第4話◆新渡戸VSデート商法、中編◆
その女、黒のスーツに身を固め長く美しい黒髪を風になびかせている。年齢は三十路を廻ったところか?スタイルもよく端正な顔立ちである。大和撫子とも呼べる風貌ではあるがどこか眼光は鋭い。素人には見えないが水商売にも見えず…どちらかと言うと修羅場をくぐりぬいた極道のような…
いい女ではあるが声はかけずらい…
女は京都駅である男に目をつける。その男は若者が多い京都駅で明らかに浮いていた。男は白髪混じりの髪、口の上のヒゲ、グレーのスーツ。
年は中年をとうに過ぎているだろう。そう新渡戸寅ノ助である。女は新渡戸を哀れみの目で見つめている。
『可哀想に…今日のカモはアイツね…』
女は新渡戸にゆっくりと近寄る。新渡戸も気ずく女を凝視する。
『年は50を過ぎたぐらいかしら?お金もってそうなおじ様ねぇ…500万はいけるかしら?』
ゆっくり、ゆっくりと近ずく新渡戸は女を舐めいるように凝視する。女は笑顔で近ずく。
『さぁビジネスの開始ね!』
女は新渡戸の目の前まできて満面の笑みを浮かべる。新渡戸はというと口をへの字に結び鋭い眼光で女を見る
「はじめまして!明子です!新渡戸さんですか?」
「そうですが…」
「ワァ〜♪すっっごく会いたかったんですよ♪」
明子と名乗る女性、とても愛くるしい笑顔を見せてくれる。この笑顔でどんな男も骨抜きにしてきたのだろう。明子は恥じらいながらも新渡戸の手を繋ぎそっと体を寄せた。ところが…
「触るな!下等生物!」
『!』
明子の目が点になる。触るな?この新渡戸と言う男何を言っているのか明子には理解出来なかった。新渡戸のあまりの罵声に辺りの若者等は一斉にこちらを見ている。これは結構恥ずかしい。さらに新渡戸は明子に罵声を浴びせる。
「貴様のような下等生物が私のような天才を触るなど非常識だ!私は貴様に精子を売りにきただけなのだ!早くホテルにいくぞ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよー!」
新渡戸は強引に明子の手を引く。明子も必死に抵抗するが男の力にはかなわずズルズルと動かされていく。周りのカップルも何が起きたか分からずただ見守ることしかできない。
「ねぇ!ちょっといきなりホテルはないでしょ!ねぇ聞いてるの?」
新渡戸は全く聞く耳がないようで手を引っ張る。この展開は非常にまずい…
「ねぇ!あの…ムードてものはないの?あの…ちょっと!あっ!私おなか空いて死にそうなのよーどこか食事してからにしましょ!お願い…」
新渡戸の足が止まる。
「新渡戸さんもお腹すいたでしょ?腹ごしらえしてから楽しみましょう?ね?いいでしょ?」
「………わかった」
2人は駅から姿を消した。嵐のような出来事である。まだカップル達は何が起こったのか理解できずただただその場に立ち尽くす。
ある者は恐怖のあまり身を震わせる
ある者は恐怖のあまり金縛りにあったように体が動かせず
ある者は恐怖のあまり奇声を発する
ある者は恐怖のあまり脱糞する…
明子はこの時はまだ分かっていなかった自分がターゲットにした男がどれほどの人物かを…
レストランにて…
オシャレなレストランである。頭上には煌びやかなシャンデリアが輝き、周りにはカップル達が楽しそうに食事を楽しんでいる。だがひとつのテーブルだけ物々しい空気が流れている。そう新渡戸と明子のテーブルである…
「新渡戸さん何食べます?」
「別に…」
「えーと…お酒好きですか?」
「別に…」
「えー…シェフのオススメでいいですかねー?」
「別に…」
「………」
「………」
『てめーは沢尻エリカか?何様のつもりだクソオヤジ!』…っと明子は心の中で叫ぶ。
『平常心、平常心!あせっちゃだめよ明子!私はデート商法界のカリスマ落としの明子よ…百戦錬磨の明子なのよ!どんな男も落として見せるわ』…っと心の中でさらに叫んだ。
2人のテーブルには美味しそうなクリームキノコのスパゲティが2つ並べられた。明子はフォークですくい口の中に放り込む。
「お!美味しい〜♪明子ホッペタが落ちちゃう〜♪ねぇねぇ!美味しいね新渡戸さん?」
「別に…」
『きーー!ムカつくー!ブチ殺したいー!いやいや平常心、平常心!』…っと心の中で叫ぶ。
「ねぇねぇ新渡戸さん〜スパゲティ好き?明子はだ〜い好きだよぉ♪」
「別に…」
『ブチ殺す!絶対ブチ殺す!コンクリート詰めにしてブチ殺す!この世の地獄を見せてやる!いやいや平常心、平常心!』…っと心の中で叫ぶ。
「新渡戸さん好きな食べ物ってある?」
「別に…」
「好きな歌手っている?
「別に…」
「お仕事何してるの?」
「別に…」
「教えてよ〜♪」
「別に…」
「………」
「………」
「………」
「明子別に発言禁止条約発令しちゃいま〜す♪」
チッ!
「あ…あの…」
チッ!
「あう…」
チッ!
今度は舌打ちである。あの沢尻エリカでもしなかった舌打ちである。明子が言葉を発すると舌打ちである。これにはさすがの明子もたまらなかった…自然と会話は無くなる明子は涙と共に殺意が芽生えてくる。さらに畳み掛けるように新渡戸はこういった。
「グダグダくだらねーこと言ってんじゃねー!サッサと食べてホテルいくぞ!」
「………」
明子は何もいわない。周りの客がこちらを見ているがそんな事はどうでもいい…この新渡戸と言う男只ではおかぬ…
ふたりは食事を終え店を後にした。目的地はひとつである。すると今まで黙っていた明子は新渡戸にこういった。
「新渡戸さん…私のオススメのホテルがあるんだけど…そこに行かない?
「…私はどこでも構わない…それより1000万は用意できているのだよな?」
「もっちろ〜ん♪じゃあそこのホテルへlet's go!」
新渡戸と明子はとある建物にやって来た。ここはホテルなのか?看板はなく薄汚いビルである。新渡戸は疑問に覚えながらも欲望には勝てず。明子の後ろをついていく。エレベーターで5Fまでやって来た。明子はゆっくりと扉を開く。
そこは絵画が何枚も飾ってある殺風景な部屋だった。