弐拾陸 ~ さぁ仕事の時間だ ~
持て余す暇を、長く苦しい闘いの末に打ち倒し。やっと到着した保守管理区画のプラットホームであったが……。
そこは点々続く小さな非常灯が照らし出す、仄暗い不気味な空間だった。
「ぼや~んとした、うすぐら~い現場を見て。アタシ、思いましたねえ。いやだな~気持ち悪いな~。なん~だか心細い……。そこで、ひょいっと上を見ると――」
「なにしてるの晴一?」
乗降口を下りて直ぐの所で周囲を見渡しながら、おじさんは恐怖の現場実況を行う。すると、車両乗降口からユカリと仲居ヨリたちが顔を出し、声を掛けられる。
「アタシも嫌いじゃないもんだからってんで――」
「それいつまでやるつもり?」
「……うん」
どうやらユカリんはじゅんじゅんをお気に召さないご様子。付け髭でもすればよかったかな。
地下鉄の駅をスケールダウンして、プラットホームをほぼ直通車両の全長分へと縮め、トンネルの開口部だけを残したような空間は、区画閉鎖のためほとんどの設備がシャットダウンされて静まり返っている。
しかし時折、どこからか腕時計のアラーム音のような音が一定周期で聞こえており、自分たちは音のする方へ足を向けた。音の発生源は壁に埋め込まれた制御パネルで、ステータスウインドウに表示された文字の点滅に合わせて、繰り返し発せられている。ヘルメットを被って文字の解読を行うと、設備の現状と、プラットホーム区画の緊急使用方法が案内されていた。
表示されている手順によれば、制御パネルを起動するには電源室へ行き、常用から非常用ラインに回路を変更する必要があるようだ。タッチ機能を持つパネルを操作して表示を切り替え、電源室への順路を探していると、ユカリにシャツを引かれる。
「こっちよ」
目的の場所へはユカリが自ら案内してくれるようだ。
「手順と作業内容はユカリが全部知ってるのかい?」
「ええ。いつでも情報は呼び出せるから、分からない事は聞いてくれた方が早いわ」
「わかった。頼りにしてる」
そう言った自分の言葉に、またそっぽを向いてしまったユカリに案内され、薄暗がりの中を壁に沿うようにして電源室へ向かう。後ろからは一定間隔を保ち、仲居ヨリたちが追従してきていた。よく見ると、HUDにも進行方向と目的地が表示されているじゃないか。さっきまでこんなの無かったけど、これはユカリからの補完情報みたいだ。ヘルメットは、限定的な共有ネットワークに繋がっていると言うから、これもそういった機能のひとつのようだ。
まもなく右手の壁に、PL警告表示のような高電圧注意のシンボルが施された扉が現れる。銀の金属色を放つそれの前で、自分たちは立ち止まった。ヘアライン加工が施された、ステンレスのような輝きを持つ扉。その制御機構がこちらの動きを検知したのか、暗転していた扉横の操作パネルが、ぽっと光を放つ。小さなパネルは、解錠条件となる権限の提示を要求している。
ユカリは取っ手へ触れるだけでいいと言うので、促されるままU字管状のハンドルに手を置く。すると扉は自動的に右へスライドし、室内への進入が可能となった。設備の大半は、こうして触れるだけで解錠される仕組みになっている。そうユカリは付け加えた。
「これってユカリが触っても開くんじゃないの?」
「それは無理。今この星で閉鎖区画の設備を使用できるのは、晴一ただひとりだけよ」
「え? ああそういう。てことは、これも復旧作業の一部に含まれてるってことなんだな……」
「そーゆーこと。厄介な仕組みよねぇ」
面倒くさそうな顔でユカリはこぼす。これをユカリ一人でできるなら、自分がここにいる必要なんて無い。そんなの考えるまでもないことだよなあ。
「確かに俺たちの目的を考えると、厄介ではある。でも、設備管理業務に携わることも多い自分としては、至極真っ当な安全対策だと思う」
「どうして?」
「そりゃあ、勝手に再起動しないことで被害の拡大を防いでいるんだから、安全機構としてはかなり模範的な仕組みだし。多少度が過ぎている部分もある気はするけど、兵器として建造された前提があるなら、それも納得だよ」
「ふ~ん。そんなもんなのね」
それが人命保護優先によるものなのか、はたまた設備保護優先なのか。どちらなのかは不明だけれど、不意な機能喪失を避けるという意味であれば、どちらであろうと目的は果たしていると思われる。
非常灯が灯る薄暗い部屋の奥へ進んで、ラインの切り替え操作盤の前まで来ると、盤面には簡易的な操作手順が掲示されていた。最初の操作部には、クランクハンドルが埋め込まれていたので、説明に従ってハンドル横にあるリリースボタンを押し込んだ。すると、ばねか何かの力でハンドルがゆっくり手前に出てくる。突き出されたハンドルの上の方には、“常時”“予備”“緊急”と表示のあるガスコックめいたつまみが付いるので、迷わず緊急側へ捻った。こういう直感的な操作案内は、慣れたものにとっては非常にありがたい。
“イナーシャの回転数が“可”表示となるまでハンドルを右へまわし続け、その後クランクを格納すると、接点が切り替わります。尚、切り替えの際に大きな音が発生しますのでご注意ください”
HUDに展開された訳文には、そんな文言が表示されていた。
説明に従って、自分は全身を使い、ゆっくりハンドルを加速させてゆく。ハンドルの回転半径は五百ミリメートル近くあって、歯車の減速比も大きいようで。結構な力を入れているのに、かなりの重たい。
軸の付け根の部分には小窓が付いており、回転数が足りてない場合は、赤地に白文字で“不可”を示すようになっていた。あほみたいに重たいハンドルをえっちらおっちら回していると、ようやく緑地の白文字で“可”の表示となったため、格納状態と同じ位置にハンドルを戻し、そのまま押し込む。ここまでの操作だけで息が上がってしまった。
すこし間を置いてから、盤の向こう側でガンガンガンと、何かを金槌で叩くような音が三回鳴り響き、先ほど捻ったつまみの上部で、緊急の表示灯が赤く点灯した。次に、ブレーカーに当たる開閉器の所へ行き、盤のくぼみにはめ込まれている棒を外す。それを、盤面に刻まれた長方形の開口部から、縦に半円を露出させている円盤の穴へと差し込む。
“レバーを四回上下させると回路が閉じ、非常電力の供給が開始されます。その際接続された機器が勝手に動き出さないように、各機器の電源をあらかじめ切っておいてください。これらを守らなかった場合、重大な事故につながる恐れがあります”
レバー横にある丁寧な注意書きに親近感を覚え、つい苦笑してしまう。
「なんか普通に地球の設備と変わらない注意書きなんですけど」
あまりにも馴染みのある設備と似通った仕組みに、そんな感想が漏れた。自分は電力系技術者ではないけれど、客先ではこういった物の近くで働く機会も多い。ここの雰囲気は落ち着く。
にしても。やはり緊急時の手動操作は信頼できる。これが通信回線経由での遠隔復旧とかだったら、対ハッキング性なんかはガタッっと落ちるはずだ。高度な技術で確立された電子戦の世界では、こういうアナログなやりかたの方が、保安性を高めやすいのかも。疲れるけれど、やっぱ人力最強か……。
「戸惑わなくて結構なことじゃない。あまりかけ離れていたら余計に時間を取られるもの」
「うむ、確かに。しかし、テクノロジーって一体……」
まるきりアンチテーゼのような復旧作業。
説明通りに四回レバーを操作すると、盤の裏の方から切り替え機と同じような衝撃音が聞こえて来て、同時に電源室内に眩い明かりが灯った。
それと共に、設備の各所からも低い稼働音が響きはじめ、静まり返っていた室内が少しだけ賑やかになる。なんの音は知らないが、少なくとも何らかの回転体が発する音ではない。地球の現場だと、こういう閉空間の場合くそうるさい換気扇なんかの空調音がすることが多いけど。
「そしたら、ええと……とりあえずここでの作業は終わりかな?」
HUDの作業手順を見直して、監督者のユカリにおうかがいを立てる。
「ええ。通電確認も取れたからもうここに用はないわ」
ユカリの承認も貰えたので、最期に再度各表示を点検し、部屋を後にする。
プラットホームへ出ると、ここでも照明が復活しており、先ほどとは打って変わって明るい空間に変わっていた。
アラーム音の聞えなくなった制御パネル前へ戻って、ステータスウインドウを確認する。先ほどまでは赤く表示されていた設備一覧も、今ではその全てが緑色に変わっており、いつでも使用可能なようだ。
数千万年もの間、休止状態で放置されていたというのに。これらの設備は、完璧な健全性を保っている。これなら別途メンテナンスの必要もなく、即座に稼働が可能だろう。
「初めは事前に点検しないでいきなり復電していいものかと思ったけど。そんなことをするまでもなく即使用できるってのが凄いね……。普通、長くほったらかしてた電気設備にいきなり通電なんてしたら、高確率で火吹いちゃうからなあ。恐ろしくてできないよ」
ちょっと絶縁が怪しくなろうものなら即ファイヤー。てんやわんやのおお騒ぎってなもんですよ。
「そこはほら、私のような超絶天才美少女AIを生み出した彼らの技術だもの。信頼していいと思うわ」
またこの娘ったら。隙あらば自画自賛マウント。
「うんまーそーだね。にしても、緑色ってのは宇宙共通で良好を表す色なんだな。ためになるわ~。あと眠いわ~」
ユカリの過ぎた自己賛美へ適当に返し、パネル上の頁を送って転送装置の項目へ切り替える。さらに詳細表示まで階層を降りると、こちらの方も無事起動していることが確認できた。これで、この区画での当面の懸念は解消されたことになる。作業数は少なかったけど、移動のせいで退屈していた時間が長かったから変に疲れた。
「よし。転送もできるってさ。どこも壊れてないみたいだ」
「はぁ~……。よかったわ、本当に」
ここまで大げさに安堵するユカリは初めて見た。とはいえ、転送装置の問題は彼女にとっても最大の懸念材料だったし。こんな反応になるのも無理ないか。まあ安心するよね実際。
「さ~て~と。今日の作業はこのくらいにして。もう寝るべ。転送が使えることがわかっただけで大収穫だし」
「そうね~。本当何よりの収穫よね♪」
満面の笑みを見せるユカリは、本気で嬉しそう。かわいい。
皆で車両内に戻ると、仲居ヨリたちはすぐに寝床の用意をはじめる。その間に風呂へ入ってしまおうと思い、バスルームへ行く。洗面台のある洗面所兼脱衣場の仕切りカーテンを閉め、ユニットバスめいた扉を開いた。するとそこには、半畳ほどの空間しかないコインシャワーのような設備があった。これは部屋の風呂より狭い。恐らく六分の一くらいの床面積だろう。ひよこの間の風呂場は、浴槽、便座、洗面台のスペースを合計すれば三畳くらいあるし。
しかし、汗を流せるだけで充分ありがたいので、いそいそと服を脱ぎはじめる。すると、またしてもユカリが駆け込んできた。ちょっと止めてよ、乳首見えちゃうじゃん。
「なんで勝手に入ろうとしてるのよ!」
「だーもう! お前さんねえ、ここはひよこの間の風呂よりよほど狭いんだぞ? 無理を言うんじゃないよも~」
「なによ~。お風呂は必ず一緒に入るって約束だったじゃない!」
「そんな約束をした覚えはない。勝手に約定を捏造するんじゃあないよ」
まったく、油断も隙もないAIだ。
それでもまだギャーギャー食い下がるので、仲居ヨリに声をかけて管理者権限でユカリの拘束を命じる。するとふたりは速やかにユカリを捕縛して、ベッドの方へ引きずって行った。
なんだか汚れ仕事をさせているようですまない気持ちになっちゃうよ。ごめんなさいねウチのユカリが。
「初めて権限らしい権限を使うけどさ、これが初めてってのは正直悲しいぞユカリ~」
「なにすんのよばかー! 晴一のおたんこなすー! シャワーで溺れちゃえーっ!!」
仲居ヨリたちの手によってがっちりと拘束されたユカリは、車両後部へ連れ去られる最中、物騒な単語を吐き続けていた。本来風呂というものは静かにゆっくり入るべきなのだ。が、少々残念なことにここに浴槽はない。
シャワーを浴びながら歯を磨き、一通り準備を整えて寝床まで戻ってみれば……。いつもの着物に着替えたユカリが、ベッドの上でダンゴムシのように丸まり、拗ねていた。
自分が戻ったことに気づき、こちらを一瞥した彼女はフンと鼻を鳴らし、掛け布を頭までかぶってしまう。仲居ヨリたちは、相変わらず乗降口両脇の椅子に座り、こちらを無言で凝視している。そんなに見つめられると、好きだと気づいちゃうよ。キモイ。
「何で拗ねてんだよ」
布をめくると、アホ毛がギザギザしているユカリは、こちらへ背中を向けて丸まっている。アホ毛が気になる。
いつまでもそんなことをしていないで、風呂に入ってくるようにと促すが、ぴくりとも反応しない。もう寝てしまったのかと思って、顔を覗き込もうとすると、掛け布を引き寄せて隠れてしまった。困ったもんだなあ。
「ユカリさんよう。なぜにそこまで一緒に風呂へ入りたがるのかね」
優しく声掛けるも、相変わらずユカリは拗ねたまま答えてくれない。あまりにも反応がないので、こちらに突き出されたユカリの尻を、いやらしくまさぐるように撫でまわす。ああ、かわいいしりがぷにぷにしてるんじゃ~。
「んぎゃーっ!」
その瞬間、ユカリは悲鳴を上げて飛び起き、ベッドの端へ逃げた。そこで尻を抑えて正座して、真っ赤な顔でこちらを睨む。でゅふ。
「起きてるなら返事くらいしろって~の」
「スケベ! 変態! ろりこん!」
「お、オイラはロリコンじゃねえ!」
いっつも嘘ついてんなあ……。いや断じて嘘じゃないが。
「何よっ! ヨリとは約束してたじゃない! いつでも甘えていいって!!」
そこで自分は大浴場でヨリに言われたことを思いだす。
「は? ああ、確かにヨリちゃんに甘えていいとは言ったし、それはユカリに対しても同じだけれども……。けれども、だからって絶対一緒に風呂に入る必要はなくない!?」
どこかズレた感じでユカリは怒っている。何が気に入らないのか、自分にはさっぱり分からない。
共に風呂へ入ることに命を懸けるような熱い何かが、ユカリの中にはあるとでもいうのか。しかし、甘えることと一緒に風呂に入ることは、同義とは言えないと思うのだけど。
ベッドの上で胡坐をかき、首をかしげて考え込んでいる自分に、苛立ったユカリがさらに言葉を続ける。
「ヨリだけお風呂で抱っこされて、優しくされてるのは納得がいかないのよ! 私だけ頭をぐりぐりされたりお尻を叩かれたり、挙句湯船に放り込まれたりしているのよ! これは差別と言っても過言ではないわ!」
そんな少しずれた抗議の言葉に自分は脱力してしまい、横へ倒れる。彼女の言い分を端的に言うと、“私も風呂で甘やかせ”という解釈になるのだが。そう考えると今のユカリの態度が可笑しくて、つい吹き出してしまう。
「ふふっ……」
「なあああっ! なんで笑ってんのーっ!!」
ユカリは近くにあった枕を毟り取り、自分を激しく殴打してきた。羽枕っぽい感触なので、中身が出てしまいやしないかと心配になりながらも、自分はボカボカと殴られるままユカリに言う。
「そうかそうか。ユカリも甘えたかったんだな。それならそうと、ちゃんと言ってくれれば良かったのに。まったくかわいいやつめ」
笑いながら言うと、ユカリは益々ヒートアップする。その様子がまた可笑しくて、こちらの笑いには拍車がかかり、それを見たユカリが一層腹を立てるという悪循環に陥った。
そろそろ枕の耐久値が心配なので、タイミングを見計らって枕を掴み、ユカリから取り上げようと試みる。対して意地でも離すまいと、ユカリは枕を握る手に力を込めてきた。仕方がないので、引く力に緩急をつけて揺さぶりをかけ、軽いユカリがバランスを崩したところで、思い切り枕を引き、諸共ユカリを釣り上げた。フフフ、fish on。
大きくバランスを崩して、自分の胸元へ転がり込んできたユカリを抱きしめて、慎重に機嫌をうかがいつつ、背中や頭を撫でて宥める。ここでようやく暴れん坊はおとなしくなり、されるがままとなってくれた。
「風呂が狭いから無理強いはするなって話でさ、別にユカリと仲良く風呂に入るのが嫌だって言っているわけじゃあないよ。まあ確かにこの間はやり過ぎたと思う。お陰でのぼせさせちゃったし。あんときは悪かったよ。ごめん」
「うう……。晴一は意地悪よ。ヨリに優しくしたら同じくらい私にも優しくしなさいよね」
ユカリが起きているとき、ヨリは完全に眠っているが、ヨリが起きているときのユカリは、表層に出て来ないだけで意識はある。そのため記憶や感覚はすべて直に共有され、ヨリが体験したことはユカリも同時に体験することになる。
そこで、自分から向けられた意識が、ヨリのみという対象者を限定したものとなっていれば、意識のある状態で精神的に繋がるユカリには、矛盾という不満が募ることになるらしい。自己は同じだとしても、自我は独立しているのだから、気持ちが不安定になるのも当然なのだろう。
「確かに無神経だった。ごめんよユカリ。これからはちゃんと公平にふたりと向き合うようにするから。それでも至らない事があれば遠慮なく言ってくれ。というか言ってくれないと分からないからさ」
「ちゃんと反省してる?」
「もちろん。反省しすぎて禿げてしまいそうなくらいに」
いまは特に禿げてないけど可能性は捨てきれない……。
「晴一のそういう所ってふざけているのか真面目なのかわからないのよね……」
「そうかい。今は真面目なんだけどな」
「……そうね。誠意は伝わってるわ。……ありがとう」
「どういたしまして」
とりあえずの決着は見たものの。結局社では今後毎日大浴場へ行くことになるはずで……。客室のバスルームは、何か特別な理由がない限り、普通の風呂として機能することはないだろう。これから毎日、少女と大浴場で混浴とか事案も事案。極刑レベルの凶悪犯罪である。許されざる者堤。あれ、なんかちょっとかっこいい。
そんな愛らしい娘っ子と、いつまでも抱き合っていちゃこらしているわけにもゆかず。明日からの本格的な作業に備えるために、早いところ就寝せねばなるまい。
機嫌を直したユカリへ、風呂に入ってくるように言うと、今度こそ彼女も素直にバスルームへ向かって行った。すると仲居ヨリが一人ついて行き、ヨリの脱ぎ散らかした衣服の回収を行う。それらは、謎の能力を用いたクリーニング技術で瞬時に洗濯乾燥され、丁寧に折りたたまれた後、シャワールームの脱衣籠へ再配置されるのだろう。その早すぎる作業工程は、肉眼では確認不能なのだ。
バスルーム前から戻った彼女は、何事もなかったように定位置へ戻ってきた。するとしばらくしてユカリも出てきたので、皆で横並びにベッドへ入る。車内の照明が落ちると、途端に睡魔が自分を襲う。保守管理区画のAIは、一体どんな姿を見せてくれるのか。
暗く温かい微睡みの中で、期待と不安が入り交じった複雑な気持ちになり、同時にぼんやりとした懐かしさを感じた。