Chapter1-5 フリーランスよ、仕事は自分で見つけるべし!
立川ギルド一階受付区画。
任務の受注、達成報告、雑談、商談等々そこかしこでやり取りをする人々の声が二階部分まで及ぶ吹き抜けの天井に響いている。
「よっ…と。
それじゃ、ポスター。 私はこっちだから」
隣にいたミナは親指で自身の背後を示す。
「いい?
とにかく、よく食事をとること。
そしてよーく眠ること。
わかった?」
「ああもう、子供扱いするんじゃないよ。
ほらさっさと行けって」
「何言ってるのよ、フリーランスは体が資本でしょ!
ま、気が変わってリンクに戻りたくなったらいつでも連絡しなさいな!
仕事は山ほどあるからコキ使ってあげるわよ」
ミナはそう言って笑い、来賓用の受付がある上層階へと続く階段へと歩いていった。
まったく、とポスターは溜息をついてそれを見送る。
──まあ、元気そうでよかったか。
先ほどポスターがリンクへの誘いを断って以来、ミナはそれきりリンク長官然とした態度を変えて、こちらの近況や普段の生活ぶりを尋ねるなど幼い頃から姉代わりとして接してきたような様子になった。
お互いに会話を楽しんでいるうちに、気が付けば昼の休憩が明けてだいぶ時間が過ぎており、結局ミナの立川ギルド長とのアポの時間直前まで話し込んでしまったのだ。
もっとも、その実情はミナが会話を切り上げさせてくれなかったことにあったが。
──もしかして、時間つぶしに付き合わされていた……?
そんなことを考えながら、ポスターはエントランス奥のトレイズ向けの受付に向かう。
窓口の業務再開からやや時間が経っているため、目ぼしい依頼は残っていないかもしれない。
とはいえ何かしらは残っているだろう。
他のトレイズ達から取りこぼされた、何かモノを運んだりするような依頼でもあれば、それを引き受けることにしよう。
午後の業務再開からのラッシュが終わり、任務を受注しにきたトレイズ達が大方掃けた頃。
ほんの少しだけ椅子に深く体を預けて一息ついていた新人受付嬢リネット・グッドは、ゆったりとした足取りでこちらへ向かってくる人影に気付く。
「あ! ポスターさん」
彼女はぴんと背筋を伸ばして、顔見知りのトレイズに向かってひらひらと手を振って挨拶した。
その挨拶に軽く手を挙げて応えてくれるポスターの様子を見て、リネットは少し嬉しくなる。
荒っぽい人間の多いトレイズ達の中で、物腰が柔らかかったり、こちらの話をちゃんと聞いてくれる人物というのは地味に貴重な存在というわけで、ポスターという人物はその両方を満たす、さらに貴重な人物である、というのが立川ギルド受付嬢ネットワーク内での評価だった。
その評価はリネットにとってもまったく異論ないもので、とくに仕事を覚えたばかりの新人である彼女にとっては心やすらかに応対のできる相手として早々に顔と名前を覚えてしまったくらいである。
「依頼を受けにきた。
今はどんなものがある?」
そう言いながらポスターは自身のトレイズとしての身分証である銀色のカードをリネットに差し出した。
「はーい、ポスターさんの活動状況を拝見しますね。
少々お待ちください」
リネットはカードを受け取ると、そこに刻まれたコードを受付に備え付けられた端末に打ち込み始める。
「現在受注中の依頼はゼロ……はい、新しい依頼の斡旋が可能です。
ええと、ポスターさんは銀等級ですので──……あ。」
「どうした?」
「あ、あははー……今残っている銀等級の依頼は、ゼロです」
「本当に?」
「あ、あははー」
念押しをするポスターだったが、返ってくるのはリネットの困ったように笑う様子ばかり。
それからリネットは端末の操作ミスや検索漏れを考慮して数回依頼の発生状況を調べたがその結果に変わりはなかった。
「オーケー、大丈夫。
何か他の等級の依頼でも受けれるものはあるかい」
ぶつぶつと呟きながら依頼を探し続けるリネットを不憫に思い、ポスターは検索条件を変えるように言った。
受付にやってくる時間が遅いこともあり、残っている依頼は少ないとは思っていたがまさかここまでとは。
後になって聞いた話では、直前にあった吹雪によって滞っていた依頼がこの日一斉に掃けてしまったらしかった。
「そうですね、銅等級まで下げてみればまだ依頼はありますけど…うーん」
「何か問題でも?」
「今残っているのはどれも緊急性のあるものではなくて、銀等級のポスターさんにこなしていただく必要はないものばかりなんです。 むしろ……」
口をまごつかせるリネットの様子を見て、ポスターは彼女が言いたいことを察した。
「ああ、僕がでしゃばると他のトレイズたちがワリを食うわけね……」
「すみません! ギルド運営側の方針なんですっ」
がばっ!と勢いよくリネットは頭を下げた。
「あ」
頭を下げたまま、リネットが何かを思い出したような声をあげる。
それから彼女は弾けたように身を翻し、受付を離れてオフィスの中へと走っていく。
しばらくして、息を切らして彼女はまた戻ってきた。
「こ、これ! これがありましたー!!」
そう言うリネットの手には、一枚の依頼用紙。
彼女はそれを受付の机にばんっ!と広げて見せた。
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<旧市街の調査および遺物の探査・回収依頼>
◆依頼者:セラフィーナ・ハッカー
◆依頼内容
ナカノ旧市街で見つけてきてほしい遺物があります!
以下の4つ文字列のうち、どれかが記載された遺物を可能な限り持ち帰ってください。
:DX52-8892574
:21B5596C-8881-6123-7SD9-58SD5D4C743D
:PD-151KC
:00651443
◆備考
頼れるのはもうあなたしかいません!
後生ですから本当にお願いします!
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「なに、これ」
「はい! 本日ポスターさんにお願いできる依頼になります!」
ポスターの問いかけに、リネットは力強く頷いて答えた。
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