第5話◆シーフードライス頑張れ!◆
この物語は悩みました。でも実在のサイト『小説家になろう』とリンクさせている以上ありだと思っています。
難しい事です。
涙が止まらない…
キーボードの上は涙で濡れ指先は震える…書斎からは人の物とは思えないような…そうどちらかと言うと獣のうめき声のような得体の知れない音が響き渡る。
「ご主人様どうしたのかしら?」
割烹着をきたお手伝いさんである。お手伝いさんは心配そうに書斎の扉の奥から新渡戸を見守っている。すると…
「ライス先生!」
新渡戸の絶叫である…
「もうアナタの小説を読むことはできないのか!」新渡戸は両手でパソコンを掴み激しく左右に振る。口からは唾液が飛び散り、悲鳴にも似た奇声を発する。お手伝いさんもその様子を外から確認しており恐怖で今にも泣き出してしまいそうである…
更に新渡戸の両手は力がこもる。ケーブルは外れ今にも壊れてしまいそうだ。さらにディスプレイを激しく乱打している…狂ったか?いや…このパソコンに写る文を見てもらえれば納得してくれるだろう。パソコンには以下の文が書いてあった。
ーーーーーーーーーーー今までシーフードライスの小説読んでくれた方、感謝しております。突然ですがシーフードライスは小説家になろうを半年間休載します。休載の理由としては長編小説を執筆しようと思ったからです。半年間かけて内容の深い小説を模索しようと思います…半年後、皆様に会える日を心より楽しみにしています。
作者:シーフードライスより愛を込めて…
ーーーーーーーーーーー
「………」
「う…」
「うう…」
「うわぁぁぁぁー!嫌だ嫌だぁ!半年間もライス先生の小説読めないなんて嫌だぁ!」
「うわぁぁぁぁー!!」
新渡戸は白目をむき、腹をかきむしり絶叫する。自ら爪をはがし肛門に押し込む!
部屋の扉からコソッと覗いていたお手伝いさんもその光景にショックを受ける…
新渡戸寅ノ助は現、京都大学教授であり芥川賞受賞作家なのだ。そんな人のお手伝いさんをしている…仕事に誇りを持っていたし、新渡戸を尊敬していた…
その新渡戸が今は餓鬼のように醜態をさらしている…お手伝いさんはその場で泣き崩れた…
ここまでの状況が理解できない読者様にシーフードライス(以下ライス先生)とは何者か?を説明しよう。
新渡戸とライス先生との出会いは今から1年前までさかのぼる。
1年前…
あれはとてもとても暑い夏の日のだった…
その日の新渡戸は夜、日課である『小説家になろう』の評価依頼を受けていた。
(当時の新渡戸はサイトに登録したものの携帯小説を書く気など無かった素人の作品を見て気晴らしになればいい…ぐらいにしか思ってない)
自ら評価してほしい…と言う自惚れ君に現実を見せてやる。新渡戸の評価は厳しい。そこへある評価依頼が来た…そうこれがライス先生との出会いである。
ーーーーーーーーーーー私は塾の講師をしています。しかし私の夢は小説家になることです。私の書いた小説の評価をしてもらえないでしょうか?
シーフードライス
ーーーーーーーーーーー
よくあることだ。現実逃避した小説家になりたいと夢見る男性。自分の実力も知らずマスターベーションのような小説を書く…こういう男に限ってクソつまらない物語を書く…
小説家を夢見る人などどれだけいるか?文字だけで自分を表現することなど凡人にはできない…
舌打ちをしながらもこの新渡戸はこのシーフードライスと言う男の評価依頼を受ける事にした。
「小説家志望の男…どーせパクリのような小説を書いているんだろう」
新渡戸はブツブツ独り言をいいながらライス先生の小説を開く。
ところが…
青天の霹靂とはこのことを言うのだろう…
以下ライス先生の小説である…
題名:ボイン隊
俺たちボイン隊!ボイ〜ンボイーン大好きボイーーーーン!
四六時中ボイーン!戯れるボイーン大好きボイーン大好きボイーン大好きボイーン大好きボイーン大好きボイーン!
酒を飲めばボイーン大好きボイーン……
以下省略
何度も何度も新渡戸はライス先生の小説を読み返した。そう何度もだ…
そして悟った。自分は井の中の蛙だと…
これほど衝撃を受けたのは初めてかもしれない。この小説かどうかもわからない『ボイン隊』に新渡戸はライス先生の人間性を見た…
「こ…この男はとてつもない才能がある!悔しいが私にはこんな小説は書けない…天才だ!」
震える指で更にライス先生の他の小説も開く…
『!』
言葉にならない…
画面全体に写る文字…それはう・ん・こ…さらにち・ん・こ…ま・ん…
そう下ネタである。わざわざライス先生は携帯小説サイトに登録してまで下ネタを書いていたのである…
「考えられない…これは小説を超えている!起承転結とかそんなちんけな問題じゃない!」
新渡戸は嬉しかった。新渡戸は小さい頃から神童としてもてはやされていた。自分の事を天才だと思い込み、自分以外の人間は下等生物だと思っていた…だがこのライス先生は違う!間違いなく自分と同等…いやそれ以上の天才である!新渡戸はそう思った。
翌日からだ。新渡戸が携帯小説を書き始めたのは新渡戸はライス先生のような小説を書きたかったライス先生のようになりたかった。だから下ネタを多用した。だから作者名を『主食ポコチン先生』にしたのだ。
「私もライス先生になりたい!新渡戸寅ノ助は主食ポコチンとしてライス先生を超える!」
ライス先生の小説、ウンコシリーズ、射殺シリーズ、連載…全てを読みあさった。
ライス先生は新渡戸の人生の師である。顔も知らないが師であるのだ…そのライス先生が携帯小説を休載する…こんなショックな事他にあるだろうか?
最後に新渡戸はライス先生にメッセージを送った。メッセージは以下の文である…
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親愛なるライス先生様へ…
半年間の休載…正直心が痛いです…私はあなたの小説を楽しみにしておりました…寝るときも排便するときも片時もあなた様を忘れたことはございません。
でも…あなた様自身が決めたことですものね…
私はひとつ気ずいた事があります。
私はあなたになりたかった…でも違うんですね。私はあなたじゃない私は『主食ポコチン』なんです!私も自分の道を突き進みます。
半年後あなた様に会える日を楽しみにしています主食ポコチン。
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人は出会いがあれば別れもある…
確かに別れは寂しいことだ。だが出会い、別れを繰り返すことによって人は大きく強くなる…
今は辛いかもしれない…
だが時代は回るのだ…
あの頃は良かったと思う日がきっと来る!
そうきっと来る!
シーフードライス先生頑張ってください!応援しています!メタカツ、新渡戸寅ノ助、新渡戸家のお手伝いさんより愛を込めて!