第7話◆勿忘草◆
6話の続きです。
「貴様ぁ!いい年こいてストーカーなんかしてんじゃねー!」
「違うんですお巡りさん!僕はただ謝りたかっただけです!誤解なんですよー!」
「じゃあ何故彼女は悲鳴を上げて泣いてたんだ!説明しろ!」
「う…それは僕が知りたいことですよ〜!」
バンッ!
警官が激しく机を叩く。あの後モコ道は有無を言わさずパトカーに乗せられ京都府警に連れてかれた…三畳半の狭い部屋内、コンクリートむき出しの壁はかなり圧迫感がある。そして真ん中に机越しにたたずむ警官とモコ道…そうここは取調室である。
警官はモコ道にライトを向けた。強烈な光で目が歪む。
「貴様は日頃から彼女に好意を寄せていた。毎日彼女をつけまわした…そして欲望が抑えられず今日彼女を乱暴しようとした…どっちにしろ貴様のやってた事はストーカーに他ならない」
モコ道は今にも泣き出してしまいそうだ。だが信じていた…ちゃんと真実を話せばこの警官も分かってくれると…
「お巡りさんいいですか!僕はただ謝りたかっただけなんですよ!昼間彼女を体を触ったら泣いてしまった事…それを一言ごめんと言いたかった…だから夜道後を付けたんです!これのどこがストーカー何ですか?」
「それをストーカーって言うんだよ!」
バンッ!
警官は更に机を叩く。
「貴様はどっちにしろストーカー禁止条例に引っかかる!貴様は彼女の気持ちを考えたことがあるのか!」
「ふっ…僕達は愛し合っている!」
「貴様ぁ!」
警官は胸ぐらを掴む。モコ道は息苦しさで顔が歪む。その時
トントン
取調室のドアがノックされ一人の若い警官が入ってきた。何やら警官どおし話し合っているようだ数分後、警官がモコ道の元へ戻ってきた。
「貴様…彼女に感謝するんだな彼女被害届は出さないってよ」
モコ道にとっては当然のことである。僕達は愛し合っているのだ。彼女も分かってくれたのだろうモコ道は警官を睨みつけ立ち上がる。
「じゃあ僕はもう帰っていいんですね?ほっんと近頃の警察はムカつきますよ…勝手にストーカーって勘違いしやがって」
モコ道はひとりブツブツ文句を言い警察の批判を繰り返す。ところがこの警官意外なことを言い出す。
「ちょっと待ちなさい彼女からひとつ条件があるそうだ」
警官はそう言うと一枚の紙とペンを持ち何やら書いている。そこにかかれた文にモコ道は目を疑った。そこには…
1月20日
私、陸奥モコ道は仲間美穂様の半径10m以内に近寄らないことを誓います。
っと書いてあった。
「これが彼女からの条件だ…ここにサインしなさい…もう近寄っちゃだめだよ」
「………」
「どうした?早くサインしなさい」
「…嫌です」
「いいからサインしなさい」
「嫌です!」
「………」
警官は一度ため息をつきモコ道に優しく話し出した。
「君は愛し合っている…っと言った…でもこれが彼女の気持ちなんだよ…彼女は君のことが怖いと言っていたそうだよ…私は君の好意は否定しないでもこれは愛なんかじゃないよ…君が本当に彼女の事が好きなら彼女の気持ちを汲むべきだよ…」
「………」
「君はまだ若い…これから色々な恋愛をすると思う…いつか分かるときがくると思う…本当の愛…愛とはね相手の全てを受け入れるものだ…今の君の愛は攻撃的すぎるよ…わかるね?」
自然と涙が出てくる。確かにこの警官の言うとおりかもしれない…
今までのなかまさんとの思い出が走馬灯のようによみがえる…
いつも持ちやすいようにレジ袋を丸めてくれた事…嬉しかった…
いつもお釣りを渡すとき手触れたこと…嬉しかった…
いつも笑顔でいてくれるあの笑顔でどれほど癒されたことか…これほどひとを好きになったことはない…
もう会わないでほしい…彼女が望なら…モコ道はそう思った…そしてペンをとったのだ。一字一字心を込めて書くが涙で字が滲む。その光景を警官は黙ってみている…
「………」
「………」
そっとペンを置く
「頑張ったね…」
警官が言った。モコ道は立ち上がり部屋を後にする。帰り際、警官はモコ道の肩を叩き最後に一言言う。
「いつか…いつかきっとこの悲しい思い出も良かったと思える日が来るからね!」
モコ道は何もいわず。頭を下げ暗闇に消えていった。もうなかまさんと会うことは出来ない。会ってはいけない…それが陸奥モコ道のなかまさんに対する最後の愛情表現だと思っていた。
心の恋人…なかまさん…幸せになってほしい…それがモコ道の望むことだ…こうしてモコ道の悲しい初恋が終わりを告げる
帰り際、道のスミで小さな白い可憐な花を見つけた。その花はアスファルトから突き出し今にも枯れてしまいそうだ。こんな目立たない場所誰にもかかわらず気ずかないだろう…
小さく儚い可憐な花……それは勿忘草である…
勿忘草の花言葉は…
『真実の愛』