1−5 神の加護
自分は幼稚園に入れられていた。
仏教を母体とする、街中にある私立幼稚園。
それなりの大きさだったんではないだろうか。
幼稚園の横にはお寺があり、さらにその敷地の一角にはピアノ教室があった。
親の教育か、もちろんそのピアノ教室にも通っていた。
砂場の上に、大きな藤棚があったことを今でも記憶している。
幼稚園は嫌いではなかった。
あっちにもこっちにも気を取られ、先生の話は全く聞いていない、落ち着きのない子ではあったが。
そりゃそうだろう。
たくさんの人がいれば、その倍以上の霊を見たはずだ。
落ち着きもなくなる、そういうものである。
いろんなことを教えてくれる先生がいて。
一緒に遊んでくれる友達がいて。
おかげで嫌いになることはなかった。
それでも、怖いところであることに変わりはなかった。
くぅとりぃがピリピリしている雰囲気が、いつも伝わってきて。
時々いなくなっては、戻ってくる。
そんな感じだった。
自分は大抵藤棚の下にいた。
そこが一番落ち着ける場所だった。
園庭にいれる限り、自分の居場所はそこだった。
なぜなら、そこにいる限り、長い髪の綺麗なお姉さんが自分を守ってくれていたからだ。
二匹が言うには、藤棚に憑いた『付喪神』だという。
それだけその藤棚が大事にされていたのだろう。
春には、花を咲かせ。
夏には、涼しい日陰を提供し。
秋には、その実や落ち葉が子供にとっての格好の遊び道具になり。
冬には、寒さや積雪に耐える。
そうして何人もの園児を見送っていたに違いない。
そして自分の存在に気がついた少女に、少しだけ守ってみた。
そんな感じだったんだろうか。
おかげで、幼稚園に行っている間、自分は怖い思いをしたことはなかった。
幼稚園で行われるお泊まり会も。
くぅとりぃが離れている日も。
たとえ幼稚園に行く道中で、何か怖いモノに出会った日さえも。
その守りがいかに偉大だったのかは、卒園して小学校に上がるその日まで。
知ることは、ないのである。




