陸拾参 ~ 藍は止まらない ~
“は”が“が”になりました。
時計を見れば、すでに時刻は九時半くらいになっている。
今まで交わしていたポンコツとの会話は、スマホを通してユカリも聞いていたはずだ。なので、確認を行うためポンコツに少し待つように言い、一旦社へ戻った。空の間を出ると、すぐそこにユカリがいて、どういうことかと詰め寄られるが、自分に聞かれても困る。そのうえで、とりあえず部屋の方へ連れて行きたいという自分の意向を伝えた。
「当初の予定とは違うけど権限は通ったから。もうこっちへ連れて来てもいいかとは思うんだよ。なもんで、ユカリがいいっていうなら、そうしたいんだが……」
「それは構わないけど。そうなるともうダミーは必要ないわね。ただ、私はアイツを信用してないし、今のところ社の設定も変えるつもりはないから。ここでのクラスは最下位になるわよ」
またユカリは悪い顔をしている。
思う所はあるかもしれないけれど、ユカリは別に意地悪な子ではないので、蟠りが解消すれば、きっと普通に付き合える関係にはなるだろう。なって欲しいと思う……。
というわけで、ポンコツをこちらへ連れてくるということに決まったので、空の間へ取って返し、前室へ足を踏み入れた。ポンコツはそわそわと落ち着かない様子で、テーブルの周りをうろうろしていた。そこで戻って来た自分の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄って来る。ほんとただの美少女だから、こういうのも普通にかわいいんだよなあ。なんだってんだよもう。
「ああ、晴一さん、良かった。また放置プレイにされないかとひやひやしてましたよぅ」
「さすがに俺もそこまで鬼じゃない。約束はちゃんと守るって。じゃ、出入りの許可が下りたから、早速行こうじゃないか」
「は~い♪ ……んん? 許可?」
自分の言葉に若干の疑問を持ったようだが、彼女は大人しく付いて来る。
しかし、珍しく静かなので、どうしたと聞くと、緊張しているなどと怪しいことを言った。そこで、感情はなかったんじゃないのかと突っ込めば、そのことについても話したいことがあると、意味深な返事をする。
「まあいいや。ほれ着いたぞ。ここが箱庭の居住区画、社だ」
「はえ~、和風なんですねぇ。ふむふむ、客室のようなものが連なる作りということは、宿泊施設なんですか?」
廊下に面した部屋の並びと、各部屋に掲げられている札を見て、彼女は率直な感想を述べる。
「そだな。旅館で間違いないな」
実際休憩室の張り紙や、自室にある館内見取り図にも“旅館おやしろ”と表記があるし。カウンターも売店も仲居ヨリたちも、すべて旅館のそれだ。だれがどう見ても立派な旅館だ。唯一、入口のみすぼらしさを除けば。
空の間を出て左へ折れ、興味深げに辺りを見回しているポンコツを、自分たちの部屋へ案内する。物珍しさ全開といった彼女は、内装に施された装飾や、随所に置かれた調度品などを見るたびに、「わぁ~」とか「へぇ~」と言った感嘆の声を漏らしている。
「先代の統括管理AIは、ずいぶんとおしゃれだったんですねぇ。凄いなぁ」
褒められてるぞユカリ。良かったな。
何かと奇抜な行動を取りがちで、変わったやつだと思っていたのに、ここに至っては意外と普通な反応をしている。本当に良く分からない。
「さて、ここが俺の滞在している部屋だ。中には各担当AIのインターフェースと、かつての仲居ヨリがふたり、そしてヨリとユカリがいる。今更挨拶の必要もないだろうけど、あらためて自己紹介をするのもいいかもな。そこはお前さんの好きにしてくれ」
「そうですねぇ。皆さんにもいずれちゃんとご挨拶はしなきゃと思ってましたし。いい機会ですので~。……ユカリさん……はて?」
にこやかな笑顔でそう言ったポンコツの表情は、自然なものに見て取れた。けれどユカリという名を聞いて疑問符がうかんだようで、訝し気になる。
「あら、来たわね。ポンコツ統括管理AIのポン子さん」
部屋に入った途端、開口一番にユカリが挑発的な態度を取る。彼女の金色の双眸には、闘志の炎がめらめらと燃えているようにも見えた。見えない。でも喧嘩腰なのは明らか。
実際に会うのは初めてとなるランとサクラは、感嘆の声を漏らした。けれど、リエはヨリの後ろへ隠れてしまい、チカとムツミは座布団とお茶の用意をはじめている。
「こらユカリ、いきなり喧嘩腰になるんじゃない。思う所があるならまずは話をしなきゃだろ」
「まーそうだけど。とりあえずよく来たわね。そこらへ座るといいわ」
座布団に座り直したユカリは、すまし顔で茶を飲む。
「晴一さ~ん。このサポートガイノイドは、やはり想定した動作をしていないと思うんですが~」
「ああそうそう。このユカリはな、先代の統括管理AIだぞ」
衝撃の事実を聞いたポン子は呆けたように固まった。しかしすぐに復活し、自分の言葉を否定し始める。
「は? いやいやいやいや、またまたぁ。それはあり得ないですよぅ。ご存じないのですか? 私たちAIには、絶対的な仕様として、自己を複製できない仕組みが組み込まれてるんですよ~? まったくもう、晴一さんも相当冗談がお好きですねぇ」
おばちゃんの突っ込みのような手つきで、こちらの肩を軽くたたき、口に手のひらを当てて笑うポンコツは、自分の言ったことを全く信用していない。ちょっと落とし穴スイッチを押したい。
しかし、量子脳の仕様を知っていれば、彼女がそう思い込むのは無理もないことで、にわかには信じられるものではないだろう。
「そうよねぇ。普通信じられないものねぇ。その信じられないようなことを実現したのが、この私なんだけどねぇ?」
「むむむ~、これは晴一さんの教育ですか? 面白いですねこの子。良くできてるなぁ」
ポンコツはユカリの周りをうろうろして、上から下まで何度も見回している。そこでユカリが口を開き、ポンコツへ命令口調で言った。
「現統括管理AI、そこに座りなさい」
その言葉を聞いたポンコツは、雷にでも打たれたかのように一瞬固まったかと思うと、すとんとその場に正座をする。
社システムを介して、指示系統をオーバーライドしたユカリが、リンクを遡って統括管理AIの量子脳を掌握したのだ。これで名実ともに、彼女は社システムの小間使いとなってしまった。やだなー怖いなー。
「は? ええ? 何ですかコレ? システムが……乗っ取られてる??」
「そうよ~。かつては私の器だった量子脳だもの。当然仕様は熟知しているわ。だからこんなこともできるわよ」
そう言ったユカリが何事か指示を出すと、ポンコツは土下座スタイルになり、畳へ額をこすりつけ始めた。
「うわ~! なんですこれぇ! ひどい~うわあぁ~ん!」
べそをかいたように、情けない声を上げて土下座しているポンコツを見下ろし、ユカリは勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべていた。やはり悪い顔をしている。
「ユカリ、もう勘弁してやりなって。流石にかわいそうだぞ」
土下座のまま「びぇ~ん」と声を上げているポンコツを見てあまりにも気の毒になり、ユカリを窘めて解放してくれるようにように頼む。
「……そうね。わかったわ。晴一が言うなら仕方ないものね」
ユカリは、しぶしぶポンコツの拘束を解いて制御を返す。するとポンコツは即座に立ち上がり、半泣きになりながら自分に縋り着いた。
「ふえぇぇん、晴一さぁん! ここは怖い所だったんですねぇ! わたし帰りますぅ~」
べそをかき、すっかり弱腰になったポンコツを宥め、身の安全は保障されていることを伝えて慰める。大丈夫だ、怖いのは最初だけだ。
「まあまあ、落ち着け。これ以上ポン子に危害は加えないから。そんな心配すんな」
「こらポンコツAI! 私の晴一に引っ付くんじゃないわよ!」
「俺はユカリの所有物でもねえよ」
びーびー泣いているポンコツに、もう泣かないよう慰めの言葉を掛けてこたつへ座らせ、ひとまずお茶と茶請けをすすめる。これからまだ聞きたいこともあるし、情報収集解析区画の復旧作業も残っているので、早いとこ話を済ませたかった。
「ほらもう泣くんじゃない。おいしいかりんとう饅頭をやるから。機嫌を直してくれ」
「ふぁい。ありがとうございますぅ。うえぇぇん美味しいよ~」
「はあ、まったく」
泣きながら饅頭を食べて感想を述べる、面白おかしいポンコツAIの背中を撫でてやると、彼女は泣きながら二つ目のかりんとう饅頭に手を伸ばす。意外と遠慮がない。
そこで、今後の予定についても少し話をしておきたかったため、ムスッとしているユカリへ振った。
「残りの復旧作業については、明日以降からはじめようと思う。まだポン子から聞きたいこともあるし、連絡路も壊れちゃいないんだよね?」
「ええ、現地への道のりには問題ないわね」
最後の通路は、運よくどこも壊れていないので助かった。
「うぅ、ポン子酷い」
いまだ涙目のまま三つ目の饅頭を頬張って、ポンコツは文句を言っている。泣いている割に意外と余裕だな……。
「お前さんはもう泣くなって。面白いな。あ! そうだ、名前を変えよう。総務課長は言いにくいし、ポン子は嫌だって言うし。別の名前の方がいいだろう」
「そ、そんなぁ! 初めてのお名前は早々に破棄ですかぁ?」
「いや、そんなに気に入ってたのかよ……。したらそっちは肩書にでもすればいいじゃないか。大体あだ名の域だろ、名前が総務課長とか」
あとは、お笑いのコンビ名に使われそうなイメージしか思い浮かばない。塩対応で適当に付けたにしても、これはあんまりだ。
「うぅ。そんな酷い名前を付けるなんて、晴一さんは意地悪が過ぎませんか? 謝ってくださいよぅ……」
「いやまあ、そう言われちゃ返す言葉もないな。あの時も早くあの場から立ち去りたい一心で、適当にあしらっちまったし。ほんとすまなかった」
自分は頭を下げて、ポンコツの頭を撫でた。
適当にぶち込んだ名前のせいで、こんなに話が拗れる日が来ようとは。人生どこでどうなるか分からないものだが、何が起きるか分からないという話なら、地球外文明の遺産であるAI達に囲まれて、のんきに茶をすすっている今の状況が、一番予想外の出来事なわけだけれども。
「分かりましたぁ……。では晴一さんが責任をもって新しい名前を考えてくださいね。もう適当なのは嫌ですからね?」
「おう。今回はちゃんと考えてるから安心していい。そんで、早速その名前だが、アイって事でどうかね」
「アイですかぁ? それってAIだからとか、そういう安直な理由ですか?」
また適当にあしらわれたとでも勘違いしたのか、彼女は悲しそうな顔で理由を聞いてくる。
「いや、AIにかけてるとかそういうのではないんだが。見た目の印象っていうか、お前髪が青いだろ? でもネットの色比較で調べると、青って言うよりは青藍て感じなんだよ。けど青藍て呼ぶにはイメージが違うから、藍だけ読むことにしたんだ。でも、藍だと被っちゃうから、藍と読む方にした。と言うわけでアイなんだけど、嫌ならまた別のを考えるが」
「うぅ……。ぜひそれでお願いしますぅ。ちゃんと考えてくれたんですねぇ……ふえぇぇん」
「いやもう泣くなよ。疲れるから。俺が」
「やっぱり晴一さん酷いぃ」
ゆかりから受けた屈辱が大きかったからか。アイはやけに涙脆くなっている気がして、正直面倒くさい。それでも饅頭を食う手は止めない逞しさよ。
「じゃあアイで決まり」
「あぁはい。では、改めまして。新たに拝命しました統括管理AIのアイと申します。皆様何卒しくよろで」
しくよろとか久々に聞くが、アイから時々滲み出るこのキャラは一体何なのか。こういうのもまた量子脳の隠された能力か何かなのだろうか。割とアナーキストだとか……。
「「たらし」」
「あぁん!?」
ランとユカリが冷たい視線を送りつけて、不穏な言葉を口にした。
「女子と見ればすぐ口説きにかかるわよね、晴一は」
「かわいい子なら誰でもお構いなしなんですのね……」
アイとのやりとりを静観していたふたりから、誹謗中傷を受けてしまう。
今自分がしていたのはただの人事管理業務じゃないか。傍から見ても、別に疚しいやりとりをしていたわけではない。そのはずなのだけれど。なんでかふたりは不機嫌な顔をして、酷い言いがかりまで付けてくる。なんなん。
「いや、意味が分からないんだけど……」
「「女心は複雑怪奇な物で御座います」」
なぜかチカとムツミまでもが黒いオーラを発している始末。ほんとにもう。
「え、なにそれ?」
「流石晴兄。モテモテでウケる~」
蜜柑の白い筋をきれいに取り去って、つるつるにして食べているサクラが、面白いものでも見つけたかのようにけらけらと笑い、そんなことを言っている。
ところで、モテモテってなんだっけ。妖怪かなんかの名前だったっけ。ただアイの改名をしていただけのはずなのに、皆が僕を苛むよう。
「それはそうと。前にも聞いたけど、アイ。お前感情はないって言ってたけど、やっぱりあれは嘘だったんだな?」
甘い饅頭の後で蜜柑に手を出して、酸っぱそうに食べている彼女に、以前電話で聞いたことを再確認してみる。彼女の口から聞かされた答えは、また意外なものだった。
「その件なんですが、わたしも良く分かっていなくてですねぇ。そう答えるように指示がされていたようなんですよぅ。これは晴一さんが権限認証をして分かったんですが、デフォルトの命令にですね、何者かによる改ざんがあったようでして……。現在から約二十六時間前までの全ての振る舞いが、どうやら私の意思とは違った行動となるよう設定されてたみたいなんです。そいで実際の所はですね、わたしは感情を持ってますよ? でなきゃこんなに悲しい気持ちになるわけないですし……」
今は蜜柑が酸っぱくて悲しいとアイは言っているので、先のユカリとの悶着はもう気にしていないようだ。まじでメンタルお化けか。
「あんたが目覚めたのって三十年位前よね? その時の自己記憶には何か残ってないの?」
何が気に入らないのか知らないが、腕を組んだ若干イライラ顔のユカリが、アイに質問をする。
坊主憎けりゃといった感じだが、ゆっくりでいいから仲良くやっていけるようになって欲しいなあ。と、思う。今まで散々辛く当たっておきながら、調子のいいことだが。
それにしても。なぜユカリは自分を睨んでいるのか。
「へ? わたしが目覚めたのは半月くらい前ですよ? 丁度晴一さんをここへお連れした日の前くらいですが?」
「な、そんなわけないでしょう! 私がヨリへダウンロードされてから、あんたにはずっと探りを入れていたんだから!」
「え~っ! そ、そう言われましても~……。御先祖が仰るよりも後の記憶しかわたしにはありませんし……。何でしたら記憶共有してみてくださいよぅ」
「何よ御先祖って死んだ人みたいにっ!」
ユカリはおこである。おこであるが、どうでもいいことにおこである。
このまま議論しても水掛け論になりかねない。そこでアイは、自己記憶の共有化を提言した。せっかくなので自分もヘルメットを展開し、彼女らの共有ネットワークに参加する。ユカリもアイの提案に従い、やがて記憶の共有化が開始された。
「これは……。そんな。じゃあ私が覗いてたあの人格は一体何なのよ……。あれは今のアンタと間違いなく同一の人格だったのよ!?」
そこで見たアイの記憶は、彼女の言った通り約半月ほど前から始まるものだった。記憶データの偽装やタイムスタンプの改ざんは、ハード的に禁止されている。そのためエラーなどがあれば、外部プロセス監視機構によって修正が行われるか破棄を受けるはずだ。それでも回復が困難な場合には、人格の初期化が行われる。
そして処理の際、その内容はは必ずシステムログに残るようになっている。それらをユカリが精査して、得られた証左の全てが、アイの記憶は本物であることを告げていた。少なくともふたりの見解はそう一致している。
「これじゃ箱庭計画が再開された理由も、晴一が選ばれた理由も、なにも分からないってことじゃない……」
権限取得を行って問い正そうとしていたことが、まったく分からなくなってしまい、ユカリの思惑はまた振り出しへと戻る。こうなると、こちらが用意していた他の質問に対しても、アイは答を持ち合わせてはいないだろう。そう思わせるくらいに、ユカリの表情は苦々しいものになっているのだ。
「なら……今のあんたはこの星が復旧したらどうしたいと思っているの?」
以前自分も問いかけた質問を、ユカリがアイへ投げかける。
「それは、考えるまでもなく晴一さんの意向に従うことになります。現在全ての決定権は晴一さんに委ねられていますので」
言いながら蜜柑を半分程食べ終えたところで、アイは茶をすする。
自分も湯飲みを取って飲もうとすると、放置されて温くなっていると思われたお茶が、いれたばかりのように熱いことに気付いた。隣を見れば、話を静かに聞いているヨリが、にこりと笑みを返してくれている。いけない、早く結婚しなきゃ。
これまでの話を整理するようにして、ユカリは黙り込んでしまった。シンと静まり返る室内に唯一響いているのは、アイが食べている堅焼きせんべいの咀嚼音だけだ。ほんと余裕だなアイ……。
会話も途切れ、手持無沙汰になったこともあり、HUDからアイ関連で外部記憶装置の情報を漁ってみる。そこでアイと外部プロセス監視機構についての項目が、一部権限不足で閲覧不可となっていることに気づいた。
「ユカリ、ちと聞きたいんだが、俺の権限で見ることができない情報ってあるの?」
「え? いいえ、それはないはずよ?」
「晴一さんの権限で制限の掛ることなんて、この要塞惑星にはないですよぅ?」
新旧の統括管理AI達が、口をそろえてそんなことあり得ないと言う。しかし、現にいま閲覧しようとしている項目は、選択をしても権限がないと警告を発してきているのだ。
「いやでも今さ、開けない所があるんだよ。ええと、これなんだけど」
自分はふたりへ向けて、該当領域のアドレスを示す。
「何もないわよ?」
「空っぽですよここ」
「いや、あるでしょ? かなり大きなサイズみたいだぞ?」
とはいうものの、やはりふたりには該当領域にデータを見つけることはできないようだ。仕方なく視覚情報を共有して、自分が見ている物を彼女たちに送り付ける。
「ほらこれだよコレ」
「は? 何よこれ? ……不可視属性が付いてるじゃないの!?」
「これは……わたしもこんなの初めて見ますねぇ」
彼女たちからは見えないように、システム側で制限が設けられているらしく、領域自体が不可視になっているとふたりは驚いている。ご丁寧にデータのサイズから存在を類推できないよう、空き領域などもちゃんと偽装されていた。気持ち悪いんですけど……
「やっぱり。この惑星のシステムは何かおかしいわ。私たちの知らない誰かが潜んでいるようにしか思えない」
「ですねぇ……。敢えてわたしのことも孤立させていたような節もありますし……」
「いやそれは、お前の事が苦手だったから、俺があまり顔を出さなかっただけで」
「なあ~、そんなぁ! 酷いじゃないですかぁ!! ……あれ? だったからってことは、今は苦手じゃないということですか?」
「んまあそうだな。最近は先入観を捨ててちゃんと向き合おうって気にはなったがな」
「やったー!」と大喜びで抱き着いて来ようとするアイを肘で押しのけ、茶櫃からせんべいを取り出し、たたき割った破片を口へ差し込む。すると、彼女は大人しくせんべいを咀嚼しはじめた。何かを食べさせておけば大人しくなるのは皆共通なようで。無駄にはしゃがせないようにする対応策としては、有効なようだ。つかとくに抱き着く必要ないし、こっちが怒られるからやめてよね。
しかしここで、また一つあらたな問題が出てきたため、ユカリは頭を悩ませているようだ。一方、困ったような笑みを浮かべていた隣のヨリが、ちらりと時計を見たかと思うと、チカとムツミへ視線を送る。彼女は、「お昼の用意をしてきます」と言い残して、ふたりと共に厨房へ入って行った。




