03:うろこ
リコが飲み物をとってくると言って、30分くらいたった。
…気持ちの整理をするには十分な時間だ。
─ふう…。
魔法なんて本か映画の世界でしか聞いたことがない。
あまりに現実味がなくて信じたくないという拒絶の感情が累積していく。焚火の炎を何も考えずにじっと見る。爛々と燃え盛る赤とオレンジ、黄色の光が目に映る。もしかしたら自分がすでに死んでいて、都合のいい夢を見ているだけなのかもしれない。考えれば考えるほど嫌な方に思考が進み、ついに頭痛がしてきた。
─従兄弟も無事だといいけど…。
さっきのリコの説明によれば自分は魔術?を使ってここまで生還した。でも従兄弟の光は…まだ3歳だ。どう考えても生還の確率は低い。どんどん頭痛はひどくなる一方で、気休めにすぎないだろうが冷えた手を額に当てる。ここがいつもの日常なら普段持ち歩いている痛み止めを飲んで対処している場面である…。そこではたと気づいた。
「…しまった。常備薬すらないんだ。」
なんてことだ。全くファンタジーなんて糞食らえ!
悪あがきとばかりに悪態をつき(心の中で、だが。)硬い岩山の隙間に体を横たわらせる。そういえば薬で思い出す。
─のど、乾いた。
岩山の周りを見回すと洞窟内の植物の表面に朝露のようなものがたくさん付着していた。本来なら煮沸した上で飲んだ方がいいのだが…。疲労困憊の今そんな手間をする余裕はなかった。生乾きの衣服を纏い、朝露のついた植物まで這いずって、なんとかたどり着いた。こぼさないように、慎重に葉を口元まで運びのどを潤した。
「…おいしい」
その水の味はいままで生きてきた中で一番美味しい水の味だった。その後、同じような方法で十分な水分を飲むことができた。ようやっと心が落ち着いてきた。今更だが、リコは私のために飲み物とってくると言って出て行ったはずだ。
だが遅いのが悪い。普通に事故にあったような人間に、いきなり魔術がーなんて話をされても理解に苦しむ。そもそも体温も下がっていて、脱水症ぎみの人間に先にその話をするべきか?もしさっき飲んだ朝露水に毒でも入ってたらおしまいだ。同じ人間?のはずなのに妙にズレている。いや、気を遣えないだけの可能性もまだ視野に入れておくべきか…?
脳内会議では様々な意見が混じり合い、さながら国会中継のようだ。
しかしながらどんなに議論してもリコは一向に帰ってくる気配はない。飲み物を飲んだからか、ある程度落ち着いたようで、先ほど活発だった会議も閉会の流れとなり、怒りはとっくに消えてしまった。またごろりと横になる。
この状況ならリコが戻るのを起きて待つべきなのだが、あまりの倦怠感と眠気で、もはやまぶたを持ち上げることができない。
─もう、くたくた。寝てしまえ。
自暴自棄になり寝ることにした。だが洞窟内に降り注ぐ光は私の目に容赦無く降り注いで煩わしい。仕方がなしに先ほど朝露水を飲ませてもらった葉っぱを手でちぎる。一枚だけでなく何枚かもぎ、即席のアイマスク代わりを作り目元に置いた。少し砂がついていたが手で払えば問題ないだろう。
視界は暗闇に包まれ、眠気が強まる。その眠気に身を任せた瞬間、意識はブラックアウトした。
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オール帝国はオアーン大陸全土を治め、建国から約100年の平和を享受した大帝国だった。しかしその栄華はある資源を求めた隣国ヘニキアの侵攻により、儚く衰退して行くことになる。
このままオール帝国の衰退後の話といきたいところなのだが、まずはこの帝国が侵攻される原因となった資源の話をさせていただきたい。その資源の名前は魔素。帝国の研究者は通称神の物質と呼んでいた。
ではこの魔素何が優れていたのだろうか。
例えばエネルギー効率の高さや、環境への影響がない、人体への害が少ない、などの優れた点は多くある。
しかし最も特徴的なのは次の3点であろう。まずは一つ目、それはある条件─あとで説明させていただく─さえ当てはまればほぼ永久的に使用可能であること。2つ目、この物質を変換するための命令式さえ覚えてしまえば、どんなものでも製造可能であること。3つ目、現時点でわかっている命令式の難易度も低いため、一定の知識があれば誰にでも使え、汎用性の高さがあること。ここまで読んでいただいた上でこんな理想的な物質が、オアーン大陸全土のみに埋没していれえば、侵攻されるのはごく自然の流れであると納得していただいたと思う。
さて、先ほど魔素の3つの特徴1つ目の中にある条件という文言があったが、その条件について記述させていただく。
まずオール帝国には神の子供たちが存在してた。
それはオール帝国が建国されるよりもずっと前から、人間と共にこの世の理と生命を作り出し、人智をこえたヒトの原型ともいえる存在─人呼んで魔法使いという存在である。この魔法使いという存在は、世界を管理し、崩壊させぬために、世界の管理を神から任されているとされる。そしてヒトの原型ということもあり、この世界の誕生から今に至るまで長きわたり生きている存在でもあるのだ。
その魔法使いが魔素そのものの集合体、─死獣と呼ばれているが─と契約していることで魔素を大量に使用できる。ではこの死獣、一匹だけかと思っていただろうが、実は5匹存在している。なぜならば魔素には5つの属性が存在している。その属性が雷、炎、水、風、土の五つ。そして5つの属性分だけ死獣も存在し、また魔法使いも五人存在しているのである。では五人の魔法使いを紹介しよう。
オアーンの大陸を作り出した光の神の第一子で、神に最も近い力をもつ雷の魔法使いサンフォルト。
同じく光の神を父に持つ、灼熱の炎の魔法使いアクーシャ。
海の神の唯一の娘、生命を包み込む水の魔法使いウルミエ。
光の神弟神、闇の神の息子、全ての循環を司る風の魔法使いフリン。
最後の魔法使い、闇の神娘、大地の力、全ての生命の土壌。土の魔法使いアースラ。
彼らは異父兄弟で、母は人魚と呼ばれていた神話生物である。
この五人が今現在でも存在している魔法使いであり、オアーン大陸の繁栄そのものに直結している重要人物達である。
さて魔素が他国に狙われる理由と、オール帝国が滅亡したことは理解いただけただろうが、ただの侵攻であれば、帝国軍の防衛により勝てると思うだろう。しかしこの侵攻での本当の敵はヘニキア軍ではなかったのである。
その敵こそ、帝国内での王家に不満をもつ民衆である。この頃のオール帝国での王と魔法使いの立場はほとんど同じであった。しかし絶大なる力と恵をもたらしている魔法使いには、民達の厚い信仰が存在しており、王の立場が同じであることに多くの帝国民は不満を持っていた。そしてこの不満因子はヘニキア侵攻鎮圧と共に、オール帝国内戦へと突入するきっかけにつながることになる。内戦は5年ほど続いたが、魔法使い達の協議、及び死獣たちの衰弱による魔素の減少と、飢餓など深刻な事態が発生したために、徐々に鎮火していったのである。そして終戦間際には王家の解体─のちに処刑され、王の死とともに、オール帝国はあっけなく消滅したのである。
その後、五人の魔法使い達と、彼らをそれぞれ信仰し、追随するもの達でできた国がオアーン大陸に存在する5つの国である。
鱗が流れ着いた国はその5つの国の一つ。
全ての生命の土壌。土の魔法使いアースラがすまい、そして創世神話にて魔法使い達の母、人魚と呼ばれていた神話生物が生まれた生誕の湖がある、ラオール王国イシュリアの地に流れ着いたのである。
すみません、第1話にて間違いがございました。
第1話
×オール王国→○ラオール王国です。
また読みづらいと思った箇所と、主人公の描写に不足を感じましたので、1話2話両方に追加文をいれました。
内容は極力変えておりませんが、印象がすこし変わっていると感じるかもしれません。
拙い文章力で、心苦しいのですがお付き合いいただけたらと思います。
もう3話なのに鱗、洞窟から一歩も外に出てない…。
これからお外にでますよ。