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第六章 光の向こう側4

 ぼんやりと、テレビに映る息子の笑顔を見ながら、奈緒は本当にこれで良かったのかと考えてしまう。確かに歩が果たせなかったものを継いでくれるのは嬉しかった。舞台に立つ明日歩と歩が重なり、涙が止まらなかった。悔いても悔いきれないあの日の選択肢。それでも、この子を産んで育てたいという気持ちは、変えられなかった。もう少し自分が強ければ、もしかしたらあの場所に歩は凛とした姿のままで、立てていたかもしれない。が、それはあくまでも歩の人生であって、明日歩のものではない。


 ――ガタン。


 玄関が開く音が聞こえ、奈緒は顔を顰める。

 酔っぱらった明日歩だった。

 「こんな時間にどうしたの? 今日は一人なの? 中島さんは一緒じゃないの?」

 「どうしてですか~。自分の家に帰るんですよ。一人に決まっているじゃないですか」

 ようやく、ブーツを足から取った明日歩はそれを投げ捨てると、よろよろと立ち上がり、茶の間へ入って行く。

 「腹減った~」

 お腹をさすって言う明日歩に、奈緒は眉を顰める。

 いつもの場所に腰を落ち着かせた明日歩は、ガチャガチャと落ち着きがなく、チャンネルを回したかと思うと、食事を運んで来た奈緒を認めると、ひっきりなしに話し続けた。

 「まっつちゃんって、母さん覚えてる? 中学の時の同級生。ばったり駅前で会ってさ、一杯やるかって話になったんだ。で、克己も呼ぼうぜって話になってさ、そしたらあいつ海外に行っていて、俺、全然知らなくってさ。友達の夢が叶っているっていうのに。まったくなってないよな」

 「仕事で何かあったの?」 

 「何で?」

 「様子おかしいから」

 「な~んもないですよ。な~んも。いたって良好。すべてよし。見事なもんですよ」

 そう言ったかと思うと、明日歩はフラフラと立ち上がる。

 「どこ行くの?」

 「風呂入って、寝ます」

 「ご飯は?」

 「やっぱいいや。悪いけどアシタ食べます。明日歩君は疲れちゃいました。では母上、お休みでござる」

 

 ベッドに躰を投げつけると、明日歩は腕で目を覆う。


 中島と口論したうえで聞かされた言葉は、信じがたいものだた。

 あずさから望まれた別れだった。

 てっきり中島達の入れ知恵だとばかりと思っていた明日歩である。

 

 「彼女は彼女なりに、だいぶ前からお前との交際を悩んでいたらしい」

 寝耳に水だった。

 「そんなわけないじゃないですか? 俺らうまくいっていたし」

 「そう思っていたのは、多分お前だけだ明日歩」

 「頭を冷やして、よく考えてみろ。思い当たる節があるんじゃないのか」

 「そんな」

 明日歩はハッとなる。

 教育実習の時のやり取りを思い出していた。

 「でもあれは」

 「彼女にとって、不安材料になる愛が、耐えきれなくなったんじゃないかな」

 明日歩はもうそれ以上、何も言えなくなってしまっていた。

 一人酒を浴びるように飲み、明日歩は静かに決めたのである。

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