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プロローグ

戦隊ヒーローを題材にしたアクションコメディ(?)です。


難しいことなしで、きらーくに読んでいただけたら幸いです。


主人公ふたりの設定、特に苗字から某名作ラノべ(てかアニメの方)を連想した人は、正解です。

 プロローグ「あたしと一緒に戦隊ヒーロー、やりませんかっ!」


 平野朱音ひらのあかねは『元気いっぱい』と背景に書いてありそうな勢いで声を張り上げた。

 あまり高くないトーン。アカネは地声が、女子にしてはやや低いのだ。

「あ、ちょっとそこのキミ! なんかスポーツやってる? どう、高校では戦隊ヒーローになって青春の汗を流さない?」

 声をかけられた男子生徒は、いやそういうの興味ないんで、とか言いながら足早にその場を離脱する。

「あーあ。逃げられちゃったな。明らかに引いてたぞ、今の」

 俺のその言葉に、擬音が聞こえそうな勢いで振り向いたアカネ。

「ちょっとマモ、なんで他人事ひとごとみたいに言ってんのよ! さっきからぜんっぜん声かけてないじゃない。わかってんの、ウチの部の状況が? ピンチなのよピンチ大ピンチ! それを副部長たるアンタがボーッと新入生の勧誘もしないでいるなんてどういう了見?」

 眉間にシワを寄せて豪快にメンチを切る、俺の幼なじみにして同級生。

 大きな二重まぶたの瞳を見開いて俺をにらみつけているのが、わりと整っていると……不本意ながら言わざるを得ないルックスなだけに迫力がある。

 ちなみにマモ、というのは俺の小学校からのあだ名だ。

「副部長……ね。できれば丁重にお断りしたいんだが」

 俺のつぶやきは彼女の耳に届かなかったか、それとも意識的にスルーされたのか。

 四月も中旬になり、ここ私立石森高校の、正門より続く桜並木は満開の時を過ぎ、既に葉桜になっている木もある。

 通路脇にズラリと並ぶ机と、それぞれの部活名を記した看板。新入生相手に自分たちの部に入りませんか、と勧誘活動を行なっているのである。

 先日の第一体育館で行われた部活説明会で、半数以上の生徒は自分の入る部活を決めてしまったらしい。気の早い者は既に見学を終えて正式に入部、といった頃合である。

 今更こんなところに机を並べて勧誘活動を行なっているのは、万年部員不足の人気のない部ばかり。かく言う俺たちの部もあと三人、何とか入部してもらわないと困る状況なわけだが。

 俺とアカネの後ろには横幅一メートルほどの看板が立ち、『戦隊ヒーロー部 部員募集中』と書かれている。昨日二人で作った力作だ。

「あーもう、なんで誰も話すら聞いてくんないのよ! 他の部は一人や二人は見学くらいなら、って新入生ゲットしてるのに!」

 ぐしゃぐしゃと髪をかき回して声を荒げる。トレードマークのポニーテールがほつれた。赤いカラーゴムでくくるのがコイツのこだわりだ。

「なあ。俺なりにいくつか気づいた事があるんだが、聞く気はあるか?」

 チラチラと春風に舞う、残り少ない桜の花びらを目で追いながら言う。

「なに? この際なんでもいいわ。意見は幅広く取り入れていかなきゃ、この危機的状況を打開できないもの!」

 なんでもいい、とはご挨拶だが……そう、コイツはどんな時でも諦めない。それが長所であり短所でもある。

「まずひとつめ。お前のその格好は、なんだ」

 俺たちの目の前を通り過ぎた女生徒が一人、隣の机の漫研に入部を願い出た。

「なんだ、って何よ? ウチは戦隊ヒーロー部なんだから、こういう服装で新入生を勧誘するのは当然でしょ」

 アカネのファッションは、真っ赤なナイロンジャケットのインナーに白のTシャツ、軽くダメージの入ったジーンズに編み上げブーツ。そして両手に黒革の指ぬきグローブである。赤ジャケットの胸には漢字の『空』をシンボライズしたマークが刻印された合金製のプレートがあしらわれている。この勧誘活動のためにさっき、わざわざ制服から着替えたのだ。

「それ、アレだよな。カクトウジャーの」

 アカネに何度も聞かされ、しつこく勧められてTVシリーズ全五十二話、劇場版とTV放送終了後の特別編も全て見た……いや見せられた、三年前の戦隊ヒーロー『道道戦隊 カクトウジャー』のカラテレッド、一条リュウジのコスプレだ。

「そうよ! 運動部で言うならこれはユニフォームだからね!」

 と、机の上に置いてあった『カクトウブレス』を取り上げて左手首に装着し、

「カクトウチェンジ! ……ハッ!」

 とか言いながら立ち上がって変身ポーズを決める。

 ブレスが光り、微妙に安っぽい電子音をあたりに撒き散らした。

 周囲の人たちから同情のこもった視線が向けられる。

「そういうノリだから、戦隊ヒーローの研究会だと思われるんじゃないか? もっと何か違う方法でアピールをさ……」

「あ! ねえあなたピンクにならない? 子供達とお父さんのアイドル……ちょっと、話だけでも聞いてよ!」

 ……お前も俺の話聞けよ。

 俺はやや深めのため息をつく。今日何度目の嘆息だろう。そう言えば、高校に入ってから妙に増えたような気がする。

 まだひと月も経っていないのに。

 ああ、そうだ。こうして新入生の勧誘なんてやっているから俺たちのことを二年か三年生だと思う人もいるだろうが、よく見て欲しい。隣の女はコスプレだが、俺の着ている制服のネクタイの色は紺、つまり今年の一年生のカラーだ。

 入学してすぐに俺たちは戦隊ヒーロー部に入部し、新入生にして新入部員なのに部員獲得のため、こうして声を枯らしている。

 何しろ我が部は、隣で不機嫌そうにしている部長の平野朱音と、勝手に副部長にされた俺、杉田護(すぎたまもる)の二名しか部員が居ないのである。

 戦隊ヒーローは五人でやるものなので、当然あと三人は必要だ。そうでないと活動ができない。

 人数だけ格好をつけるなら、最悪知り合いに名前だけでもいいから入部してくれるように頼んでみるか?

 ……いや。それでは意味がない。やはり、ちゃんとメンバーになってくれる人を見つけないとな。

「そこのお兄さん! イケメンだねっ。どう? 今ならクールな二枚目タイプのブルー枠が空いてるよ?」

 赤いジャケットの妙な女に声をかけられた彼は少し眉をひそめて、無言のまま去っていった。

「んだよ、感じワリー! やっぱり男も女も外見が良い奴は性格が悪いなぁ」

 腹いせに悪口を言う彼女を横目に、俺は冷めた気持ちで目の前を通り過ぎる生徒たちを眺めた。

 正直に言うとこの時、半分以上諦めていたのだ。もともと、俺たちが入るまで部員ゼロで休部になっていた部活だ。いきなり部員が増えるなんて事がそうあるとは思えない。現にこうして勧誘してみると、この部の人気の低さがよくわかる。

 そもそも、俺だって隣の女に強要されなければ……あの時、雰囲気に流されていなければ……入部なんて絶対にしなかった。

 別に戦隊ヒーローなんて興味なかったし、アカネが騒がなければ子供の時に見たきりで二度と見ることもなかっただろう。

 それにコイツだってきっと、あの事件がなければ……


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