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エピローグ

エピローグ「あたし達と一緒に、戦隊ヒーローやりませんかっ!」

 

 平野朱音は、私立石森高校第一体育館のステージ上で声を張り上げた。

 カクトウブレスをはめた左手を振り上げ、右手にマイク。そして目の前には全校生徒と教職員の方々。同じステージ上で青筋を浮かべているのは佐倉生徒会長。

 そしてアカネの後ろには俺たち共犯者……戦隊ヒーロー部の四人が並んでいる。

 どういう状況なのか、説明しよう。

 戦隊ヒーロー競技の公式戦『高校生戦隊ヒーロー選手権大会』の一回戦で優勝候補筆頭の東栄学園を倒した俺たちは、一気に知名度をあげた。あくまでも戦隊ファンという限られた世界の中でだが、全くの無名校だったのが優勝候補として注目されている。

「始業式で紹介されるらしいわ」

 東栄との試合の後、あと数日で夏休みが終わるという頃合。九月の第二週に行われる第二試合に向けての準備も必要なのだが、課題が全然終わっていないメンバーが多数いることが発覚した我々は、練習と勉強を一日ごとにして文武両道な日々を過ごしていた……いや、本当に。

 そんな八月終盤の、練習終了後に部室でサクラが言ったのだ。

「何を?」

 毎年の恒例で、夏休み明けの始業式に試合やコンクールなどで優秀な成績をおさめた部活が紹介されるのだそうだ。普通なら地区予選優勝くらいの成績以上が該当するのだが、全部で八チームしかない戦隊ヒーローの場合、一回戦に勝ったら次は全国大会の準決勝になるのである。しかも三年連続優勝のチームを倒したとあって、全国優勝という可能性に学校側が興味を示しているらしい。

「姉さんもそれとなく推薦してくれたらしいわ」

 ずいぶんと協力的になってくれたな、生徒会長さん。

「でも、おかしいじゃない。どうして部長のあたしよりもサクラが先に知っているのよ。そういう事は前もって言っておいてくれないと」

 アカネが不満に口を尖らせると、

「毎年、予告なしで紹介されるのよ。まあ、自分たちの実績から大抵は予測がつくものだけれど。それに」

 と、サクラは言葉を止めた。

「ちょっと、まさか貴女……何かやろう、というんじゃないでしょうね」

 にやっとアカネは唇を歪めて悪人顔になる。

「全校生徒の前で? 体育館のステージで? まさか。考えたこともないわ」

 しれっと言うが、前科あるじゃねーかお前。

「でもまあ、そーねー。せっかく会長さんも骨折ってくれたみたいだし? 全校生徒の前で宣伝できたら二回戦のポイントも期待できるわよねー」

 ……ダメだこいつ。だから秘密にしてたんじゃないのか、サクラの姉さんは。

「あのねえ……だからそのために舞台を用意してくれたんでしょう。普通に挨拶して、部活動の内容について報告する、それで良いじゃない。充分アピールになるわ」

 サクラの言うことは非常にもっともである。今回は乱入しなくても向こうからどうぞと言ってくれているのだから。

「普通?」

 アカネの目が鋭く光った。

「普通のことやって、どうするのよ。それじゃそこらの部活といっしょじゃない。あたし達はこれから全国優勝するの。今年の春から始めて数ヶ月しか経っていない素人集団のあたし達がよ?」

 よくわかってるじゃないか、自分たちのこと。

 確かに、とアカネは自分の胸に手を当て、うつむき加減に目を閉じた。

「常識じゃ、ありえない。奇跡みたいなモンよ。でも、つい最近あたし達は奇跡を起こしたじゃない! ねえミキ」

 急に矛先を向けられて、

「は、はい! そうですわたし達、勝ちました! すっごく強い東栄さんに!」

 そう! と彼女を指さし、その指をぐるりと残りの三人つまり俺たちにも向けてくる。

「あたし達の戦いは、まだ終わらないわ。まだまだこれからも奇跡を起こしていくの! そのためには」

 ためには?

「普通のことやってちゃ、ダメなのよ!」

 言いつつ自分の背後にあったホワイトボードを叩いて大きな音を出す。まあ、わかりやすく言うと動物の威嚇と一緒だ。または、こけ脅しである。

「いいわね、みんな。始業式だろうがなんだろうが、あたし達は勝つための努力を惜しまない。それが例え、人から笑われるものであっても、後ろ指をさされるようなものであってもよ!」

 狭い部室中に響き渡る声で宣言した。隣のSF研究会から苦情が来てもおかしくないデシベルの騒音である。

「……まあ、まかせて。今までの経験で既にコツはつかんでるの。ちゃーんと民衆の心に訴えて大量ポイントゲットしてみせるから。みんなは黙って見ててくれればいいわ。 あ、でももし邪魔が入りそうなら人間バリケードになってくれると助かるかなー」

 ……何するんだ、一体。みんなの表情には不安しかなかった。


「これより、上期に優秀な成績をおさめた部活動を紹介いたします。名前を呼ばれた部の代表者は壇上に上がってください。 ……地区大会優勝、女子軟式テニス部」

 はい、と日焼けした女子生徒二人が恥ずかしそうにステージへ向かう。続いて将棋部、卓球部と紹介され、俺たちは壇上で誇らしげな顔をした人々に拍手を送った。

「最後に、戦隊ヒーロー部。一回戦突破の成績ですが、次の試合が準決勝に該当すること、及び、一回戦で勝利した相手チームが優勝候補だったことを鑑みて、その内容の秀逸さから紹介させていただくことにしました。 ……では代表者、ステージへどうぞ」

 代表者、と言われているのに俺たちは五人全員でステージへあがった。アカネとサクラでいいんじゃないか、いやマモは副部長なんだからと事前に相談していたのだが、

「あたし達は五人で戦隊ヒーロー、ビートレンジャーなの。一人でも欠けちゃダメよ。反論は許さないわ」

 というアカネの一声で決まってしまった。まあ、全員で連帯責任だ。しょうがない。

 ぞろぞろとやって来た俺たちに会長はほんの少し眉をひそめたが、

「では、ひとことどうぞ」

 と、マイクを差し出す。つまりここでアピールして二回戦のポイントを稼ぎなさいと言ってくれているのだ。

 そんな佐倉会長に俺は心の中で謝った。すんません。

 マイクを受け取ったアカネは制服のジャケットを脱ぎ、バサっと放り投げた。冬服なんて暑苦しいなと思っていたが、その下に隠していたのは鮮やかなレッドの胡散くさいセーラー服。続いて制服のスカートもストンと床に落とす。思わず男子生徒の注目が集まるが、スカートの下から出てきたのは短いまっ赤なプリーツスカートだ。

 ビートレンジャー変身前のコスチュームに早変わりしたアカネは、左腕に装着していたカクトウブレス(なんでこれだけ?)を光らせ電子音を発した。突然の出来事にほぼ全員が放心状態である。体育館のステージから見る全校生徒の顔はみな一様にぽかんとしていた。漫画なら彼らの頭上に大きく『呆然』という文字が浮かんでいそうだ。

「みなさんこんにちは! 戦隊ヒーロー部です! あたし達の熱い戦いを戦隊ヒーロー協会のホームページでチェックしてね! そして必ず応援ポイントお願い! 自分だけじゃなくって、家族や親戚、バイト先の仲間とか近所の知り合いとか、何でもいいからポイント入れて! その一票一票が、あたし達の正義の心を燃やす力になるの!」

 戦隊ヒーロー競技がどういうものなのか知っている人なら何を要求されているかわかるだろうが、一般人には意味不明な事をセーラー服の短いスカートをフリフリとさせながらまくし立てるアカネ。

 ……どう考えても怪しいだろ。

「ちょ、ちょっと平野部長! もっと真面目に部活内容について報告をして下さい! それに何ですかその格好は! 学校では指定された制服を」

 マイクを渡してしまったので肉声で会長が詰め寄る。

「あ、これですかぁ?」

 とアカネはすっとぼけて、

「これは、あたし達ビートレンジャーの変身前の衣装でーす。後ろの可愛い女子二人も、この格好でバトルしてる動画が見れるから、まだ見てない人は必ず見てね!」

 観衆に向けて笑顔で手を振る。衝撃から覚めた生徒たちから失笑やからかいの声に混じって、かわいいだの応援するぞだのという信じがたい声が聞こえてきた。

「ありがとー! ポイントお願いねー。一人十票がノルマだから!」

 アイドルみたいに手を振るアカネに、いよいよ本気で会長がマイクを奪おうとする。そうはさせじと身をかわしたアカネは、マイクに向かって叫んだ。

「みんなで力を合わせて戦う、正義を愛する健全な部活でーす。入部希望は部室棟三階の部室か、稲田先生まで!」

「いい加減にしなさい! 今は部活の勧誘活動の時間ではありません!」

 会長のタックル(おいおい)をひらりとかわし、それによってひらりとしたスカートに男子生徒がどよめく中、片手を天高く突き上げてアカネは言った。

「あたし達と一緒に、戦隊ヒーローやりませんかっ!」


                       了。



完結です。

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

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