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第8話◆新渡戸の過去…1章◆

今回、この物語はひとつの作品として書きます。

「ありがとうございました〜」


店員が愛想よく頭を下げる。新渡戸はぶっきらぼうに缶コーヒーをとり。店をでる。

とても寒い日だった。凍てつくような寒さの中若いカップル達は身を寄せあい新渡戸の横を通り過ぎる。

新渡戸は缶コーヒーを開け壁にもたれ掛かり辺りを見渡す。


「………」


参考書を片手に歩く学生。もう受験シーズンか…この学生は無事志望校を合格できるのか…新渡戸は知るよしもない。


「………」


仲の良さそうな親子。これから子供はどういう人生を送るのか…新渡戸は知るよしもない。


「………」


ゴミをあさるホームレスこの人はどういう人生を送ったのか…新渡戸は知るよしもない。


全ての人は新渡戸寅ノ助など存在しないかのように過ぎ去っていく。自分は空気と一緒なのか…所詮そんな物だ新渡戸がどうなろうとこの人達にはまったく関係ない事なのだ。新渡戸が死んでもこの人達の人生はなんら変わらないだろう…そんな事を考えていた。


そして新渡戸が缶コーヒーを飲み終えた頃後ろから耳をつんざく重低音が聞こえてきた。


ガオォォォ−!


この耳ざわりな音…聞き覚えがある…


ガオォォォ−!


新渡戸に近ずいてくる。この排気音は…180SX?


「懐かしいな…」


新渡戸は呟いた。後からは白い180SXが新渡戸を通り過ぎようとしていた。

リトラクタブルライト、ハッチバッグ、シャープなスタイル。砲弾型のマフラー。マフラーは社外だろう。やはり180SXは白に限る…

新渡戸は白い180SXをまじまじと見る。そして新渡戸を通り過ぎようとしたときだ。


キィ!


新渡戸の前に止まった。新渡戸の知り合いで白い180SXを乗っている人などいない…

新渡戸は少し不安になるウインドがゆっくりと下がっていく。


「お久しぶりですね先生」

「………」


180SXに乗っているこの男。年は三十を過ぎたところか?だが新渡戸はこの男を知らない。新渡戸はまじまじと男の顔を見るがやはり知らなかった。


「失礼ですが…どちら様です?」


「先生〜!まぁ無理もないですか…十年ぶりですものね…水野です!水野春樹です!」


「え?ああ水野君か!」


思い出した。この水野春樹という男性…新渡戸の教え子である。


「久しぶりだね…でも驚いたな君が180SXに乗ってるなんて…」


「そうですね〜先生も昔180SXに乗ってましたものね…」


新渡戸は車の後ろに回った。

丸いブレーキランプがふたつ、そしてリアウイング…


「タイプXか…本当懐かしい…」


水野が乗っていた180SXは新渡戸が昔乗っていた180SXと同じスペックであった。


「そうですタイプXですこうして会ったのも何かの縁ですね…どうです先生少しドライブでも?」


「………」

新渡戸に断る理由はない。家に戻ってもお手伝いさんが待つだけである…それに昔のっていた180SXに乗ってみたいと思った。新渡戸は水野の誘いを受けた。

シートベルトを閉める。この180SXと言う車攻撃的な外見とは裏腹に内装は非常に地味である落ち着いたグレーに統一されている。そして乗ると意外と車高の低さは気にならない

水野はアクセルを踏む。


「不思議な感じだよ…私が乗っていた180SXと全く同じ感覚だ…あの頃を思い出すよ…」


水野は黙ってきいているダッシュボードの上にはBLITZの水温、油温、油圧計…エアバッグは取りステアリングも社外品だ…まるであの頃の…あの頃の新渡戸の180SXと同じである。

このターボ音…三千回転を超えたあたりから聞こえるターボ音…懐かしい窓の外にはお店の光や街頭がネオンのように光る…

「本当に不思議だな…いつも見る光景と車の中から見る光景は別物に見える」


水野はギアを変える。もともと新渡戸はベラベラ人に話すタイプではないだが今日の新渡戸はどこかおかしい…


「まるで十年前に戻った気分だよ…あの頃にね…水野君、君は過去に戻れるとしたらいつに戻りたいかね?」


「…先生はまだあの事を引きずってるのですか?


「………」










「そうかもな…」


新渡戸が寂しそうに言った。それからふたりは黙り沈黙が続く。車の排気音だけが車内に響き渡る。どのくらいの時間が過ぎただろうか?辺りは人通りが少なくなり街頭もポツポツとしか無くなってきた。この水野と言う男どこに向かっているのか?新渡戸も少し不安になっていき水野に尋ねた


「水野君いったい何処へ向かっているのかね?」


「先生見せたい物があるんです」


「………」


ふたりはまた黙りこむ。辺りは山に入り建物も少なくなっていく…車のライトだけが光となり辺りは薄暗くよくわからない二十分ほど車を走らせ車が止まった。水野はキーを抜きシートベルトを外す。


「ここは何処かね?」


新渡戸が尋ねる。水野は笑顔で答えた。


「車から出て自分の目で確認してください」


新渡戸はシートベルトを外しドアを開けた。そこにあるものは古ぼけた木造の建物である。新渡戸はその建物に見覚えがある。自分が十年前に住んでいた所だった…新渡戸は後ろを振り返る…

ところが…




いない…


いるはずの水野の姿が見当たらない。車の周り、車内、全てを探しても見当たらない…


消えた…


そんな馬鹿な事はない…

だがどれだけ探しても水野の姿は見当たらなかった。新渡戸は車の中に入りおもむろにダッシュボードを開ける。そこに入っていた物は目を疑う物だった…







車検証である。新渡戸寅ノ助名義の…水野が乗ってきた180SXから何故自分の車検証が…

新渡戸はこの時きずいた外の様子がおかしいことに…


「………」


薄汚れた木造の建物から光が出ている。四階建ての建物から光がポツポツと…

新渡戸は不思議と穏やかな気持ちになり吸い寄せられるように建物へと向かう。


汚れた階段を上がる。懐かしい…自分が昔住んでた場所…ある人と住んでた場所…


ゆっくりと階段を上がる…


一階に一人、二階に二人が生活しているのが伺える。


四階…


自分が昔住んでいた所だ…新渡戸の体の中から何かこみ上げてくる物がある…

表札…『新渡戸』とかかれている。中からは美味しそうな匂い…


新渡戸は引き寄せられるようにドアを開けたのだった。



部屋からエプロン姿の女性が見える。女性は新渡戸にきずいた…


「お帰りなさい」


女性は笑顔で新渡戸に言ったのだった…

人は必ず人生における失敗があります。過去には戻れないのだから悔やんでもしょうがない…でも悔やみきれない失敗もあるのです。

もしタイムマシンがあればあなたはどの時代に戻りたいですか?


今回、趣向を変えて投稿させていただきます

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