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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

淡くて甘い

 世界に抗って生きるのが正しいなら、普通に職に就いて社会の歯車然としてる人達はみんな世界に敗北して敗走してる途中なんだろうって思う。生きるために必要と思ってしまうことがもう世界っていう茫洋とした敵みたいなものに負けていて、まるで洗脳のように世界は煩悩を押し付けてくる。煩悩に抗わないと私は普通になってしまう、いや、人じゃなくなってしまう。そんな気がする。

  抵抗しないのが普通だからむしろ抵抗する私なんかが少数派なわけで、孤独に自分からなっていっているっていう構図になるんだろうけど、徹頭徹尾孤独だし、媚態してまで誰かと一緒に凄そうなんて思えない。他人なんてそこまで信頼してないし。

 なんて言っても実は今日は友人と会う予定だった。もっとも、その人だって信頼してない。他の人よりも価値を見いだしてるだけで、仲が良くなったってだけで。というか仲良くなる方法というのがわからない以上あの人に会うのは偶然だし。

 でも仲良くしてくれてるのはありがたいよ、世間一般からして私は気味悪がられる存在だからね。こんな思考しているわけだし。

 だからこそ彼女、愛川なすずのこう言った誘いには滅法弱くて付き合うっていうだけ。私は別に楽しみにしてる訳じゃない、多分ね。

  「おはよう、みねねちゃん」

 待ち合わせ場所に着いた。愛川さんはまたも笑顔で迎え入れてくれた。それにしても世間一般で見て可愛いと言われるような顔をしている。清廉さもあって綺麗で私とは釣り合わないというような存在だった。なんで話しかけてくれるのかはわからないけど、利用価値はあるし、それに他人を疑うことほど価値のないことは無い。無駄。

「みねねちゃんは、今日どこか行きたいところとかある?」

「ううん、ないよ愛川さんの行きたいところでいい。」

「えーまた?みねねちゃんいつもそうだよね。行きたい場所はって聞いてるのにないってばっかり。私はみねねちゃんが行きたいところ一緒に行きたいのに。」

「私の行きたいところは天国でしかないですよ。」

「天国か。いいね、一緒に行こうよ」

  冗談なので間に受けないで欲しい。

「なんだ冗談か、まぁわかってたけどね。でもいつもどうやって生活してるのさ行きたいところがない、だなんて」

「外には出てませんよ。暑いし行きたいところないし」

「全く釣れないな、人間じゃないって感じ」

 私が把握している人間という生態系は私だからそれが少数派な以上ずっとこう言い続けられるのだろう彼女にも、そしてみんなにも。

「まぁいいや、ご飯食べよ!お腹すいちゃってさぁ」

  連れていかれたのはレストランだった。早速席についていつもと同じものを頼む。

「いつも同じものだね。新しいものに興味はないの?」

「ないよ。生きるってどうでもいいし。人がどう調理させたって食べるものは一緒だし、失った命の量も一緒だし。」

「うーんニヒリズムだね。サバンナみたいに乾いた心だなぁ」

 料理が届いたので愛川さんも私も食べることにした。表情には出さないけどやはりここの店の料理は美味しいと思う。同じものしか頼んでないから一概には言えないけど。

「好きなものってないの?」

  「ないですね。嫌いなものばっかりだよ」

  「そっか」

 素っ気ない応答ばかりで申し訳ないけど、私にはこの世界に興味が無いのだ。

「私はね?この世界に興味があるんだ。普通の人よりもたくさん。だからみねねちゃんと私の好奇心を足したら0になってちょうどいいかもね。」

 笑いながら愛川さんは語る。

「だからあなたのことも興味があるの。いや、あなたのことがこの世界で一番気になる、かな。」

「冗談は食事の席ではよくあることですけど、私を褒めても意味ないよ。」

「みねねちゃんにとって意味はなくても私には意味があるの。」

 わからない。他人は分かり合えないのかもしれない。わかりたいとは思ってないけど。

  レストランを出て、行く場所を決めることにした。

  「みねねちゃんはどこに行きたい?」

  「だからどこでもいいよ」

  「怒ってない?」

  「怒ってないよ」

 というかその発言がイラッときた。

「じゃあタピオカ飲みに行こうよ」

  「あぁあのカエルの卵ね」

  「そういう言い方しないの。あれって美味しいんだよ、多分飲んだことないでしょ、まぁカエルの卵って言うぐらいだし飲むわけないね」

「わざわざ外にまで行って飲む理由が分かりません」

「美味しいって思うからだよ」

 そうですか。わかりません。

  そしてタピオカ屋さんに入るとやはり混雑していた今は15時ぐらいとちょうどおやつ時だったからより混んでるんだろう。

  「やっぱり並んでるよここまでして飲みたい理由って何?」

  「美味しいからだって。」

 わからない。美味しいと思わせることで洗脳してこんな炎天下の中並ぶことを苦にさせないようにされていることを気づくような聡明な人間はここにはいないんだろう。頭悪い人が飲みそうだし、タピオカって。

  「偏見めいてるねぇ。」

  「一般論だって偏見と言えるし偏見なんて言葉はないよ」

  「その意見もすごい少数派だね。好き」

  ありがとう、と思ってない言葉を語る。

  そしてタピオカを飲むことにした。

  「タピオカってエロいよね」

  「どの辺が?」

  「なんかつぶつぶしてるしエロさを感じない?それとも私がそういうのに憧れあるだけかな」

 驚いた。そういう話をする人間だと思ってなかったし、そういうことい興味があると思ってなかった。

  「私だって少しはエロい話し気になるよ。そりゃ、学校じゃさすがに言えないけど」

「そんなに興味あるの?」

「そうだね。でもまぁ別に普通じゃない?」

  私は普通じゃないしわからないから聞かれても困るけど。

「ごめんごめん。本当に何も興味ないのね」

 なんか刺さるような一言だったけど、その通りだし別にいいかな。

 そう話しながらタピオカを飲み終わると次の行き先に困ってしまった。

  「次、私の家に来ない?今日私の親いないし」

 初めて同級生の家に行くという地味に憧れだったことが現実に起こりそうになったので即座にはい、と返事を返した。

「そっか、ありがとう。」

 愛川さんの家は一軒家で、頭がいいことからもわかるように親も頭が良くて裕福だった。裕福といっても普通の家庭よりかはという意味であって、あからさまに裕福ってわけじゃないけど。というかそうだったら私はこうして会話できない。

  「入っていいよ。」

 鍵を開けてもらって愛川さんの家に入る。私よりやっぱり広い面積があって毎日楽しそうだ。そして愛川さんの部屋に入る。

「ベッドの上で座ってよ、お茶持ってくるね」

  細かいところまで気配りができる人だ。私とはかけはなれている気がした。なんで私と話してくれるんだろう。まぁ変に病むのも良くないよね。

  ここから色々な話を2時間ぐらいした。自分の生活とか、好きな物とかそんな話をしていた。自分が少し本心で笑ってることがわかって、それが奇妙だったけど嬉しかったし楽しかった。

  「みねねちゃんに聞きたかったんだけど、好きってなんだと思う?」

  「好き?唐突に言われてもわからないな。異性として?それとも友達として?」

「異性、かそうだよね」

「ん?何?」

  「いや、なんでもないよ。そうだね、じゃあ異性として」

「異性としてね。うーん、難しいけど、友達よりも特別だな、とか、あとは性的なことをしたいと思ったとき好きって言えるんじゃないかな」

「みねねちゃんはそう思った人いるの?」

  「私はいないよ。友達ですら好きって言える人もいないし」

  「そっか。私は好きじゃないんだね」

 あっ

 本音を言ってしまった。

  「いや、なんていうか好きがわからないっていうか...その」

  「ううん、大丈夫だよ別に。」

 申し訳ない気分になった。家まで入ったって言うのに。

  「私がみねねちゃんを好きなことは変わらないし、それに嫌われてはないんでしょ?それなら大丈夫」

  本当に優しい人だ。私とは大違いだ。

「比べるもんじゃないよ、人なんて」

  「そうだね、そうだけど自信がもてないというか」

「自信が持てないならなおさら人と比べちゃダメなんじゃない?」

「そうだけど、自信が無いから他人を見ちゃうんだよ」

「じゃあどうしたら自信を持てるの?」

 自信が持てる可能性を考慮したことがなかったから少し悩んでしまう。

  「うーん、私から離れた人間に私がなったら、かな」

「離れるってどうやって離れるの?」

  「そうだね、例えば今日みたいに食べたことのなかったタピオカを食べてみたり?」

「それで何か変わったの?」

「うーん変わってるとは思わないんだけど、自分から遠い場所が近づいた感じがして、私がこうやって新しい経験を積むと自信が持てるような気がする。わからないけど。」

「なるほど、新しい経験、だね」

  そう言うと愛川さんは私をベッドに押し倒した。

「どうしたの?」

「新しい経験が欲しいんだよね?」

「そうだけど」

 そうしてなすずは私にキスをした。初めてのキスでしかも女子で、驚いてしまって身動きが取れなかった。

  「はぁ、はぁ何?どういうこと?」

 息が切れながら私はそう尋ねることしかできなかった。

「私、実はあなたのことが好きなの」

 衝撃だった。全く持ってそんな気持ちがあるだなんて予想すらしてなかった。私なんて友人としてのすきすらわからないのに。

  「そ、そうなんだ」

「私のこと気持ち悪いって思う?」

「それは、別に思わないけど」

「じゃあ、私の事受け止めてくれる?」

「それは、、、」

 答えに詰まる。

 私ができることなら大抵はしてあげたいけど、私が愛をあげることは出来ないし、別に好きでもないから嬉しいとも思わないし。

 どうすればいいんだろうこういう時って

  「やっぱり、ダメ?」

  「いや、そういう訳でもないんだけど」

「何、じゃあ嫌、かな」

「嫌ってほどじゃないんだけど、その、なんていうかわからないっていうか、あんまりよくない気がするって言うか」

「大丈夫、嫌になったらやめるけど、嫌な気持ちにはさせないつもりだよ。安心して身を任せてくれればいいから」

 私はなすずを止められないって思った。別に嫌ではないからいいかなって流されると決めた。どうでもよかったし、疎遠になることは避けたかったし。それにいい経験になると思ったし。いや、もしかしたら、これは全部言い訳で、本当は少し好きになってしまったって言うのもあるのかもしれない。

「じゃあ、始めるね」

 そうしてまたキスをした。今度はもっと深いキスだった。少しだけ安心したような気がした。

 そうして寝てしまった。と言ってもすぐに寝た訳じゃない。色々あの後にイケナイことをしていた、気がする。実際2人とも裸だった。どんなイケナイことをしたかは寝てしまってあまり記憶が無いし、恥ずかしくて言いたくもない。

  「おはよ、みねね。昨日はどうだった?」

「どうって、嫌な気持ちはしなかったというか、そもそもあんまり覚えてないっていうか」

「誤魔化さないでよ、私だって恥ずかしいんだから」

  手で口を隠して笑いながらそう言った。

「ご、ごめん。でも、少し楽しかった気がする」

「そっか。それはよかった。嬉しいな。」

 そう言ってくれて私も嬉しい。

「じゃあみねね帰る、よね。」

「あの、」

  「ん?何?」

 とても恥ずかしかったけど、純粋な気持ちを伝えたいと思った。もしかしたらこれが友情、かもしれない。

「私の家までついてきてくれない?」

  「みねねの家まで?行く行く!」

 そう喜びながら返事をしてくれた。

「本当にありがとうね、なすずちゃん」

「あ、やっと名前で呼んでくれた。嬉しい」

「なんか呼びたいなって思って」

「いつでも言ってくれていいよ、呼んでくれたらどこからでも駆けつけるし」

「ふふ、ありがとうなすずちゃん」

 久しぶりに、または、初めて心の底から笑った気がした。

  そうして手を繋ぎながら私となすずは私の家に向かった。


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