第3話◆大好き寅様!前編◆
白いスカートに黄色いガーディガン。髪は黒くパーマが掛かっているのか巻き髪である。肌は透き通っているかのような純白の白。どこからどうみてもお嬢様のような雰囲気を醸し出している。
この女岩井ゆきと言う。京都大学きっての才女として知られ語学堪能、成績は常にトップクラスである。だがゆきの裏の顔を誰も知らない…
この時期、京大では夜何者かによって学生がリンチにあい重症を負う、と言う事件が多発している。警察も動いているのだが被害者の共通点も無く恨みを買う覚えも無いと言うことで捜査は困難を極めていた。
この事件の真相を知るものは誰もいない…なぜならある時期をさかえにパタッと犯行が無くなってしまったからだ…犯人が捕まることなく…
「ドアにご注意ください〜ドアにご注意ください〜♪」
岩井ゆきは学校帰りいつもの電車、いつもの座席に座っていた。目を閉じウォークマンを聞き入っている。別に音楽が聞きたいわけではないただ下等な人間の声を聞きたくないだけだ。ゆきは周りを見渡す……
『ふっ…地べたなんかに座ったりして本当低レベルなこと…』
『あら?あちらではクソガキが走り回ってるわ…IQ低くて呆れちゃうわね…』
『あ〜嫌嫌!こんな下等な人間共と一緒に空気吸うのも嫌だわ…』
いつもゆきはこんな事を思いながら帰宅する。電車に揺られる事30分、ようやく解放される。帰り際コンビニによりお弁当を購入…お釣りを貰うとき定員の手が触れたので洗剤で綺麗に洗う。ちなみにゆきは1人暮らしである。
ゆきの住まいは駅から比較的ちかい。家賃、食費、学費は全て親からの仕送りを受け取っている。
上京して初めての1人暮らしである…最初はやっぱり寂しかった…でも今は寂しくない…彼が待っているからだ。ゆきはドアを開けると満面の笑みをした。
「ただいま…」
「………」
「………」
返事はない。
「………」
「ただいま寅様…」
寅様とは新渡戸寅ノ助の事である。だがこの部屋に新渡戸寅ノ助はいない。ただ何千枚にもなろうという寅ノ助の写真が部屋中に張られている。壁、台所、風呂場、トイレ、テーブル、椅子にいたるまで全てである。
隙間なく敷き詰められた写真は不気味意外なにめのでもない…
「寅様この唐揚げおいしいよ♪はい♪あ〜ん♪」
ゆきは写真の寅ノ助の口に唐揚げを押し込む。当然食べるわけがない
「きゃ〜♪今トイレだよ〜エッチ〜♪」
トイレの中の寅ノ助の写真に話しかける…
「寅様〜♪いい湯加減〜♪」
ゆきは部屋にいる間中、1人でブツブツ寅ノ助の写真に話しかける。あんな中年男どこがいいのか私には分からないただ寅ノ助は昔からモテた。男には分からない魅力があるのだろう。
話を戻して岩井ゆきだ。これだけならただの変わり者、変態、キチガイで終わるかもしれない。問題はここからである。
時刻は22時を回った。ゆきは誰かに電話をしているようだ…
「奴隷1号、次のターゲット決まったわよ…」
「はい嬢王様!ターゲットは誰でしょうか?」
「ふふふ…よ〜く聞きなさい…文学部4年、小倉直樹よ…あの男私の寅様を『芥川賞か何か知らんけど分かる講義してほしいよな〜』ってバカにしたのよ!やっておしまい!」
「はい嬢王様!今からリンチしてきます!」
ゆきは携帯電話を切り、ベッドで横になった。そして寅ノ助の写真に接吻して眠りについたのだった…
「愛してるよ…寅様…」
ゆきは寝言で寅ノ助に対する愛のささやきを呪文のように繰り返し唱え深い睡眠へと向かうのであった…