駅前来々軒(えきまえらいらいけん)
初めてファンタジー作品を書きます。
よろしくお願いします。
是非感想を頂きたいです。
学校が嫌でたまらなかった。
何故こんな思いをしてまで行かなくてはならないのか、さっぱりわからなかった。
小学校時代からから続くいじられ役にうんざりして、中学に上がればそれも解消されると思っていたのにむしろエスカレートするばかり。自分の毎日通う中学校に居場所など雀の額ほども無い。
教師も親も何もしてくれない。
いくら現状を訴えても、事態は良くなるどころか悪化する一方だ。
友達なんかいない。
誰も信用できない。
親や教師の言う通り、勉強や運動をがんばっても、奉仕活動にせいをだしても、ただいいように利用されるだけ。
成績を上げれば宿題を見せろ、カンペを作れ、と言われ。
運動をがんばれば面倒な係を押し付けられ。
どれだけいい人を演じても誰も自分には優しくならなかった。
きっと今日も登校すればどこかで陰口を叩かれ、いいように利用され、勝手なことをされる。
・・・だから私はもうリアルには何も期待しない。
空想の中だけで生きる。想像の中だけで生きる。
二次元は決して裏切らないし、自分を陥れることも無い。
そうやって現実とはかけ離れた世界の事を考えてでもいなければ気が狂ってしまうだろう。私は空想と想像の世界にのめりこんだ。ありがたいことに媒体はいくらでもある。絵も文字も音も探せば探すだけ見つかるのだ。
そんな風に現実から逃避することばかりを考えていたからだろうか。
中三のとあるうららかな春の日。
私は階段を踏み外し、4階の踊り場から転げ落ちてしまった。
香辛料の匂いがして鼻の奥がつんとする。
「あんた、よっぽど腹が減ってたのかい?」
陽気な声が聞こえた。
がばっと起き上がると、声の主が振り返る。
・・・ふぉおおおっ美形だっ!
長い茶色の髪をお下げにした男の子がこちらを見て笑顔を見せた。きらりと光る白い歯が清清しい。
整った顔立ちには感動を覚えるほどだが、その服装に違和感を覚えた。白い割烹着のようなものを着て、頭には三角巾を巻いている。
「いやー、店の前で行き倒れてるのをほっておくわけにも行かなかったからさー。まあ、食べなよ~。」
ふと周りを見回すと、どうやら店舗のようだった。たくさんの木のテーブルと椅子が配置され、自分が横たわっていたのが平たい、背もたれの無い長椅子だった事に気がつく。
傍らのテーブルの上にどん、と置かれた丼は湯気が出ていた。
思わず覗き込むと、チャーシューとメンマと海苔が乗った味噌ラーメンに見える。腹の音がぐぅぅと鳴った。
割り箸を添えてにっこりと無邪気に笑う男の子に、私は恥ずかしくて思わずお腹を押さえる。
「とにかく食べな~。話はそれからだよ。」
「・・・ありがとうございます。でも、私お金持ってない。」
学校に現金など持って行くはずが無い。私は制服のポケットを探ったが、金目のものなどあるはずもなく。
「そうでなくちゃ行き倒れたりしないだろ、わかってるさ。まあ、いいから。」
男の子の好意に甘えて、私は割り箸を割った。
もう空腹に耐えられなかったのだ。
そんな私を見て、彼は店の入り口に近いテーブル席の椅子に腰を下ろす。
・・・私、どうしてラーメン屋さんの前で行き倒れちゃったりしちゃったんだろ。
味噌ラーメンを頂きながら、ふと考える。細麺に絡む味噌の風味が濃厚でとても美味しかった。きっとこのお店は流行っているんじゃなかろうか。行列が出来る~とか言う有名店?
しかし店内には他のお客は一切いない。
「どう?おちついたかい?」
「はい。ご馳走様でした。とっても美味しかった。」
「そりゃあよかった。」
食べ終わった私を見てにっこりと笑うと、彼は立ち上がりもせず口を尖らせ小さく口笛を吹いた。すると、店の出入り口の扉が内側に開いて、小さな生き物が走り込んでくる。
・・・蜥蜴!?で、でかっ!
犬か猫でも入ってきたのかと思ったら、全長30センチくらいはあろうかという緑色の蜥蜴だった。しかも、二本足で歩いている。
「お呼びですか、ご主人様」
・・・!!喋った!!
「お客様の食器を下げてくれ。」
「かしこまりました。」
・・・ええ~!?
蜥蜴が日本語を喋って、二本足で立って歩いて、ラーメン丼と箸を片付けてる。
開いた口が塞がらない私を見て、どうやら店主らしい男の子がまた笑った。
「俺のペットのドラゴン。よく出来た奴でさ~、店の手伝いもしてくれるんだ。」
「蜥蜴・・・じゃないんですか。」
「サラマンダーだよ。おーい、ライデン、お前が火を吐くところ見せてやってくれよー。」
「かしこまりましたー。」
さっきの緑の蜥蜴がぽてぽてと歩いて戻ってくると、どこから取り出したのか前足にライターを持って火をつけた。
「・・・な?」
どや顔する飼い主と蜥蜴。表情があるのかこの蜥蜴。
・・・いやいやいや、突っ込みたいところいっぱいあるんだけど。
どう見ても蜥蜴だし、それにしては大きいし、喋るし、火を吐くんじゃなくてライター持ってるし。
「俺、レナード・ジョイス。あんたは?」
「要。堀越要です・・・。」
「カナちゃんか。ここは俺の店で、来々軒ってんだ。行くところが無いなら、暫く俺の店で働いてもいいよ?」
いや、行くところが無いって言うか、家に帰ってお金持ってこなくちゃ申し訳ないんだけど。
「あの、電話、貸してもらえますか?家に電話して迎えに来てもらうから。」
「デンワ?何ソレ?馬車の名前?」
レナードさんはふざけているようには見えなかった。
というか、どう見ても日本人風の顔の、このラーメン屋さんの店主がレナードという名前であることにも驚きだ。
喋る蜥蜴に電話が通じないラーメン屋の店主。
何かが変だ。
いや、私の頭じゃなくて。
「ここは、どこなんでしょうか・・・?」
恐る恐る尋ねた。
するとレナードさんは厨房の奥へ歩いていった。その後ろをぽてぽてとさっきの蜥蜴、いやサラマンダーとかいうドラゴンが追いかけていく。なんとなく可愛い。
程なく戻って来た彼が手にしていたのは羊皮紙で出来た大きな地図だった。
筒状に丸められていたそれをテーブルに開いて四隅を指で押さえる。
「ここが俺の店。駅はコレ。この町はタイロンって言うんだけど、俺は生まれも育ちもここなのね。あんたの服装って見たこと無いんだけど、北の方かな?南北に馬車の行き来があるからね、割とこの町は栄えてるんだ。どう、あんたの家、わかりそ?」
小学生にも描けそうな大雑把な地図には、町の輪郭さえ載っていない。確かに駅らしいものの印が、馬の頭のマークでところどころ見える。他に私が理解できそうなのは山や川だと思しき印くらいだった。
少しでも情報を得ようと目を皿のようにして見つめていると、この店から南と思われる方角に王冠のマークがあることに気がつく。
「レナードさん、これ、何の印ですか?」
「それはこの町の御領主様のお城だよ。」
領主様がいる!
中世ヨーロッパみたいな感じだろうか。
・・・でもなぁ。レナードさん、割烹着に三角巾だしな。ラーメン屋さんだしな。
だが、喋って二本足で歩いて、丼を片付ける蜥蜴もいる。
なんというか、世界観が見えない。
領主がいて、ドラゴンがいて、馬車が交通手段。
夢にしても、なんというか一貫性がないというか。ラーメン屋さんの店主がレナードさん、なんていう外国風の名前で店名が『来々軒』っておかしくないだろうか。
振り返ってレナードさんを見る。
彼は罪の無い笑顔を向けてくるだけだ。美男子だが、どうみても東洋風。見覚えも無い。学校でも見たことが無い顔だ。
とりあえず。
ここは彼のいう事に甘えて。現状維持をはかるのが最善の策かと思われた。
「あの、申し訳ありませんが、お世話になります。」
「おおー、従業員決定!助かっちゃったよ~、中々バイトさん決まらなかったからさ。早速だけど、トイレ掃除頼んでいい?」
レナードさんは白い歯を見せて清清しく笑った。
これからがんばって書いていきたいと思います。
カナちゃんがどんな恋愛をするのか楽しみです。