんいます。けれど、自信を持っているだけで人の言うことを聞き入れない人がとても多いのも確かです。そういう人を信用しようと思いますか?」

「そりゃぁ、まぁ、そうだなぁ」

 確かに、自信過剰な人はあまり好まれないよな。

「自信を持ちつつ、謙虚な人ほど人に好まれます」

「でも、謙虚と墓参りや親孝行はどんな関係があるんですか?」

「お墓に手を合わせているとき、どんな気持ちですか?」

 お墓に手を合わせている時。オレはその時の状況をイメージしてみた。自然に両手を胸の前で合わせて目をつぶっていた。すると、心が穏やかになっていく。ここでご先祖様が何かオレに対して言葉をかけてきたら、間違いなくそれを素直に受け入れるだろう。

 そうか、そういうことか。

「マスター、わかりましたよ。今の状態なら、相手の言葉を素直に受け入れられる。そんな気持ちになれました」

「さすが、素晴らしいですね。こういうのを繰り返すと、その思考習慣が身に付いて、相手の言葉に対して謙虚な気持ちになることができるの、ご理解いただけましたか?」

「はい」

 さっき、両手を合わせて目をつぶっただけで、なぜだかオレの気持ちは穏やかになった。だからマスターの言葉に対しても、素直に聞き入れようという気になれた。

「なるほど、児玉さんが言っていたようにこの店に来ると人生が変わるわけだ」

「何か大きな変化が感じられましたか?」

「はい。オレは自分で人生の成功者だと思っていました。けれどこれは傲慢な考え方だっていうことがわかりましたよ。ただお金を稼いでいる人が成功者じゃない。これからは周りの言葉にも耳をきちんと傾けるようにしていきます」

 マスターにそう話した時、なんだか清々しい気持ちになれた。今までとは違う何かがオレの中に芽生えてきた、そんな感じがした。

「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ両親と待ち合わせの時間になるので、この辺で失礼させていただきます」

「いろいろと楽しい話をありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。この店に寄って正解でした。本当にありがとうございます」

 これは本心から出た言葉。本当の親孝行とはなんなのか、そして今からオレが何をすべきなのか、このカフェ・シェリーで学ぶことができた。シェリー・ブレンドも不思議なコーヒーだったが、マスターやマイさんという存在も不思議だったな。また機会を作って、ぜひここに来てみよう。今度来るときは、オレに嫁さんが来たときかな。

 そんなことを考えつつ、待ち合わせの駅の改札へと足を運んだ。すると、目立つところに両親の姿を見ることができた。

「あ、こっちこっち」

 おふくろが恥ずかしげもなく手を振ってオレを出迎えてくれる。隣にはにこやかな顔でたたずむオヤジ。だが、ここで違和感を感じた。この両親の隣におとなしげな女性が一人立っている。別の待ち合わせという感じではなく、両親に付き添っている。

「久しぶり。元気してた?」

 そう両親に挨拶しつつも、目線は気になる女性の方を向いている。小柄で丸顔、ちょっとふっくらとはしているが、オレ好みの体型。そしてなにより、かわいらしい。

「あ、この子気になってるでしょー」

 おふくろがいじわるそうにそう言う。

「そりゃ、気にならないわけないでしょ。誰なの、この女性?」

「あーちゃん、ほら、自己紹介して」

 あーちゃんと呼ばれた女性は、恥ずかしがりながらもオレの方へ一歩近づいておじぎをした。

「はじめまして、大柳あやねといいます。今はお父様のところで事務員をさせていただいています。今回は社員旅行に行くからということで同行させていただいています」

「しゃ、社員旅行?そんなこと、一言も言ってなかったじゃないか」

「えっ、そうだったっけ?まぁいいじゃない、あーちゃんとてもいい子だから、一緒に連れてきたくて。そしたらあんたが来るって言うから」

 おいおい、オレはそういうつもりでここに来たんじゃないつーの。

 すると、いつも家では物静かなオヤジがオレの方にスーッと寄ってきて、耳元でこう囁いた。

「あーちゃん、今恋人はいないらしいぞ」

 ってことは何か?親公認であーちゃんに迫れってこと?

 なんだかんだで奇妙な温泉旅行になってしまった。どうやらオヤジとおふくろはあーちゃんとオレをくっつけたいみたいだ。まぁ、正直なところあーちゃんはオレ好みではあるのだが。こういう話につきあうっていうのも、親孝行なのか?

 オレは温泉までの電車の中、今の仕事の状況やこれからどうしていくか、そんなことを両親に話した。その話に対して食いつくのはおふくろ。なにしろ自分が教えた知識を元にオレが仕事をしているのだから。自分のおかげと言わんばかりである。

「カズくん、そんな生活してたら身体壊しちゃうよ。いくらお金を持っていても、きちんとした規則正しい生活と、栄養のバランスの取れた食事をしないと。だからぁ…」

 だからぁ、の後に言わんとしていることはわかる。わかるんだけど、このまま流されてもいいんだろうか?そもそも、あーちゃんはオレのことをどう思っているんだろうか?

 温泉に到着して、部屋に入ってびっくり。一部屋しかとっていない。せめてあーちゃんは別に部屋をとってあげないといけないんじゃないか?まぁ、幸い部屋はふすまで二間に分けられるようにはなっているけど。

「じゃぁ私とあーちゃんはこっち、あなたたちはそっちを使ってね」

「おい、カズ、お前、あーちゃんのことどう思う?」

  オヤジがそんなことを言い出す。そして続けてこんなことも。

「母さんも私も、あとはお前が結婚して幸せな生活を送ってくれることだけを願っているんだけどなぁ」

「まぁ、その気持ちはわからなくはないけどよ。でも、オレが良くても肝心のあーちゃんはどうなんだよ?」

「それなら大丈夫だ。というか、お前、あーちゃんのことやっぱり覚えていないんだな」

「えっ、あーちゃんってオレどこかで会ってた?」

 オヤジからの意味深なことばで、オレは記憶を駆け巡らせた。あーちゃん、明らかに年下だよな。ってことは同級生とかではないし。あとは年下の女の子と出会った記憶といえば…

 思い出せない。そもそもオレの青春時代はそんなに明るいものじゃなかったし。女の子と会話をした記憶なんていうのはほとんどない。強いて言えば、親戚の集まりでいとこがいたくらいだが。

 ん、いとこ?そういえばいとこではないが親戚筋だっていう人で、子どもの頃ばあちゃんのところに来ていた女の子がいたな。確か年齢はオレより五つくらい下だった気がする。もしかしてそれがあーちゃん?

「オヤジ、もしかしてあーちゃんってばあちゃんの…」

「思い出したか。あーちゃんはお父さんのいとこの子どもだ。小さい頃はおばあちゃんの家でよく遊んだものだ。あーちゃん、あの頃からお前のことを気にかけていたらしいぞ。初恋ってやつだな」

 おいおい、あの頃ってオレはまだ小学生だぞ。確かに小さい女の子になつかれていた記憶はあるけど。でも、大人になった今じゃあの頃の印象とは大違いだな。

「でも、どうしてそのあーちゃんがオヤジの仕事を手伝ってるんだよ?」

「これはまったくの偶然でな。求人を出したら面接に来たのがあーちゃんだったんだよ。私も履歴書を見るまでは気づかなかったからなぁ。というわけで、これもなにかの縁だ。今夜はあーちゃんとの再開を楽しめ、な」

 オヤジ、間違いなくオレとあーちゃんをくっつけようとしている。おふくろも同じだ。まぁ、悪い話じゃないけど。問題はあーちゃんが今のオレの仕事を理解してくれるか、だな。なにしろ普通の会社員とは違うからなぁ。

 温泉につかったあと、夜の食事。そのときにあらためてあーちゃんにオレの仕事のことを伝えたりしてみた。ついでに、ちょっとこのことも聞いてみた。

「あーちゃんって、親孝行してる?」

「親孝行、ですか?そう言われると…」

 あーちゃん、どんな親孝行をしているんだろう?

「私、以前ある人に教わったことがあります。親孝行って親に心配をかけないことだって。だから、できるだけ毎日家に電話をしたり、手紙を書いたりしています。まぁ、実家は一時間程度の距離だから、月に一度は顔を見せに帰っていますけど、それでも父と母は喜んでくれますよ」

 カフェ・シェリーで教わったことをやっているなんてびっくりだ。

「カズもそうやって電話の一本でもしてくれると、私も安心できるんだけどねぇ」

 おふくろがそう言う。この言葉はグサリと胸に刺さった。

「まぁ、頼りのないのが無事の知らせとも言うがな。でも、やっぱりたまにはお前の顔が見てみたいもんだよ。早く私達を安心させてくれるといいんだけどなぁ」

 オヤジが言っている「早く安心を」は、オレに対して結婚を要求しているものだっていうのはひしひしと感じ取れる。

「カズさんは親孝行って、どうお考えですか?」

 あーちゃんから逆質問が返ってきた。

「う、うぅん。まぁオレも親孝行については、今日行った喫茶店で教えてもらったんだけどね。教えてもらったというよりも、気付かされたっていう方が正しいかな」

「えっ、喫茶店ってもしかして…」

「カフェ・シェリーだけど。あーちゃん、知ってるの?」

「知ってるも何も、私、そこで親孝行について教えてもらったんです。今回もそこに行けると思ってこの旅行についてきたんです」

 これは驚きだ。学生時代の友達に連れられて去年カフェ・シェリーに行ったらしい。今回も明日、カフェ・シェリーにうちの両親を連れて行くつもりらしい。

「じゃぁ、あのコーヒーを飲んだんですね」

「あぁ、おかげで親孝行ってなんなのかを知ることができたよ」

「なーに二人で盛り上がってるのよ。さ、飲も飲も」

 おふくろの言葉で、会話は一度中断。けれど、あーちゃんとは不思議な縁を感じることができた。よし、明日オレももう一度カフェ・シェリーに足を運んでみるか。そして、あーちゃんに対してどうするのかを、シェリー・ブレンドに聞いてみよう。

 夜も更けていき、おふくろは酔っ払って寝てしまった。おやじとサシで向かい合って飲む。こういうのも親孝行なんだろうなぁ。

「オヤジ、今まで心配かけてゴメン」

「なぁに、こうやって元気な姿を見られただけでも、親孝行だよ」

 そうか、もっと頻繁に顔出ししなきゃな。そして孫の顔を早く見せなきゃ。こういうのが親孝行っていうんだよな。


<親孝行、したいときには 完>

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