第一章 不良と正義12
明日歩は、自分の考えの甘さに愕然としていた。
初犯なら、厳重注意されて、すぐに髪の色を戻せばいいと思っていた。ピアスだって今日はしてくるつもりはなかったのに、髑髏はグロすぎるから、こっちの方を付けて行きなさいと、奈緒のピアスを歩に渡された。引っ込みがつかずに素直に嵌めて来てしまったけど、参った。
せっかく痛い思いして開けたんだから、ちゃんとつけておけよって……。
ここでは狭いからと会議室に通された明日歩は憮然としていた。
「もうすぐ親御さんもお見えになられるから、それまで反省しているように」
担任である槻岡を、明日歩は恨めしく思う。
お門違いなことは重々承知のうえ、非は全部自分にある。
明日歩は、自分お考えの浅はかさに、髪を掻き毟る。
奈緒が来る。来てしまう。たぶん、歩も一緒だ。どうせ呼び出しをするなら、父親のほうだけにしてくれと、頼めばよかったと、明日歩は真剣に思う。
しばらくして、廊下の方から声が聞こえてきた。
明日歩は耳を澄ます。
槻岡と話しているのは、明らかに歩だった。
ドアが開らき、神妙な顔をした二人を見た明日歩は、落胆しきる。
「中田君、ご両親が見えたから、行きますよ。そう落ち込まないの。自分がしでかしちゃったことなんだから」
まさか落ち込んでいるのが両親揃ってのお出ましのこととは知らない槻岡が、明日歩の肩を軽く叩く。
奈緒は、色は黒を着ているけど、大きなフリルの襟がついた白のブラウスに黒のベストとスカートの裾からはアンダーコートのフリルが見え隠れしていた。それに比べて、歩は綿シャツに、ジーンズ姿でラフすぎる格好に、何を思ったか細い黒縁のメガネを掛けている。
遅れて学年主任の村沢と、教頭の桐原が入って来た。
明日歩と同様、集められた教師たちも同じことを思ったらしく、表情があからさまに険悪なものになっていた。
気を取り直した桐原が、呼び出した概要を喋り、それを村沢が補足する。槻岡は新任の教師で、一字一句落とすまいとメモを取る。
「要するに髪の色を、戻せっていうことですか?」
ことの重大さを、どう表現しようかと大袈裟に説明する教師達に対し歩は横柄な態度を取り始める。
「かいつまんで言ってしまえばそうですが、ここで大事なのは彼の心に何が起きたかで、これからのケアが大切だということで」
「つまり、明日歩が不良になったと、村沢先生は言いたいのですか?」
言い返したのは、奈緒の方だった。
明日歩は、えっと目を上げた。
奈緒にしては、珍しいきつい言い方である。
「そのようなことは申してはおりません。ですが、こういう小さなことが要因になりうるってことです」
「髪を染めただけで?」
素っ頓狂な声で言う歩に、教師達が顔を見合わせる。
「中田さん、容姿の乱れが一番危険なんですよ」
槻岡がきつい声で言うのを、奈緒はおとなしく聞き逃さずにいた。
「この子は、不良にはなりません。何か理由あって、こんな格好をしているんだと思います。むしろ、そうやって決めつけてしまうのが、問題ではありませんか?」
歩も大きく頷く。
こんな状況に耐えきれるほどの図太い神経を持っていない明日歩である。
「僕は、どうしたらいいんですか?」
「髪の色を直してくることと、反省文三枚明日までに提出しなさい」
桐原の言葉に明日歩は、立ち上がって謝ると、一目散で飛び出して行く。
「まだ話は終わっていませんよ」
遠くで槻岡の声が追いかけて来たが、無視をした明日歩は靴を履き替え外に出る。
「おーい明日歩」
呼ばれて明日歩は校舎を見上げる。
克己が大きく手を振るのが見えた。
すぐに教室へ引き戻されていき、明日歩は肩を窄める。
これで良かったと思うしかない、と明日歩は思うことにした。
とりあえず、これで知美に攻めたてられることはなくなったのだから。




