第四章 夏の微熱12
あと三か月で会えなくなってしまう。会ったとしても今までのように話せるのだろうかと思うと、自然と涙が零れ落ちる。
知美は推薦で決まっていた大学を蹴って、最後の悪あがきで、明日歩が選びそうな学校を山掛けして受けるつもりでいた。
帰り道、参考書を選びながら、偶然明日歩に会えないかと期待してしまう自分がいる。
哲平から聞いてもらう手も考えたが、理由を聞かれると面倒だから止めた。前みたいに冗談で訊ければいいのだけれど、高校というのは、どうしてこんな区別をするのかしらと、恨めしく思うことが何回もある。
文系と理数系では、教室も違えば、階まで違ってしまう。三年になり、酷いことに棟まで違うようになった。
知美はつい唇を噛んでしまう。
さらりと何でもこなしてしまう明日歩が、憎たらしかった。
進学希望ではないくせに、特進クラスって何ですか? とぼやく知美に、明日歩は一度だけその話をしてくれたことがあった。
父親との約束で、手を抜くことが出来ない、という話だが、それににしてもそこまで頑張る必要ないじゃない。私が守ってあげるって言っているのに、バカ明日歩。
ひとしきり愚痴った知美は、がっくりとうなだれる。
何となく、ずっと分かっていた。けど認めたくなくて……。
知美はぶんぶんと首を振る。
奈波の言葉が痛かった。
その日の放課後、知美は気晴らしをするため、駅ビルに立ち寄る。
本屋で参考書を物色しているうち、知美はだんだん腹が立ってきた。
大体、何でいつもギリギリにあいつは進路を変えるんだ? 高校を受けないって言ってみたり、もう就職だって、言ってじゃない。
腹を立てても仕方がないのは分かっている。でも、もっと前に決めていてくれれば、こんなにやきもきしないで済んだのに。ママやパパを説得しなくっちゃじゃない。
どうにも気が収まらない知美はそのまま階を変え、聞き覚えのある声に、ふと足を止める。
思ったとおり、明日歩と克己がアクセサリー屋で、品定めをしているところだった。
こんな偶然、凄い。
「明日歩」
目を輝かせた知美に声を掛けられた明日歩は、ぎくりとなってしまっていた。
全くそれに気が付かない知美は、何のためらいもなく二人の元へ寄って行くと、当然のように仲間に加わって行く。
しかし、見れば女性ものばかり並ぶ棚である。
「誰かのプレゼント?」
「げっ、何でお前がこんなところに居るんだよ。ていうか混じってくんなよ」
克己が迷惑そうに言うと、良いじゃないよと言い返しながら、明日歩をチラッと見る。
相変わらず、我関せず。の姿勢を保ったまま、明日歩はアクセサリーを見比べていた。
「お母さんの探してるの?」
そうであって欲しい。願いながら、知美はネックレスを手に取りながら訊く。
一瞬躊躇した明日歩が、彼女のなんだけど、どれが良いのか分からなくってと答える。
知美の心臓が、バクバク言い出す。
「そうなんだ」
甲高い声を出す知美に、おめーは引っ込んでろ、と克己に言われるが、何でよーと言い返す。
引っ込みがつかず、これなんていいんじゃないと吟味し始める知美を見て、克己が露骨に嫌な顔をしてみせる。
「良いから、帰れよシッシ」
克己に手で払われ、やっと帰るタイミングを見つけて、その場を離れる知美だった。




