第七章 春風一番5
光一は、この光の正体が知りたくてうずうずしていた。
日ごとに躰が弱まって行く父親に、ついに光一は衝動が抑えきれなくなり訪ねてしまう。
光を見せられた和寿は、目を大きく見開き、恐る恐る手を伸ばす。
「いかん。こんなもの。お前には必要がない。すぐに海に捨ててきなさい」
はっきりとした口調で言われた光一は、驚く。
もう何年もまともに喋らなかった父親が、こんなしっかりとした口調で喋るなんて、思いがけないことに動揺はしたものの、尚更好奇心を煽られてしまった光一だった。
「頼まれたんだ。あの吉永っていう人に」
「それを手にしたものは、苦しい思いに晒される」
ベッドから必死で起き上がり言う父親に、圧倒された光一は、一旦は光を引き出しにしまい込むが……。
――数日後、フラフラとした足取りで和寿が教会へ入って行く。
ステンドグラスに光が当たり、色とりどりの光を床に落としている。
椅子に座りしばらく眺めていた和寿が、涙を流す。
「あなたは罪深い。戦いが終わることなどないということを、オレに教えてくれなかった。マリア、教えてくれ。オレが出した答えは正しかったのか。あいつが時折見せた悲しい目、あれは何だったんだ? オレはあんなもの手にするべきじゃなかったんだ」
床に七色の光を落としたマリア像が、静かに微笑む。
透き通るような青空が一面に広がり、神父の祈りの声に喪服を着た人々がハンカチで目がしらを押さえ、和寿との別れを済ませ互いの肩を抱き合い慰め合う。
一人ステンドグラスを見上げて座っている光一を見つけた沙世が、静かに隣に座る。
「逝っちゃったね」
沙世に言われ、光一はああと頷く。
夜明けを待って、光一は誰にも何も言わずに町を抜け出す。
父親は死ぬ間際まで、あの光を捨てろと言い続けていた。あの老人もあれから一度も姿を見せずにいた。
光一は、毎日こっそりこの光を眺めていたが、だんだんこの町を出て大きなことを成し遂げたいという衝動に駆られ出していた。急に大きなことを言い始めた光一に、沙世は眉間に皺を寄せ、再三忠告したが、ついに昨夜、おまえには関係ない。ぼくにはぼくの生き方がある。と言って止める手を振り払ってしまった。
上京した光一を最初に待ち構えていたのは、舘野という男だった。
吉永を訪ね歩いているうちに一人の男と繋がり、それが舘野だった。
舘野は調子がいい男で、住むところと仕事を世話してくれ、何かと光一に便宜を払ってくれるようになる。
「どうして、そんな親切にして下さるんです?」
「いや、理由はないけど。吉永さんにはいろいろよくしてもらったから。それに困っている人を見捨てるような真似、私には出来ないんでね」
胡散臭さをぷんぷん臭わせているが、光一はその親切に甘んじてしまう。
「まぁかわいい坊や」
舘野に連れて行かれた店のママが、目を輝かせる。
「こいつ、吉永さんの知り合いらしいんだけど、しばらくここで使ってやってくれ。よろしく頼むわ」
「ママ、この子、私が可愛がってあげたい」
「陽子はすぐに若い男を食べたがる」
「だって、この子きっと童貞よ」
「ま、上京したてだから免疫ないんで、お手柔らかに頼むわ」
光一はボーイとして働きだす。
舘野に頼まれ、人にあったり、物を預けに行ったりすることが何度かあったが、一端の大人になった気になっていた光一は、目つきの悪い男に呼び止められる。




