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第8話◆新渡戸の過去…第4章◆

1998年1月10日、忘れもしないこの日…



この日、新渡戸寅ノ助はいつもと変わらず起床し朝食を取る…目の前には尼崎杏奈が笑顔で見つめてくれている…何ら変わりない…いつもと変わらない光景がここにある。

朝食をとり新渡戸はテレビ取材を受けるために家を出る。


「先生気をつけてね!」


「うむ」


いつもと変わらない会話である。ちなみにテレビ番組『天才、新渡戸寅ノ助の真実』の取材…火曜9時からの特番である。どうでもいいかそんな事…


取材は何を話したのか覚えてはいない。まぁ常人には理解できないような高度な理論を話したことは間違いないのだが。


そして午後8時すぎ新渡戸はテレビ局を後にする愛車180SXの中から見る夜景がとても綺麗で美しかったのを覚えている。


夜の明かり…


ひとつひとつの明かりがとてもドラマチックに思え。なぜか帰りたくなかった。出来るのならこの場にずっといたい…この夜景を180SXの中から死ぬまで見ていたいとさえ思った。だが運命にはかなわぬ…

これから起こる運命…受け止め切れぬ運命…逃げることはできない…


午後9時すぎ、新渡戸はソファーに座りテレビを見ていた。尼崎杏奈はいない…夕食も置いてないテレビの音も聞こえないいや聞いてはいない…

これから起こりうる運命を静かに待つしかないのだ…



……


あの時、水野直樹が言った言葉『先生、まだ引きずってるんですか?』


……


確かに彼の言うとおりかも知れない新渡戸寅ノ助の時は1998年1月10日で止まっているのかも知れない。自分はこの日から前に進んでいないのではないか?


……


……


彼女を受け止められない…

この日を否定したい…







私は彼女の死を受け止められない…



彼女の死を…




「9時20分…」


新渡戸は時計に目をやりため息をつく。新渡戸の表情はどこか淋しげで額を手で覆う…そこにはいつもの傲慢な新渡戸寅ノ助はいなかった。


神様のイタズラとも言えるような、このタイムスリップ…なにが目的?

考えても考えても答えなどでない。正直これから起こりうる出来事は新渡戸の人生の中で封印したい出来事である。


「………」


「………」



人は誰しも人生の中で失敗がある。消し去りたい記憶がある。大なり小なりあるのだ…

新渡戸寅ノ助にとって、尼崎杏奈とは消し去りたい記憶なのかもしれない…


「………」


「………」


人生で最初で最後の恋…

尼崎杏奈…


「………」




新渡戸はただただ時が過ぎるのを待つのみである。テレビの音だけが虚しく耳にのこる…どれくらいこうしていただろうか?そして時計の針が10時を過ぎた頃、ついに新渡戸にとって止まった時間が動き出す…




それは一本の電話から始まった。









現在の時刻は11時を過ぎた。この時、新渡戸は尼崎杏奈の前にたっている。だがいつもの尼崎杏奈はそこにはいない…

彼女は全身を包帯でまかれ体中管を通している。綺麗な体は擦り傷やあざが見られる。

その横で中年を過ぎた男女が医師に詰め寄り何か訴えているのだが何を言っているのかわからない。尼崎杏奈の両親である

「………」


「………」


新渡戸に掛かってきた電話は尼崎杏奈が交通事故にあったという内容だった。受話器ごしに救急隊員の切迫した状況が分かった。

その時尼崎杏奈が身につけていた手帳には両親と新渡戸の電話番号だけが書かれていたという。


両親は我が娘の変わり果てた姿を受け入れられず泣きじゃくる。


その日新渡戸と両親は病院に止まった。深夜3時を過ぎた頃、両親は尼崎杏奈の手を握り涙を流し眠っていた。


そして尼崎杏奈は新渡戸がいる事に気ずきかすれた声でこういったのだ。

「先生…お願いがあるの

新渡戸は尼崎杏奈に近ずき手を握る。


「2人で…最後にどこか連れてって欲しい…」


「………」


10年前の新渡戸はこのもおしでに断った。そして次の日尼崎杏奈は死んだ…考えてみたら一緒に旅行に行ったことも映画を見たことも遊園地に行ったこともなかった。デートと呼べるような事をしたことがなかった。


新渡戸は今でもこの事を後悔している。何故、尼崎杏奈の最後の願いを受け入れなかったのか?確かに瀕死の重症を追った患者を連れ出すなど非常識だろう。でも…尼崎杏奈は死ぬ…病院にいようがどけにいようが死ぬ…






ならば最後の望み…最初で最後のデートを叶えてあげるべきではないか?


新渡戸は尼崎杏奈の手を握り軽くうなずいたのだった…

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