表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/33

31)イレギュラー的、魔王の出現



 シュンとタイジュが、ドマシュ隊長らと情報交換と打ち合わせをしているうちに、ハルカが到着した。


「アロンゾとはちゃんとお別れ出来たんだね」

 とタイジュ。


「アロンゾは、イドリス領のギルドに居るわ。

 情報収集してくれてる。

 どうしても、手伝いたいって、言ってくれて・・。

 だから、後方支援をお願いしたの」


「だよねぇ。

 そうなると思ったよ」

 タイジュが頬笑む。


「アロンゾなら、情報収集、上手くやってくれるね」

 とシュン。


「そうね。

 クレオ隊は、ここじゃないのね?」

 ハルカが、周りを見回す。


「こちらに、お呼びしてます。

 離れていると戦力が分散してしまいますからね。

 カザフ隊長の隊も、間もなく到着するはずです。

 今現在、3個の隊しか、こちらには来てないですからね」

 とドマシュ隊長。


「少ないよねぇ。

 ま、王宮の奴らの性根は、よく判ったよ」

 とタイジュ。


 ドマシュ隊長は、タイジュの言葉に、ただ疲れた吐息で応えた。



 カザフ隊、ドマシュ隊、クレオ隊が揃ったところで、タイジュとシュン、ハルカは、再度、情報のすりあわせを行い、早速、拠点潰しに出掛けた。


 魔族の拠点は、ドルフェスを繋ぐ経路の、ほど近くに出来上がっていた。

 風魔法で探ると、小さな村くらいの大きさはありそうだ。

 砦も聳えている。


「無断で、ひとんちに、こんな豪勢なやつ作るって、図々しいよな」

 シュンが思わず感想を呟く。


「だね。

 かなりのもんだな。

 思ったより立派だ」

 とタイジュ。



 万里の長城を思わせる長々とした塀が見渡す限り続いている。


「ひと月ちょっとくらいで、これ、作ったんでしょ。

 早いわね」

 とハルカ。


「素材は何で出来てるのかな。

 石造りだとしたら、石がここらに大量にあったわけだけど」

 とタイジュ。


「100年に一度、似た場所に作ってるなら、そのときの材料がごろごろ落ちてたんじゃない?」

 とシュン。


「ところが、魔王が斃されると、魔族の拠点は残らず崩れて、砂の山になるそうだよ」


「へぇ、そうなの?」

 とハルカ。


「ゴーレムで出来てるんじゃないか、ってのが、エルナート国の学者の見解さ」


「なるほど」


「ゴーレムも、材質によって、強度は色々みたいだけど。

 とりあえず、光魔法で行きますか。

 思いっきりのレーザーで!」


 この世界には、レーザーというものがないために、魔族どもにとっては、初見の攻撃になる。防ぐ手立てを講じている可能性は皆無だ。

 きっと効くだろう、とタイジュたちは予測していた。


「「うん!」」


 3人の気配に気付き、コウモリの羽を羽ばたかせて飛びかかってきた魔族もろとも、タイジュたちは、レーザー攻撃の餌食にしてやった。


 最強規模のレーザー攻撃をお見舞いし続け、20分ほど後。



「・・うわぁ・・」

 とシュン。


「効いた・・」

 とハルカ。


 攻撃を一旦止めて様子を見ると、魔族の砦は半壊していた。

 目に見える範囲で動く者の気配はない。


「よっし、いけるいける!」


「壊滅だ!」


 3人はテンションを上げてレーザー攻撃をさらに撃ち込み続けた。



 30分後。


「ちょっと、呆気なかったな」


 そこには、焦げた見渡す限りの更地が広がっていた。



◇◇◇◇◇



 拠点潰しをさっさと終わらせた3人は、ドマシュ隊らに結果報告をした後、イドリス領の町に戻った。


 アロンゾに収集してもらった情報を聞く予定でだった。ギルドに行くと、早速、ヨアンに呼ばれた。


 ギルド長の執務室には、アロンゾが不機嫌な顔で先に座っていた。

 ヨアンも、眉間にしわを寄せている。


 拠点を潰せて上機嫌だったタイジュ、シュン、ハルカは、一気にご機嫌顔を引っ込めた。


「どうしたんだい? 何かあったのか?」

 タイジュは薦められたソファに腰を下ろしながら尋ねた。

 シュンとハルカもその隣に座る。


「王宮から通達が来たんです」

 とヨアン。


「へぇ。

 どんな?」


「王宮からの情報によると、魔族に一時期、占拠されかけたコダナートの領主夫人が、『一人目の魔王を斃してはいけない』と証言されたそうです」


「「「へ?」」」


 タイジュ、ハルカ、シュンは、それぞれ、間の抜けた返事をした。


「意味わかんねーんだけど?」

 とシュン。


「私も判りませんでしたよ」

 ヨアンは吐息混じりに前置きをしてから説明を始めた。



 コダナートは、イドリス領のすぐ隣にあり、しばしば第二拠点を作る場所として狙われる領地だ。


 領主夫人は、何年も前に夫を亡くし、子息たちと領地運営に努めていた。


 魔族どもは、コダナートのダンジョンそばの山に拠点を作ろうとし、領主夫人からの要請で騎士団が派遣され、魔族の部隊は作りかけの拠点を捨てて逃げ出した。


 一連の騒ぎの最中、一時期、領主夫人が行方不明になり、魔族が捨てて逃げたアジトの中で閉じ込められた夫人が見つかった。


 事情聴取を受けた夫人より、幾つかの衝撃的な証言が得られた。


『このたびの魔王はふたり現れる』


『一人目の魔王は、出来損ないだったために、二人目の魔王が現れた』


『一人目の魔王は、斃してはならない。

 なぜなら、出来損ないの魔王ゆえに、魔王誕生の秘密の手がかりになる』


 それらの情報は、魔族が話している会話を領主夫人が盗み聞きして判ったという。


 ヨアンから、話を聞き、

「そんなの、魔族の罠に決まってるよ」

 シュンが開口一番、吐息混じりに呟く。


「そうなんですけどね。

 少なくとも、領主夫人はウソをついていないので、確認してから魔王を斃すべきだと王宮は決定しました。

 それで、一人目の魔王は、斃すのではなく、封印するというのです」


「斃す方が簡単なのにかい?」

 とタイジュ。


「なんとも言えません。

 強すぎて斃せない相手は、封印しか手が無いこともありますし」


「でもさ、その場その場で、出来うる限りのことをしないと、魔王なんか、斃せないだろ。

 縛りがあると、俺たちにとっては、それが弱点になる」

 とシュン。


「全く、その通りです」

 ヨアンが苦い顔をする。


「あの王弟が、一人目の魔王を斃さないと決めたんだろ。

 要するに、罠としか思えない」

 とアロンゾ。


「魔王を殺させないためだよね」

 とシュン。


「・・ハルカ、なにを考え込んでいるんですか?」


「うん・・なんか、モヤモヤする」


「ハルカの第六感が、なにかを告げているんですか?」

 アロンゾが気忙しげな顔をする。


「そうなのよ。

 なんか、変よね。

 コダナートの領主夫人をわざわざ使って、そういう妙な誘導をしているってところが」


「そうなんです。

 私も、ギルドの伝で、多方面から情報収集しているところなんですが、気になる点が多々あります」


 ヨアンは、タイジュたちに、王宮の通達以上の情報を説明してくれた。



 まず、奇妙な点、ひとつ目。


 魔族どもが、コダナートに第二拠点を築こうとしたこと。

 第一拠点の完成がまだだというのに、第二拠点を築こうとした点も異例だが、それ以上に、コダナートが選ばれたのも妙だ。


 コダナートは、10年も前から、魔王戦を警戒し、厳戒態勢状態だった。

 冒険者の凄腕たちを雇っていた。

 領地の収入のほとんどを、領地領民を護るために使っていた、と言って過言ではない。

 だからこそ、魔族が集り始めてすぐに殲滅することが出来た。


 イドリス領の隣にあるコダナート、ダーズ、ディアゴ、グレドの4つの領地は、魔王戦が始まれば第二拠点を作るために狙われる地域だ。

 ゆえに、魔王出現の時期が近付くと、4つの領地では、厳戒態勢に入る。


 だが、ディアゴとダーズは、お家騒動と、領主が領地運営に失敗して金が足りなかったなどの理由で、まだ魔王戦の準備が出来ていなかった。


 もしも魔族が、少しでも4つの領地を下調べした上で第二拠点に着手したのなら、ダーズとディアゴを狙うだろう。


 ところが、4つの領地で、もっとも警戒厳重だったコダナートを選んだ。


 おまけに、魔族は、拠点を作りかけている途中で、領主邸に潜入し、領主夫人を浚った。


 領主夫人は、幾重にも魔除けや攻撃防御の魔道具を装備していたために、命は助かったが、子息らが救出隊を組織し、助けに行かなければ危ういところだった。


 助けられた領主夫人から事情聴取をした過程で、以下の情報が出てきた。



『このたびの魔王はふたり現れる』


『一人目の魔王は、出来損ないだったために、二人目の魔王が現れた』


『一人目の魔王は、斃してはならない。

 なぜなら、出来損ないの魔王ゆえに、魔王誕生の秘密の手がかりになる』


 冒険者ギルドは、怪しい王弟からの通達だけでは埒があかないと、調査に乗り出した。

 さらには、王弟とは別に、王宮内の数少ない「マトモな重鎮」である宰相も、凄腕の鑑定士をコダナートに派遣して調べた。


 その上で、領主夫人は、たしかに、魔族から、何らかの「重要な情報」を得ているらしいことは判った。

 だが、魔族どもから、精神操作攻撃を受けて夫人が疲弊しているために、貴重な情報が思うように得られない、という。

 魔族どもは、魔除けと魔道具で護られた夫人に、とどめを刺すことが出来なかったために、精神操作攻撃を近距離からお見舞いしたのだ。


 ゆえに、異世界の勇者であるタイジュたちに、

「もしも出来うるならば、斃すのではなく、封印にして貰えないか」

 と打診してきた。

 エルナート国にしてみれば、これからも、長きにわたるであろう魔王戦を、末永く有利に進めるために、魔王の情報は、喉から手が出るほど欲しいのだ。



「もしかしたら、ホントに、今回の魔王戦は、ふたりの魔王と戦うことになるんじゃないかしら」

 とハルカ。


「・・勇者が3人も居るから、楽勝だと安穏と考えていたら、そうはいかない・・と?」

 とヨアン。


「魔王がひとりだとしても、お気楽な闘いにはならないと思うけどなぁ。

 なにしろ、王宮が敵の手に落ちてるからね。

 聖剣もないし」

 とタイジュ


「ヨアン、ちょっと、嫌な予感がするから、魔王の封印について、教えて貰えない?」


「調べておきます。

 まだ魔王の魔力波動は感知されていませんので、王宮からの通達をどうするか、もっと情報を集めてから検討することにしませんか」


「判った」とタイジュたちはそれぞれ応えた。


 アロンゾは、ひとり、険しい顔で黙り込んでいたが、

「私は、コダナートに、調べにいってみます。

 ヨアン。

 コダナートの領主夫人と面会できるように、取り計らって貰えませんか?」

 ヨアンに向き直った。


「了解です」

 ヨアンは頷いて応えた。



◇◇◇



 その後、魔族の砦を壊滅させた、とタイジュたちが報告すると、


「えぇえぇぇえ~。

 壊滅? 壊滅? 魔族どもの砦が!!!」


 ヨアンの喜びの雄叫びがギルドの執務室に木霊した。



◇◇◇◇◇



 3日後。



 タイジュたち、3人の勇者は、イドリス領の森に居た。



 魔族の国ドルフェスとエルナート国とを繋ぐ細い経路のほど近くに陣取り、突撃してくる魔族どもを、悉く、殲滅していた。



 経路は、細長く、幅は5キロ、長さは25キロほどある。


 瘴気あふれる大陸と、瘴気のない大陸の間にあるそれは、赤茶けた固そうな岩盤で出来ていて、草一本生えていない。不毛の道だ。


 大陸と大陸を結ぶ、まるで渡り廊下のようだ。

 靄に霞む壮大な渡り廊下が、深い森から突き出て、忌まわしい魔族の大陸と繋げている。


 こんなもの、無ければいいのに、と思うが、景色だけは絶景だった。


 3人は、経路の両端と真ん中とに別れ、魔族の群れが見えてくると、容赦なく、攻撃魔法を繰り出した。

 光魔法や聖魔法の苦手な魔族軍は、タイジュたちに翻弄され、討ち滅ぼされていった。

 両国を繋ぐ経路には隠れる場所もなく、ゴーレムを障壁にしながら進んで来ても、ゴーレムをレーザーで粉みじんにすれば、あとは蹂躙し放題だった。


『ねぇ、なんか、呆気ないくらい、奴らの侵略を潰せてるんだけど。

 こんなんでいいのかしら?』


 ハルカの念話がタイジュとシュンに届く。

 片方の端に居るシュンと、もう片方の端に居るハルカとは、5キロも離れているが、念話で話しが出来る。


『僕たちが、魔族どもの砦を更地にしちゃったからね。

 おかげで、連中が侵略してくるのが丸見えだよ』

 タイジュが愉快そうに応えた。


『砦がなければ、こんなに簡単なんだな』

 とシュン。


『そりゃそうだよ』

 タイジュが、『ハハハ』と笑う。


 もしも魔族の砦が築かれていたら、こうはいかない。

 イドリスの拠点に魔妖樹の幼木を植え付けて瘴気を溢れさせれば、魔族軍は、25キロの経路を、力を存分に発揮しながら攻め入ることが出来た。


『この調子で殲滅しまくってれば、あまり被害を出さないで、魔王を潰せるかも』

 とハルカ。


『なんか、調子良すぎてかえって不安になる』

 とシュン。


『シュン。

 異世界の勇者が3人居るって、それだけ、有利なんだよ。

 これが、たった一人だった場合を考えてごらんよ』

 とタイジュ。


『あぁ、考えたくない。

 不安で押しつぶされてたかも』

 ハルカは、師匠ふたりと別れて、ひとりきりでディアギレフ領に行かされたときのことを思い出した。


『俺も。タイジュやハルカやアロンゾの居ないこの世界で、魔王退治なんか、ぜったい無理』

 とシュン。


『過去のサムライ勇者たちは、ホント、偉かったって、つくづく思うよ。

 だからさ、この有利な状況を、徹底的に利用して、過去最短で魔王をぶっつぶしてやろう』


『賛成!』

 とハルカ。


『やったる!』

 とシュン。



 3人の魔力波動探知に、魔王の魔力らしき強大な魔力が引っかかったのは、その日の夜半のことだった。



◇◇◇◇◇



 明くる朝。


 ハルカはイドリスのギルドに来ていた。


 タイジュとシュンは、そのまま、ドルフェスとの国境の森で待機し、侵入してくる魔族どもを殲滅している。

 ハルカも残りたいところだが、情報が欲しい。


 魔王の魔力波動が現れたのが、なぜか『北の魔森』だったからだ。


 タイジュもハルカもシュンも、北の魔森には居たことがある。それで、シュンが転移して、しっかり確かめてある。

 魔王は、北の魔森に、間違いなく居る。



 ハルカがギルドのヨアンの執務室に転移で移動すると、執務室には、ヨアンと副ギルド長のアネッサ、各職員部署の長たち、アロンゾが集まっていた。


「あら、お揃いで・・。

 おはよう」

 とハルカ。


「魔王の魔力波動を感知したんですね?」

 とアロンゾ。


「そう。

 シュンとタイジュは、まだ国境で侵入者潰しやってるんだけど、情報貰ってから、北の魔森まで、魔王やっつけに行こうと思って。

 ふたりとも、念話で繋いで打ち合わせに参加するわ」


 ハルカの言葉に呼応して、


『うん』とシュンが応え、

『魔族どもの邪魔が入らない間は参加させてもらうよ』

 とタイジュの声が念話で届いた。


「魔王は、私たち、3人揃って討伐に当たるわ。

 だから、ここは、留守になっちゃうんだけど」

 とハルカ。


「たしかに魔王には、勇者総力戦になりますよね。

 こちらの方は、騎士団とギルド所属の冒険者の隊で護ります。

 北の魔森の魔獣どもは凶悪化し、周辺の町や村から避難民が連日連夜、西部に移っているところです」


「急いだ方がいいわね」


「でも情報も必要でしょう」


「魔王が北の魔森で現れた件について、王宮からの通達はないの?」

 とハルカ。


「ありませんよ、見事なまでに、なにもありません。

 まぁ、まだ昨夜、魔王の魔力波動が感知されたばかりですけれどね」

 ヨアンが苦笑する。


「『魔王はエルナート国で産み出されていた』という衝撃的な事実に関して、早く王宮からの見解を聞きたいわね」


「ホントですねぇ・・」

 ヨアンが遠い目をする。


 長い長い魔王との闘いの歴史の中。


 イドリス領の魔族の砦が壊滅できたことはなかった。


 なにしろ、イドリス領の森は広大だ。

 イドリスの広大な森を、残らず探知することなど出来ないために、魔族どもは、結界を張って自らの魔力波動を隠しながら、ひそかに拠点を作る。


 エルナート国がどんなに頑張っても、規模の大小の差こそあれ、魔王戦の始めには、魔族どもの拠点がイドリスに作られてしまう。


 魔王は、その砦に現れる。


 いつであっても、古の昔より、魔王戦の始まりの形が崩れたことはなかった。


 遙か遠い昔から、どんなに小規模の拠点でも、とにかく、魔族はイドリスの森に拠点を作る。

 エルナート騎士団の見張りを掻い潜りながらイドリス領に忍び込み。

 その砦が、魔王登場の舞台となる。



 このたび、タイジュ、シュン、ハルカの働きによって、イドリスの魔族の砦は壊滅した。

 歴史上、初めての快挙だ。


 ・・となると、おそらく、魔王軍は、ドルフェスの基地から、エルナート国と繋がる経路を通って進軍してくるだろう、と推測していた。


 イドリスの魔族の砦は無いのだから、それしかない、と考えられた。


 それゆえに、タイジュたち3人は、ドルフェスとの国境の森で待ち構えていたのだ。


 ところが、魔王は、北の魔森に現れた。


 これは、どういうことか?


 今回、魔王が、北の魔森に現れたのは、明らかに想定外、イレギュラーだ――魔族の連中にとっては。


 考えられることはひとつ。


『魔族どもの転移魔法陣が壊れていた』


 タイジュたちが砦もろとも、ぶっ壊してしまったのだろう。


 おかげで、魔族どもは、ミスった。

 ・・で、北の魔森が、『魔王を産み出す場所』であることがバレた。


 おそらく、もしかしたら、これまでも、魔王は、エルナートで生まれていた。


 イドリス領の森の拠点は、それを誤魔化すために必要だったのではないか。


 それらの推測は、ヨアンたちギルド長らも、遠距離会議で早速、すりあわせをした後だった。


「ほんっとに、勇者様たちのおかげですよっ。

 我が国の歴史始まって以来の快挙ですっ」


 普段、冷静沈着なヨアンが熱い。

 なにしろ、魔王出現の貴重な情報が、これで詳らかになったのだ。


『それでさ、これで、魔王の秘密が、幾らか明らかになったんだし、「魔王を斃すのではなく、封印すべし」って要望は、無視でいいかな』

 とタイジュの念話が届く。


「そうですね。

 『魔王がふたり居る』という、あの情報がガセでしたら、明らかに、情報操作による誘導作戦とみなして良いでしょうし」


 とヨアンが言うも、なぜかハルカは、渋い顔をしている。


『ハルカは、まだ、なにか、引っかかってるみたいだね?』

 タイジュの念話が苦笑交じりだ。


「魔王を、全力で斃す、というのは激賛成よ。

 命が惜しいもの。

 シュンやタイジュが怪我をするような闘いをするつもりはないわ。

 でも、コダナートの領主夫人の証言が、どうにも気になってしょうがないの」


『そういえば、アロンゾは、コダナートに調べに行ってたよね。

 なにか判った?』

 とシュン。

 アロンゾは、やけに無口だ。


「ええ、まぁ・・」


「なに?」

 とハルカ。


「報告はします・・が、でも、ハルカたちは、なんら、躊躇無く、魔王と闘って欲しいんです。

 『魔王を封印する』とか、『魔王の情報を集める』とか、そんなのは、頭の片隅にも置いておいて欲しくありません。

 ほんの一瞬のためらいが雌雄を決する魔王戦で、闘い方を外部から縛られるなど、言語道断です」


 アロンゾの言葉に、ヨアンが辛そうな顔をする。

 国の未来を思えば、魔王の情報は欲しい。

 だが、それを言えば、タイジュたちの闘いに僅かでも制限が作られてしまう。

 判って居る積もりではいたが、勇者が3人居る、という余裕に、つい欲が出た。


「もちろん、全力で闘うわ。

 きっと、細かいこと気遣う余裕なんて、無くなるだろうし。

 とりあえず、教えてよ」


「判りました。

 私が領主夫人を鑑定したところ、精神操作されていました」


「領主夫人が? どんな操作を?」


「それが、幾度も、繰り返し、操作を加えられていて、夫人は、精神的に酷いダメージを負っている状態なんです。

 つまり、どういう操作が加えられたのか、ぐちゃぐちゃで判らなくなっていました」


『うわ・・』

 とシュン。


『気の毒に・・』

 とタイジュ。


「気丈な夫人なので、必死に正常であろうと抑えていますが、かなり辛い状態でしょう。

 それで、夫人は、ギルドから派遣された者や、宰相から派遣された鑑定士に、魔族から得られた情報を伝えようと努力されているらしいんですが、夫人が混乱状態であるために詳細不明です」


『夫人が、何か貴重な情報を持っているかもしれない、というのは確かなのかな?』

 とタイジュ。


「その辺りからして、判らないんですけれどね。

 魔族が、コダナートの領主夫人を、多大な犠牲を払ってでも狙った、というのが気になるのです。

 領主夫人を浚って、出来かけの拠点に連れてくるまでに、魔族が4人ほど死んでいます。

 コダナートの領主邸には、幾重にも魔除けや、侵入者を撃退する魔道具が装備されていたからです。

 それでもしつこく夫人を狙って、殺害しようと浚い、でも、夫人の防御の魔道具のおかげでとどめを刺せず、あげく、魔族どもは騎士団に散らされた」


『なるほど・・。

 ということは、夫人は、魔族に浚われる前から、なんらかの、魔族に狙われる理由を持っていた、ということだね』


「そうなんです。

 夫人を調べた王宮は、その辺りの事情には少しも触れないで『ひとり目の魔王は斃すな』と通達しているわけです」


『たしかに、モヤモヤするなぁ』

 とタイジュ。


『もういいよ、そういうのも、みんな引っくるめて、魔王を斃せば、はっきりするさ』

 とシュン。


『・・シュンは、潔いね・・』

 とタイジュ。


「コダナートの領主夫人の元には、領地の薬師や治癒師が駆けつけて手当をしています。

 魔族どもは、どうやら、夫人が装備していた魔道具のおかげで夫人に直接手を触れるのが苦痛だったらしく、毒のガスを使ったため、夫人が弱っているのもありまして、芳しくない状態です」


「痛ましいわ・・」

 ハルカが顔を歪める。


「それで、ハルカ。

 薬師からの情報なのですが、氷龍のヒゲが、精神操作を解きほぐす治療薬の材料になるそうです」


「あら、前に切り取った奴があったわね」


「そうです。

 薬師たちは、手に入れられる材料ではない、と諦めているみたいですが、ハルカが持ってましたよね」


「使ってちょうだい。

 でも、私の荷物は、ケメルヴァのギルドに預けてあるわね」


「取ってきます」


「お願い。

 私たちは、北の魔森で魔王退治してるから。

 なにか判ったら知らせて」


「判りました。

 でも、魔王の封印とか、余計なことは考えずに闘ってください」


「もちろんよ」


 アロンゾは、まだ他にも言いたいことがありそうな顔をしていたが、口を固く結んでなにも言わなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ