第10話◆梅さんの裏切り…第4章◆
「貴様が梅田洋平かぁーーーーー!!!」
「ヒ、ヒィ!」
突然の罵声である。小説研究室の空気が一瞬にして凍りついた。学校長はオロオロと動き回り。当の本人、梅さんは分けが分からず震えている。でも…少しうれしかった神様、新渡戸寅ノ助が自分の名前を呼んでくれたから…
ここでひとつの疑問が生まれる何故、新渡戸寅ノ助は梅田洋平と言う自分の名前を知っているのか?
「に…新渡戸さん何故俺の名前を?」
新渡戸は急に不気味な笑みを浮かべる。小説研究室は更に凍りつくそして得意気にこう言った。
「フン!ウメウメ日記に大阪在住、今年から大学院生と書いたのが運の尽き…私は天才だ!大阪の大学を調べまくったのだ!そしてよ〜やく見つけることができた!」
「あの〜…お取り込み中すいません〜イヒヒ…うちの梅田が気に障ることで…」
「貴様は黙っとれぇ!」
「………」
「………」
学校長は顔面蒼白…石のように固まり動けない。新渡戸の怒りに触れたと思った。自分の将来がどす黒い物になると思った自分の築き上げた地位、名誉が…
ああ…
明日、梅田洋平を退学にしよう…
難波大学学校長と言う権力が…
明日、難波モナカを持って新渡戸に誠心誠意を込めて謝ろう…
あっ!でも難波モナカ不味い!って言ってたな…
…
…
退職金…いくら貰えるかな?
…
「あわわ…俺が新渡戸さんに何をしたと…」
魂の抜け殻のように立ち尽くす学校長をよそに梅さんは恐怖におののいている…そして新渡戸は梅さんに直訴するのだ!
「貴様ぁ!このごに及んでシラを切る気かぁ!」
「いや…だから俺が何を…」
新渡戸は梅さんの胸ぐらを掴み力を込める。梅さんは数回咳き込んだ…
「貴様はなぜ主食ポコチンをサイトから外したのだぁ!貴様のような下等生物にそんな権利があると思ってるのかー!」
「は?」
梅さんは新渡戸の言っていることが理解出来ない。主食ポコチン…確かに知っている『小説家になろう』でおげれつなとてつもなく程度の低い作品を投稿する作家だ…その余りに下らない作品は他の読者に不快感を与え前からブラックリストに載っていた作家…
で新渡戸と何の関係がある?いやそもそも天才新渡戸の口から『主食ポコチン』と言う単語がでるなど想定外な事である。
「あの…新渡戸さんには何の関係もないと…」
「貴様ぁ!」
ガンッ!
新渡戸の拳は梅さんの頬を殴り梅さんは床に転がった。唇は軽く切れ涙が流れる。
分けが分からない!
なんで殴られなければならないのか分けが分からない!あまりに理不尽!梅さんもカッとなる!
「お言葉ですが新渡戸さん!アナタと主食ポコチンは何の関係もないでしょう!」
「おおありだぁ!」
「は?言ってる意味が分かりかねますが!」
「主食ポコチンと新渡戸寅ノ助はなぁ…」
「………」
「………」
「同一人物なんだよぉーーーーーー!!!」
!!!!!!!!!!!
「………」
「……う」
「う、嘘だ…」
梅さんは新渡戸の言葉が信じられない…いや信じたくなかった。梅さんは新渡戸寅ノ助と言う大作家を敬愛している…新渡戸の作品は全て読んだ。一方、主食ポコチン…この作家は梅さんがもっとも毛嫌いする下ネタを平気で投稿する作家…
新渡戸寅ノ助と主食ポコチンが同一人物…そんな…
梅さんにとっては受け入れがたい現実…梅さんは新渡戸の顔を見ることが出来ずただただ下を向いていた。
「分かるかね?主食ポコチンを否定するという事は新渡戸寅ノ助を否定するということ…」
「………」
「君のすることはひとつしかない…分かるね?今すぐ主食ポコチンの小説投稿を認めなさい…」
「………」
「………」
「……嫌です」
「ほう…新渡戸寅ノ助を否定すると?」
「いや‥俺は今でも大作家新渡戸寅ノ助を敬愛している…でも主食ポコチンの作品は小説として認めない…小説家になろうは俺のサイトだ…サイトの全権は俺にある…」
「………」
梅さんは天才新渡戸を睨む。初めてかも知れない真っ直ぐ新渡戸を睨む男は。そして新渡戸はため息をつき呆れたようにこういった。
「君も小説家の卵なんだろう?小説が書けなくなってもいいのかね?いやそれだけじゃない君はこのままだと一生、新渡戸を否定した男とレッテル貼られてもいいのかね?この年でホームレスでもいいのかね?」
「………」
「もし君が私の言うことを聞かないのなら私は全権力を持って君を潰す」
「やめてくれ!」
「………」
「………」
横から突然の怒鳴り声。学校長である…前進を震わせ、こぶしを強く握り締める。だが目はどこか力強く先程までとは様子が違う。
「新渡戸さん…梅田洋平は私の夢なんだ…洋平の才能を潰さないでくれ」
「父さん…」
「とう?…なるほどな…貴様ら親子か…そして権力よりも親子愛をとると?笑わせてくれる…」
そう学校長は梅さんのオヤジだったのだ。梅親子は新渡戸を睨みつける。そこには先程までの情けない学校長はいなかった…新渡戸は最初は黙っていたが諦めたようにこう言ったのだった。
「ふん…わかったよ貴様等は私の全権力を持って叩き潰す!難波大学を潰し小説になろうを潰す!新渡戸に逆らうとどうなるか覚悟したまえ」
「………」
「………」
新渡戸はふたりに背を向けその場を後にしようとする。もう何を言っても無駄だと思ったのだ。ドアノブに手をかけた時だった。
梅さんが声を荒げた…