第4話 優秀な生徒達
昼食を各自済ませ再度ライラの家の前に集まった。全員揃うとランスはこれからスターテを出て近くの平地へ向かうと宣言し足早で歩き始めた。ライラ達はランスの後ろ姿を追って村を出た。
「よし、この辺でいいかな」
ランス達は村を出て真っ直ぐに暫く歩いた所で立ち止まった。振り返ると村が小さく見える。この周辺にはゴツゴツした岩が所々にあり五センチ位伸びた草が地面を覆うようにびっしりと生えている。
「村が小さく見える、俺初めてスターテを出たぜ」
「私も。ライ君はよくここに来てたの?」
「ううん、僕も初めてだよ。村を出たの」
ランスはライラ達に落ち着くよう柔らかな口調で興奮を鎮めると、メアにどんな魔法が出せるのか質問した。
メアは威力はコントロール出来ないが大体出来ると答えた。
「では何でも良いから見せてくれないか?」
「はい。ではコントロール出来ないので危ないと思ったら避けてください」
メアはそう言うと手を天に振りかざした。
「ははは、いくら魔法とは言っても子供が出せる威力には限度があるでしょう」
ーーってあれ?ライラ達は?
トールはライラを脇に抱えて五百メートル以上離れた岩の上に登っていた。
「……まさかね。……本当に危ないの?」
天にかざしたメアの手には尋常でない魔力が込められていた。
「絶対、避けてくださいね。鳴竜!」
メアは掛け声とともにかざしていた腕を振り下ろした。上空より凄まじい雷がメアの指差した岩をめがけて落ちる。落ちる際に発する音は凄まじく正に竜の咆哮のようであった。
落ちる瞬間、ものすごい衝撃に思わずランスは体勢を低くし顔を覆い隠した。
音が鳴り止むとランスは覆い隠していた手を退かし岩を見るとあまりの熱量に岩が燃えていた。ライラ達はメアが魔法を打ち終えるとランス達の元へ戻ってきた。
「いやぁ、メアの魔法は相変わらずおっかねえ」
「うん、僕達メアの魔法でよく服がボロボロになったよね」
「驚いたよ、八歳でこれ程の魔法が放てるなんて。しかしライラとトールはこの魔法を受けて平気だったの?」
「いんや、平気じゃない。かなり痛い」
「うん、お母さんに悪い事して打たれた時位痛い」
「そんなもんかぁ?俺はタンスに小指をぶつけて死んでしまいたいと思うくらい痛いぞ」
ランスはライラ達の会話を聞いて更に驚いた。メアの魔法にも驚いたがライラには加護があるにしてもライラとトールの魔法耐久力にも驚かされた。
「いやはや、威力だけなら一級魔術師並じゃないか。正直驚いたよ」
メアは凄いだろうと言わんばかりに腰に手を当て胸を突き出した。
「はは。……あと二年間俺の身体持つかな。せっかくだから剣術も見て明日からの実践プログラム考えようかな。トールは剣術は得意か?」
「剣は使った事がない。だけど武術は得意だ」
「トール君は武術じゃなくて力任せじゃない」
得意げに話すトールの横からメアが水を指す。このやり取りを見てライラはニコニコしている。ランスは顎に手を当て少し考えた。
何か案が浮かんだ様子でランスは
「では組手をしよう。私は受けのみで5分間攻撃を捌ききれば私の勝ち、一撃でも入ればトールの勝ちでどうだ?」
「ちょっといくら子供だからってなめすぎじゃない?」
トールは拳を握り攻撃の構えを取ると雰囲気が変わった。ランスもそれを察して受けの構えを取る。しばしお互いの間で静寂が走る。メアが実況をする。
「さぁトール対ランスの攻防戦。勝利の女神はどちらに微笑む。圧倒的な攻撃力を誇るトールか?それとも幾千もの死線を越えてきたランスか?二人の間には緊張が走る。息も止まらぬ闘いに今火蓋は切って落とされようとしている!
この状況、本日ゲストのライ君はどう見ますか?」
「そうですね、怪我しないように頑張って欲しいです」
「ご意見ありがとう、さぁこれから始まる五分間のまさに死闘!ファイツ!!」
「メア、格闘戦になるとうるさいんで」
「……あぁ、そのようだね。さぁトールのタイミングでかかって来なさい」
ランスはそう言うと更に脇をしめ姿勢を低くし身体に当たる面積を少なするように横を向く形で構えを取る。
トールはボクサーの構えを取ったまま軽く地面を飛び始めた。
ーータン、ーータン、ーータン、ダッ!!
トールは一気に地面を蹴りランスとの間合いを詰めようとするがランスも前に出てきた。
トールは十分なスピードが乗らないまま右の拳を繰り出す。しかしランスはそれを逆手にとり相手の力を利用しバネのようにトールとは逆の方へと飛んだ。
その反動でトールは体勢を崩し滑り込むように地面に倒れた。
「オーーッむぐ!!」
「メアは抑えとくから続けて」
メアが解説しようとした所を、後ろからライラは口を塞ぎそのまま少し後ろへとメアを連れて後ろへ下がる。
トールは口に入った土をツバと一緒に吐き出すと腕で口を拭った。
『くそっ転んだのはまぁいい。それよりもあの間合いの取り方は厄介だな。明らかに誘ってるが乗るか、引くか』
「もう次の手を考えるとは切替が早いね。だけどあんまり考えてる時間もないよ」
「それもそうだな、逃げるのは性に合わん」
トールは両手とも握り拳を作り気合を入れる。息を思いっきり吸い吐いた。
スーーーーハーーーーーー
息を止めると同時に地面を蹴った。
ダッ!!
トールは先程よりも速いスピードでランスに突っ込んだ。再びランスも間合いを詰めようと前に出る。ランスは先程と同じように相手の力を利用しようとトールの腕を掴んだかに見えた。
しかしその瞬間ランスの目の前からトールは突如消えランスの背後より現れた。
「もらったぁ!無敵パーンチ!!」
ランスの後姿を完璧に捉えたトールは勝ちを確信し右拳をランスに向けて放った。
が、しかしトールの拳もまたランスの身体をすり抜けた。いや、当たったと思った瞬間目の前から消えトールの後ろから姿を現した。
「惜しい!」
ランスはトールの背中をポンと押した。
トールは勢いを殺せず再び地面へと倒れた。
五分が過ぎランスの勝ちという事になった。
しかしランスは別の事を考えていた。
『この子達、とてつもなく優秀だよ』