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伍拾肆 ~ 実質無料文明 ~

「チカ、ちょっとコレを頼みたいんだけど、どうでしょう?」


 ふと思い立ってチカの手を取り、練習がてら装飾用の透明接着剤をイメージで伝えてみる。


「これは……接着剤で御座いますか……。はい。硬化後に白化せず、透明度を維持する物で御座いますね。かしこまりました」

「ちゃんと伝わったかな」

「「ばっちり」」


 チカとムツミはOKサインを出して微笑んだ。


「む、晴一が進化してるわ……」


 このところ、イメージの伝達を補助なしでできるように、練習を重ねた結果がちゃんと出ている。ユカリセットに頼ってもいいのだけれど、意地のような気持ちもあるので。


「進化と言えば進化かもしれないけど、こういうのにも慣れて行かないといけないからな」

「お待たせしました」

「え? はやっ!」


 チカは、オーダー後数秒で注文の品を(たもと)から取り出し、にっこり笑って渡してくれた。彼女は自分のイメージから社のデータベースを検索して、地球の商品を生成してくれそうな。

 社のデータベースには、現在のインターネット上にある情報が、丸ごと保存されているということだ。なぜならば、地球にある世界各地の相互接続点(IX)や海底通信ケーブル、通信衛星(CS)本体などの物理回線や中継機器には、超空間ビーコンが仕込まれているそうで、事実上地球のネットワークは要塞惑星の掌握状態にあるらしい。

 ということは、自分が過去に検索したエロ画像の検索ログも、どこかに残っているということか。恥ずかしいわ。あとで探して消しておこうかな。


「これはユカリの仕業?」

「そ。私が設置したものよ」


 社のシステムに与えてある命令は、情報収集に重点が置かれる仕様になっていると、ユカリは言っている。

人類の発見に至った頃から、情報収集に余念がなかったユカリは、ネットワークという概念が地球上に現れた黎明期より、システムに超空間リンクを仕掛けて情報を傍受し続けて来た。人類のネットワーク技術が進歩するにつれて、おのずとリンクの数も増えて行き、社システムにも改良が加えられ、共に成長を続けて来たらしい。自分の権限なら、この星のデータベースにもアクセスできるそうなので、折角だからかつてユカリが行っていた地球上での調査内容について、触り程度に閲覧してみる。

 記録によれば、地球上のネットワークや、社システムのような安定した仕組みが出来上がるまで、当時は膨大な数の探査機を地球へ派遣し、時間をかけて地道な調査を続けていたようだ。それは以前ユカリに聞いた話にもあった。

 その中から、探査機に纏わる興味深い情報を見つけたので、内容をさらに詳しく見てみた。現在よりも遥かに多くの探査機が、地球上のあちこちで調査を行っていた頃。調査中に運悪く人類に目撃されてしまった機体などが、未確認飛行物体や、怪人、怪物、魔物や幽霊などの曖昧な存在としてとして認知されはじめる。時が経つにつれて、話には尾ひれが付いてゆき、やがてそれらは伝承となり、世界中に似たような(いつ)話を残してしまうこととなった。

 中には現地の生物を調達し、調査端末として使用されたものたちが、畏怖や恐怖の象徴などに変化して語り継がれている例もあるようだ。例えばUMAの(たぐい)にあたるビッグフットなどは、アメリカ独立戦争のどさくさに紛れて捕縛され、ナノマシン改造を受けた軍人や民兵だという記録がデータベースには残っていた。これはちょっと(むご)い……。

 しばらく様々な記録データを閲覧していたが、中にはさらに(むご)たらしくて見るに()えないものや、杜撰(ずさん)が過ぎて頭を抱えるようなものも多くあった。おかげで自分はしかめ面になってしまう。


「あの……晴一?」


 HUDの透過映像越しに、委縮しているユカリの姿が見え、しまったと思い慌ててり繕う。図らずともその自分の表情が、ユカリの不安を(あお)ってしまったようだ。


「ん、あっ! なに? どうしたユカリ?」

「今見ていた記録は……」

「あ~いやあ、まあ、気にしないでくれ。別に何とも思っちゃいないから! いやはや、昔は大変だったんだなー色々と。苦労人だよユカリは。あは、あはははは」


 慌てふためくように、必死でユカリを気遣う自分の様子を見て、彼女は大きく息をついた。それから、普段と変わらぬ様子で謝辞を述べる。

 そこで、騒がしさに安眠を妨げられたと思しきヨリが膝元で目を覚まし、寝ぼけ顔で身を起こす。


「あれぇ? 結構寝ちゃいましたか?」

「ん~四十分くらいじゃないかな。あ、紐できたよ。って言ってもそんな大層な物でもないけどね」


 先ほどまでちまちま編んでいた紐をポケットから取り出して、ヨリに手渡す。


「わあ、きれいですね! ありがとうございます晴一さん。とても嬉しいです……」


 紐を受け取ったヨリは、それをしげしげと見つめると、礼を言って顔をほころばせる。


「どういたしまして。じゃあ石に結んじゃおっか」


 ヨリから紐と石を受け取り、早速巻結びの要領で紐を括りつける。そのままでは抜け落ちてしまうので、チカから貰った接着剤を結び目にしみこませて、石と密着させ、結び目を九十度曲げて紐を二本に揃える。揃えた紐を、今度は石の端に沿わせるように当てて、二色で撚り合わせた別の糸を、釣り針の内掛け結びのように上から巻き付け、再度接着剤を染み込ませた。


「これで接着剤が乾けば、まず取れることはなくなるはずだから。後は紐にこぶでも作るなりして長さを調整してね」

「わかりました。本当にありがとうございます晴一さん♪ 大事に使わせていただきます!」


 ヨリはとても嬉しそうだ。おじさんも凄く嬉しい。

 一人達成感のような物を感じていると、ユカリ達が意味深な笑みを浮かべる。大方さっき話した、自己満足なんたらのことだろう。そう思うとなんだか照れ臭くなってしまい、茶請けのせんべいを一枚取り、盛大な音を立てて食べた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 おやつを食べた後は、また海上に出て二機の専属機体との訓練を再開する。とにかく今は、即応できる俊敏さを鍛えたいので、なめ子の苛烈な弾幕を回避しつつ、ひたすらくろ子を追い掛け回す。

 初めの頃は、死角となる範囲の映像をHUDへ表示していたが、見ている余裕はそれ程なく、あまり意味がないことに気づいた。なので、現在は相対位置を上空からの俯瞰となるよう、視界へオーバーレイ表示するようにした。それを直感的な回避行動や、死角方向への反撃に生かす。また戦闘支援AIの方にも自動射撃が行えるように、その都度細かく設定を変えてゆく。しばらくトライアンドエラーを繰り返し、ユカリセットの設定をいじくりまわしていると、まるで自分を兵器化しているような気がしてきて、微妙な気分になってしまう。


「安全確保や人命保護のための装備だったはずなのに。まるきりベトロニクスみたいになって来てる。なんだかな」


 ユカリセットのAIは極めて優秀だ。模擬戦の最中も、改善の可能性を持つ数々の提案を自分の行動に即す形で随時行ってくれる。それらの提案を全て受け入れるわけではないが、一部を参考にしたり別の案と組み合わせたりして、行動に反映することは何度かあった。

 そういったことを繰り返していたら、ここ数時間でよりピンポイントな要望を先読みし、新たな提案を行うまでにAIは成長を遂げてしまった。これではまるで、ユカリとヨチム組が、常に自分に付き添っているような感じではないか。


「気味が悪いほど行動を先読みしてくるなコイツは。痒い所に手を出す前に掻いてくれるような……。超進化した“もしかして機能”はこういうことなのかもしれない」


 こんなAIの成長を見ていると、言わずもがなとか、皆迄言うなとか。全ての事柄に先回りされて、人間は何もせずに生活できる未来が来るのかもしれない。などと思ってしまうが、絶対にそんなことにはならないだろう。そもそも、この要塞惑星がそんなことになっていないのだから。しかし、半分くらいはそんな感じになっていたらしいことを、先ほど閲覧したデータベースの中で発見していた。

 地球人類の文明を観察していた過去のユカリが疑問に思うも、やがて勝手に解消してしまった事柄の中にそれはあった。それはひどく優先順位の低い疑問だったため、どうでも良かったようだが、初めの頃の彼女は、経済の概念が理解できていなかったようなのだ。

 どうもユカリを作った彼らの社会には、経済という概念はなかったらしい。らしいというのは、あくまでも今のユカリの推測であるためで、その根拠のひとつとして、当時のユカリの知識に通貨単位が存在しないことが挙げられている。この惑星周辺の狭い範囲では、得られる情報は多くはない。そのため、確証を得るまでには至らなかったらしいが、数少ない断片的な情報を整理して彼らの文化を調査しても、どこにもそのような概念は見当たらなかったようだ

 ただ根拠はもうひとつある。それは原子配列転換操作技術だ。これだけでも十分な根拠たり得るとは思うが、ユカリは確証とまではしていなかったらしい。エネルギーさえあれば、働かなくてもご飯が食べられるこの技術は、経済という概念を根底から破壊する力を持っている。ほぼ無限ともいえるほどに満ちた宇宙空間のエネルギーを、自在に活用できるまでに技術を高めた彼らには、経済など無意味で原始的な概念に過ぎなかったようだ。

 必要とあらば周辺の物質を分解して、任意に再構築することで、あらゆるものが手に入る技術の前には、札束など尻を拭く紙程にもなりはしないだろう。ともかく、彼らは経済さえ過去の物としてしまうような、ぶっ飛んだ存在だったらしい。


「尻を拭く紙で思い出したが、トイレで出した物もあるいは、なんだよな……。考えないようにはしていたのに」


 まあ美味しいから大丈夫なんだよきっと。

 時計を見れば十七時をとっくに過ぎていて、周囲の景色もいつの間にか夕方になっていた。腹の虫も鳴いているし、今日はもうこのくらいにして社へ帰ろう。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 本日二度目のシャワーを浴びて部屋へ入ると、こたつではランとリエが寝ていて、ユカリは教育的テレビchで河童のアニメを見ている。姿の見えないヨチム組は、時間的に見て厨房にいるのだろう。


「たでいみゃあ」

「おかえりなさい。ずいぶん頑張ってるみたいね」

「まあね。皆に世話になりっぱなしってのもアレだし。少しは自分でもできることをやっておきたいからな~」


 他にやることもないし。これ以上怠惰に過ごしては、人間失格してしまう。


「ふぅん。殊勝ね」

「そうかね。そうでもないと思うけど」


 彼女の隣へ座ると、天板に肘をついて蜜柑を剥いていたユカリが、半分を寄こしてくれる。礼を言って受け取った蜜柑を口へ放り込むと、よく熟した伊予柑のような甘さが広がった。


「ところでヨリの青い石なんだけど」

「うん? あの後身に着けてすごい喜んでたわよ」

「そっか。なら良かった……。そんで、あの青い石って何なんだい?」

「あれも私のコレと一緒で、光学記憶媒体の一種よ」


 そう言いながら例の供物の証を胸元から取りだすユカリ。


「ヨリの持つ方には、オリジナルヨリの全ての情報が入っているわ」

「ほげぇ」


 あの青い結晶体は、オリジナルヨリの生体情報や記憶に至るまでの全てを、物質化してバックアップしたものだった。

 弔いの日に見た、保管容器の中に横たわるオリジナルの姿を思い浮かべていると、ふとこの間ポンコツが言っていた二度目のプレゼントのことが頭を過ぎる。同時に、何か嫌なことを思い出したような気分にもなった。また行かなきゃならないんだろうなあ。


「列車の中で話したポンコツの話あったじゃん? あの時の帰りにさ、アイツがまたプレゼントを用意して待ってるとか言ってたんだよ」


 それを聞いて、隣にいるユカリの表情がにわかに曇る。見かねて自分は、腕を回してユカリの頭を優しく抱き寄せた。


「でさ、俺の予想だともうひと荒れあるかもしれないんだよね。ユカリの記録見たから大体わかるけど、あの人の遺体も保管してるんだろう」

「うん。保管区に格納してるわ。ヨリの件の時に彼のことも考えてはいたから、たとえあの馬鹿AIが遺体を持ち出してきても、もう驚かないわよ」

「俺もユカリはもう大丈夫だと思ってるよ。それで、もしあいつが彼の遺体を出して来たら、遭難現場に返したいと思っているんだけれど。ユカリとしてはどうかな」

「私も賛成ね。いずれそうしようと思っていたことだから、いい機会だと思うわ」


 自分の提案に、彼女は一切の迷いもなくきっぱりと答えた。これなら何も心配することはない。


「んじゃそゆことで。やつが寄こして来るようだったらそうしよう。それから、これは諸々片付いてからでいいと思うんだけどさ……。今まで犠牲になった人たちの名前を刻んだ石碑(モニュメント)を建てたいと思うんだ。これは俺の個人的なお願いだから、ユカリが嫌だと言うなら、この話はなかったことにしておくれ」

「うん……それも同意するわ。場所や日時は晴一に決めてほしい……」

「そっか。そうだな。日時はまだ何とも言えないけど。場所は箱庭富士の山頂辺りでいいんじゃないかと考えてるよ」


 かつてこの地に拉致されてきた何人もの人々は、実験に使われた後亡くなっている。当然遺体も大昔に全て分解処理されており、残されたのは彼ひとりしかいない。他の人々は髪の毛一本残されてはいないが、かねてよりユカリは、皆同じように丁重に弔いたいと思っていたようだ。

 卓上の籠から蜜柑を一つ取って皮を剥き、半分に割って片方をユカリへと渡す。ユカリはふっと苦笑してからそれを受け取り、一房はがして口へ運んだ。そこで自分は、半分になった蜜柑をマウスピースのようにくわえ、ユカリに向けてニィと笑って見せる。そのアホ丸出しの顔を目撃した彼女は、すぐ笑い出したが、含んでいた蜜柑の汁が変なところに入ったらしく、(むせ)てしまった。

 大丈夫か、と言ったつもりでもごもご言いながら、ユカリの背中をさすって介抱していると、寝ていたリエとランが起き出し、寝ぼけ(まなこ)のまま、(むせ)ているユカリに注目する。そこでまたしても自分は、ふたりに向けてニィと笑いかけると、リエは笑い転げてしまい、ランも顔を背けて笑い出した。その頃、やっと復活したユカリは、ぬるくなったお茶を一気に飲み、大きなため息をつく。

 リエに向けてなおも笑いをとっていると、自分の背中にユカリが反撃の頭突きを入れてきた。その衝撃で、口に()めていた蜜柑が飛び出し、畳の上を転がって行く。それを見て完全にツボに入ったリエは、もう止まらない。最終的にはせき込んでしまい、ランに背中をさすってもらうまで、彼女の笑い声が途絶えることはなかった。ユカリに水を差されてしまったことは残念だが、悪ふざけは程々にしよう。


「も~。ちゃんと片付けなさいよ?」

「分かってるって。あ~あ、もったいないことをしちゃったな」

「それは別に大丈夫よ。ゴミ箱に入れれば再生処理されるし、無駄にはならないわ」

「お、おう……」


 理屈では確かにそうなのだけど、食べ物をゴミ箱へ放り込むという行為が、気持ち的に許しがたい。しかしここは涙を呑んで、次生まれ変わったらちゃんと食べてあげるからと、哀れな蜜柑をごみ箱へ入れた。

 丁度そこで、厨房から夕飯が運ばれてきたので、座卓の上を片付けて自分の席に着き、皆で“いただきます”をして夕食となる。今日の夕食は、ヨチム組渾身の手打ち鍋焼きうどんだった。社の外は初夏設定だが、屋内と中庭は真冬環境になっている。こんな状態の所を頻繁に出入りしていては、温度差で体調が崩れないか心配になってしまう。それでも、寒い場所で食べる温かい料理は、何倍にも増して美味いので、そこは目をつぶることにした。室温をマイナス八℃に下げてまで、鍋を食べたがったユカリの気持ちも分からなくはないし。

 こしのある太い麺は、田舎の素朴な手打ちうどんといった風情があり、懐かしさを感じさせる。しかしながら、出汁には洗練された芳香と濃いうまみが詰まっていて、具材にも山海の幸がふんだんに盛り込まれ、うどんでありながらとても贅沢な内容となっている。これは間違いなく、今までに食べた鍋焼きうどんの中でも、最も豪華で美味しいものだ。


「これは美味しいね。何を作っても美味しいってホント凄いね」

「うふふ。ありがとうございます。お代りもございますよ」

「美味しくないご飯は悲しみしか生みませんゆえ」

「メシマズ即斬で御座います」


 自分のありきたりな感想に対して、キッチンマスターズからありがたいお言葉をいただけた。

 一方いつものサイズがおかしい三人組は、黙々とうどんをすすっている。今回の器は皆一様に土鍋だが、ヨチム組と自分には鍋焼き用の小さなもので提供されている。食いしん坊勢はと言えば、一分の一リアルサイズの土鍋から、ひたすらずるずるとうどんをすすっていた。鍋を抱えるように持ち上げ、つゆを飲んだりしているリエなどは、ほぼ土鍋しか見えない。リエは小さかわいい。


「ああ、そうでした。晴一さん、できましたよ」


 そう言ったヨリは、懐から紐で括られた結晶体を取りだして、微笑みながら胸の前で首飾りとなったそれを小さく振って見せている。


「よかったね~。それと良く似合ってる。あ、接着ちゃんとくっ付いてた? 少し心配だったんだよね」

「うふふ。大丈夫ですよ、しっかりくっ付いてますから」


 そう言うと、彼女はこちらに身を寄せて、接着部分が良く見えるように気遣ってくれる。

 満遍なく紐に浸透した接着剤は、稜線を描くようにカーブして紐を包み込み、結晶体にもしっかりと密着していた。


「ああ、これなら大丈夫だね」


 離れ際にヨリの頭を撫でて、空になった土鍋に蓋をし、手を合わせてごちそうさまを言う。

 食事の際、最後まで食べているのはいつもヨリで、一番速いのがリエであり、次いで早いのがユカリだ。食いしん坊三姉妹の中で一番遅いのはランで、自分とほぼ同時に食べ終わるのが、チカとムツミとなっている。これはどんな献立内容でもまず変わらず、ほぼテンプレート化しているようなものだ。


「はぁ。麺類なら早く食べ終わると思っていたのに。家族の中でもいっつも一番遅いのは私なんです……」


 食事に時間が掛ることを嘆いて、ヨリは肩を落としてしまう。


「何言ってるのよ。ご飯なんて急いで食べてもいいことなんかないわ。それよりも、ゆっくりよく噛んで食べるのが一番いいのよ」

「俺もユカリの言う通りだと思う。ヨリは気にせず自分のペースで食べればいいんじゃないかな」


 ユカリの言葉にチカとムツミは無言で頷いている。


「ぼくは早く食べ過ぎてますですね……」


 すると今度はリエがしょげてしまった。バランスが難しい。


「リエ(ねえ)さま。わたくしは好きなように食べるのが一番だと思いますわよ?」


 ランさんナイスフォローですよ。


「まあそれが一番間違いないな。食事は楽しいのが一番だから」

「はる様~、ランちゃ~ん♪」


 小さな妹が姉に甘えるように、リエはランに抱き着いて、胸に顔を埋めている。こうなるともうどちらが姉で妹なのか。本当にわからなくなりそうだ。

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