第10話◆梅さんの裏切り…第2章◆
クドいようですが梅田洋平は完全なる架空の人物です。
湿った空気が肌に感じる街頭はあるものの薄暗く不気味な空気を一層強めるだけである。
ここは…
『富士が原樹海』
知っての通り自殺の名所である。
新渡戸寅ノ助は樹海沿いの国道に車を止め樹海の中を見ている…
「………」
「………」
当てもなく走り回った。そして行き着いた果ては樹海。いや樹海が新渡戸を呼んだのかも知れない…
新渡戸は車にキーを指したまま樹海の中へ歩みよる。その時ひとつの看板が目に飛び込んできた。看板に書かれた文字ーー
『あなたが死ぬと沢山の人が悲しみます!もう一度良く考えてみて!』
「………」
「………」
「ふん…私にはもう生きる糧が無いのだよ…自分を表現しる術が無いのだよ…私には生きる意味がない…」
多分地元の人が自殺防止のために作った看板だろう。だが今の新渡戸にとっては非常に虚しく思えた…
新渡戸は看板を横にガードレールを跨ぐ。目の前は漆黒の闇…じめじめとした湿気…圧迫感がある…明らかに外とは違う。生きた生物などいないように…ここが自殺の名所と言われる理由が分かる気がした…
「………」
「………」
新渡戸は手ごろな木を見つけると鞄からロープを取り出し木にくくりつける。ロープの先端は輪っか状に結ばれている。
新渡戸が人生の最後に選んだ場所は国道から離れてはいない…朝方になれば人に発見されてしまうだろう。それは自分の死体が綺麗な状態で発見されたかったからである。新渡戸寅ノ助の最後のプライド…誇りからきた行動である。
「このロープに首をかければ死ぬ…私の人生が終わる…」
新渡戸はロープの輪っか部分を両手で持ち手に力を込める。
「………」
「………」
「………」
「さよなら…我が人生」
新渡戸が両手に力を込めた瞬間…
『…せ』
『ん…い』
『せ…んせ』
「?」
どこからか声が聞こえる。その声は悲鳴ともうめき声とも思えるような女性の悲しそうな声である…だがどこか懐かしい声…こんな場所に女性?ありえない。だが声はどんどん大きくなる。
『せんせ…い』
『せんせ…』
「だ、だれだ」
自然と恐怖はない。どこか安堵感さえ感じてしまう…新渡戸は手に掛けたロープを離し周りを見る…
「いない…誰も…」
誰もいない…ここには自分しかいない…こんな場所…きっと気のせいだ。気のせいに違いない。そう思った。しかし今度は背後から明らかに聞こえた。
『先生』
「!」
新渡戸は後ろを振り向く…
言葉もでない…
信じられない…
新渡戸の背後に立っていた女性それは…
「尼崎杏奈!!!」
『………』
信じられるだろうか…10年前に死んだ尼崎杏奈が目の前にいるのだ。新渡戸は口を閉じることが出来ずただただ尼崎杏奈を見た。そして尼崎杏奈は優しく新渡戸に語りかけるのだった。
『先生…死んじゃだめ』
「え?」
『死んじゃだめ…先生が死んだら…私悲しい…』
「……だが私には生きる意味がもうないのだよ…誰も私の小説を理解してはくれない…あの梅さんさえも…」
『………』
尼崎杏奈は急に悲しそうな顔になった。そしてこう言った。
『私は先生の小説好きだよ…精子にマヨネーズをかけて食べてみた、チンコに鉛筆さしてジャンケンポン、それ行けボイン隊、ウンコ!……全てだ〜い好き!最高の小説だよ…分かってある人は分かってるから…』
「………」
『梅田洋平も所詮下等生物だった…それだけの事だよ…』
「梅さんが下等生物…」
『うん…下等生物…』
青天の霹靂とはこの事を言うのだろう。
自分は梅さんを過大評価していたのかもしれない。自分の生きがいである小説家になろうを提供してくれたことで自分はいつしか梅さんを神として崇めていた…だが一度として梅さんを見たことも梅さんの書いた小説を呼んだこともない…考えてみれば梅さんはサイトを開設しただけ…所詮梅さんも自分の小説を理解できない下等生物…
そう考えると死ぬことなどどうでも良くなってきた…新渡戸は顔を上げる…ところが
「尼崎杏奈…」
いない…さっきまでいた尼崎杏奈が消えた。それと同時に自殺願望がなくなり梅さんに殺意が芽生え始めた。
新渡戸は走った!
「梅田洋平…許さぬ…下等生物が私の自由を奪うなど!」
新渡戸は走った!
「ただではおかぬ!梅田洋平を我が天才的頭脳でさがしだし問い詰めてやる!」
新渡戸は走った!
「梅田洋平…貴様に私の小説が分かってたまるかぁー!」
新渡戸は車に乗り込み据え付けのノート型パソコンを手に取った。直ぐに『小説家になろう』を開き片っ端からウメウメ日記を読みあさる!
「貴様の居場所を突き止めてやる!」
これだけである。今の新渡戸を動かしている物は梅さんへの執念…直接主食ポコチンをサイトから外した真意を突き止める!この思いだけが新渡戸寅ノ助を動かす。そしてウメウメ日記で得た情報
・梅さんは大阪在住
・梅さんは昨年のバレンタインデーで梅チョコなるものをもらった
・梅さんは今年から大学院生
・SOUNDHORIZNにハマっている
R34GTRは爆音とともに走り去っていった…