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ノーパン少女伝  作者: 山田
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私立七色高校に入学して一年と少しが経過した。僕が生まれてから一年と少しが経過した頃は、両親と親戚一同が揃って「かわいいかわいい」と連呼していたらしいが、今となっては当時の面影は一切窺えないほどには成長してしまった。季節が移ろうごとに「時の流れは残酷ね」と母親は嘆いたが、それが僕に対してなのか、母自身が老けこんできたからなのかは解らなかった。


七色高校には両手で数え切れないほどの伝説が存在する。伝説と言えば神々しいが、そのどれもが実にくだらない。しかし、数ある街談巷説の中でも、この話を語るに欠かせないものが幾つかある。それは後述することになるので、しばしのお待ちを。


最初に鵜飼菜古という女子生徒について語ることにしよう。というのも、彼女もまたこの話を語るに欠かせない人物であるからだ。


鵜飼は校内ではそれなりの有名人だ。美人は言われど隠れなしというやつで、彼女自身が何か注目を集めるような行動を起こしたわけではなく、ただ眉目秀麗の少女だったという理由で名を馳せていた。


一年の頃から彼女の名は僕も聞いていたし、幾度か校内ですれ違うこともあり、端正な顔立ちとすらりとした頭から足元まで均衡のとれたスタイルにはよく見とれていた。雑踏に紛れていてもなお目立っていたその姿はまさに鶏群一鶴であった。


二年に進級してから、思わぬ幸運が僕に降りかかる。鵜飼と同じクラスになったのだ。僕を含め、B組の男子生徒たちはさぞ舞い上がったことだろう。学年でも指折りの美少女である鵜飼と一緒の教室で一年間を過ごせる。それだけで男子にとっては憂鬱な学校生活が楽しくなる要因となったに違いない。中学校からの腐れ縁である友人の安井は「前世でどれほど善行を積んだら彼女と同じ空気を吸えたんだ」と自身の前世を呪い、半泣きになりながらD組へと消えていった。


安井は鵜飼に惚れ込んでおり、昼休憩の時間に学食で同席すると、常々彼は口にしていた。


「鵜飼さんの周りに汚いハエがたかっていて、彼女がかわいそうだ」


「しかしだな安井、その言い方だと彼女がうんこみたいだ」

たしかに遠回しにうんこと比喩されたらかわいそうだ。


「彼女を囲う男子をハエだと言っているんだ。三木くんは本当に馬鹿だね」


安井は知らないのだろう、自分もそのハエの一匹であることを。ともすれば彼にその真実を教えてやろうとも考えたが、ああ言えばこう言うタイプの人間に対して苦言を呈するのは非常に面倒くさいし、こちらが事実を言っているのにも関わらず、議論を交わしているうちに相手が正しいのではと真実が有耶無耶になってしまうことも恐ろしいので墓場まで持っていくことにした。


ともあれ、鵜飼のことである。

僕の生活に変化をもたらす契機となったのは、まだ連休気分が抜けきらぬゴールデンウィーク明けのことだった。

 

いつもより早く学校に着いた僕が下駄箱で靴を内履きへと履き替えていると、ほどなくして鵜飼もやって来た。向こうが有名人だからこちらが一方的に知っているが、彼女からしてみれば僕など路傍の石ころだ。


石ころに挨拶をする人間などよほどの物好きだし、人間に挨拶をする石ころなどもはや妖怪である。当たり前だが彼女は颯爽と立ち去っていった。その後を続くように僕も下駄箱を後にした。

 

この高校では、一年の教室は四階にあり、二年は三階、三年は二階と、見事に歳上を敬った教室の配置になっている。僕も去年はひいひい言いながら四階まで階段を上ったものだ。一階には当たり前のように職員室が設けられている。

 

三階に向かうべく階段を上るにあたり、僕より少し先の段にいる鵜飼の姿を合法的に後ろから眺めていると、彼女が何かを落としたらしく、それを拾うべく不意に前屈みになったものだから、いくらか下の方にいる僕には彼女のスカートの中が丸見えであった。

 

時に、昨今では下着の種類も実に豊富である。とくに女性用のものであれば、生地や形状に加えてヒラヒラした謎の装飾が施されていたりと、買い手側としてはさぞ選び甲斐があることと思われる。どうして男の僕が女性用下着について若干の知識を有しているかと訊かれれば、安井に意気揚々と女性用下着の魅力について説明された地獄の二日間があったからだ。

ちなみに、その二日間はこの話を語るにおいて全く必要性のない期間だ。

 

閑話休題。今や星の数よりも多いのではと思えるほど様々なデザインの下着がある中で、鵜飼には惹かれるものが一つとて無かったのだろうか。


仮にそうだとしても、彼女の選択はおよそ年頃の乙女が下したにしては英断である。


鵜飼はノーパンだったのだ。

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