第6話◆ファミマのなかまさんが好きで好きでたまらない!前編◆
今回、新渡戸の登場は少ないです。
「二百円のおつりになります」
「あ、どうも…」
おつりを渡す際、女の指が男の手に触れる。男は極度の緊張と高揚感で失神してしまいそうだ。
この男こそ、この話の主人公、京都大学一年、陸奥モコ道である。陸奥は『むつ』とは呼ばず『むっつり』と呼ぶ。
モコ道は今恋をしている…相手は毎日会う女性。いつもネクタイの上に緑のラインが入ったジャケットを着ている。そうファミマで働く女性である。名札には『なかま』と書いてある。
「あ、あう!すいません…肉まんひとついいですか!」
「はい、かしこまりました」
なかまさんは手際良く肉まんを袋に詰める。横顔も素敵だ。モコ道は生まれてこの方女を知らない童貞である。中学生、高校普通の学生が遊んでいる時でも勉強した。その引き換えに京大に入れたのだが…
女の接し方を知らないのだ…話し方が分からないのだ…『好きです』の四文字が言えない…妄想の中ではなかまさんとホテルにいるのだが…そんなことは現実には起こらない。モコ道は肉まんを待つ間、妄想に明け暮れる…妄想の中で行為のフェニッシュを迎えるころだ
「あの〜お客様?」
「は?はい!」
「肉まん出来ておられますよ?」
『!』
モコ道の妄想が終わる。モコ道の前にはレジ袋が置かれている。袋の先は持ちやすいように丸めてある。勿論冷たいものと温かいものは分けてある。嬉しかった…モコ道は嬉しかった…自分だけに持ちやすいように袋を丸めくれる!そう自分だけに!
「わ、わ、わざわざ袋丸めてくれたんですか?ぼ、僕のために?うれしいですぅ!」
「いえ、袋丸めるのが決まりですので」
『!』
なかまさんはキッパリと言った。勇気を出していったのだ…自分だけに袋を丸めてくれていると信じていた…他の男にも丸めているのか?モコ道のショックは計り知れないものである。自然と涙が流れる。モコ道にとっては人生最大級のショックだった。モコ道は逃げるようにその場をさった。だが気ずいていなかったこの時モコ道は…
肉まん代を払っていなかったことに…
喫茶HMLにて…
店内の薄暗い証明は不気味にギターを照らす。壁には無数のドクロが笑って見える。そうここはかの有名なヘビメタ喫茶である。
「お客様、鉄の処女ハンバーグでございます……キョメラカアアアーーーーーーー!」
モコ道の前に置かれた人型ハンバーグは無残にも粉々に破壊された。
「ではごゆっくり…」
店長である高島あや子は奥に消えていった。
モコ道は学校帰り仲間達とよくこの喫茶を利用する。モコ道の仲間………『モテない同盟』とでも言っておこうか?モテない同盟にはモコ道を含め三人いる。
ダサ男とメタカツとそしてモコ道だ。三人とも実際は童貞なのだがプライドの高いモコ道はいつもホラを吹きまくっている。今日もそうだ…
「モコ道さん…やっぱり白塗りのアヤパンも可愛いっすね!」
「ふっ!俺に言わせるとまぁまぁってとこだな!でもエッチのフェニッシュの顔は最高だぜ!」
「ま、まじっすか!アヤパンまで喰っちゃたんですか?」
ダサ男とメタカツは驚きの表情をする。勿論ホラである。だがモコ道のホラはこんなものではない
「穴ウンサーといっても所詮女ってことだな!俺のテクニックにかかればヒィヒィ言ってたぜ!」
「まじっすか!」
ダサ男とメタカツは更に驚きの声を上げた。そしてメタカツは感心したように言った。
「モコ道さん、さすがっすネ!さすが十五で千人斬り達成しただけのことはありますねぇ〜!」
モコ道は十歳で童貞を失った。相手は小学校の美人教師である。それから女とやりまくり、十五には千人斬りを達成した。下は五歳、上は五十歳…学生から政治家までを喰った…っと言うホラを吹いていたのだった。
ダサ男とメタカツは同い年のモコ道に敬語を使う…なぜか?それはただ女を紹介してほしいからだそしてメタカツは言いにくそうに言った。
「あの〜…モコ道さん?前に話した沢尻エリカを紹介してくれるって話どうなりましたか?」
「エリカは自宅謹慎中は紹介できない!」
いつも適当に嘘をつく。沢尻エリカなど知り合いではないのに…
「でもモコ道さんは沢尻エリカとやりまくっているんですよね?」
「まぁな」
…ある意味、脱帽である何故これほどまでに平気で嘘をつくのか?それは誰にも分からない…
実際のモコ道はろくに女と話も出来ない童貞君である。そして今はコンビニのなかまさんに恋をしている…
三人はヘビメタの爆音を聞きながらホラに聞き入っていたのであった…