2−2 待ち人
小学校は、真ん中に池があり。
それを囲む様にして、校舎が立っていた。
一年生の教室は、それに面した一階にある。
水のある所には、霊が集まる。
その説が、本当かどうかは微妙だ。
なにせそれ以外の場所でも、見るのだから。
自分の教室と、図書館、昇降口。
一年生になった自分は、とりあえずそれを覚えた。
図書館で本が借りられるようになると、真っ先に本を借りるためだった。
ちなみに今だ本の虫である。
それは、ともかく。
入学式早々に憑かれた『それ』を引きずりながら、一学期は校内の色んな場所を覚えた。
音楽室、理科実験室、家庭科室。
職員室に、校長室、体育館。
どの場所にも、『ここは自分の場所!』という顔をした霊に出会えた。
もちろん、くぅとりぃがばちばちと火花が出そうな位威嚇をして、相手のお方が恐縮していた。
なんか…ごめんなさい。
校長室では、歴代校長らしき方々にも出会った。
こちらは自分も挨拶をしておいた。
これから六年間お世話になるのである。
なるべく平和に過ごしたい…。
小学校は概ね平和だった。
時々、危ないモノが紛れこんだりもしたが、生きてるうち人の数が多いのだ。
仕方のないことだろう。
当然、逃げ回った。
自分は離れた所に住んでいたので、バスで通学していた。
一年生になって、どの位の時だっただろう。
高学年の人が一緒ではなく、自分一人だったので、まだ日が浅かったに違いない。
学校からほど近い、大きなバス停で、自分はバスを待っていた。
そこには大きな銀杏の木があって、いつもその下に、一人の人が立っている。
もちろん、自分にしか見えていない。
雨の日も晴れの日も立っていて、気がついたのだが。
危ない気配もせず、ただただ立っている彼に、何を思ったか、その日の自分は話しかけたのである。
「ねぇねぇ、誰を待ってるの?」
と。
何故、誰かを待っていると思ったのか。
全く持って不思議である。
『恋人をね、』
彼は遠くを見たまま、教えてくれる。
『恋人を待っているんだ。遅くなってしまったけど、きっと来てくれるから。』
「そっか、来てくれるといいね。」
その後、すぐバスが来てしまって、自分と彼の話しはそこで終わってしまった。
彼は、小学校を卒業してからも見かけた。
中学生になっても、高校生になっても…。
その駅が改修工事をされ、スーパーと併用になっても。
ある日、ふと見たら。
彼がいる辺りに、何か生えているのに気がついた。
それは、水仙だった。
それが、水仙であり、もっと詳しく言えば、ラッパ水仙だったことを知ったのは、大人の話しているのを聞いたからで。
ラッパ水仙の花言葉を調べたのは、自分がだいぶ大人になってからだ。
その水仙は、今でも枯れることなく、咲いていると人伝に聞いている。




