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水花鏡月  作者: K
1 幼年期
5/8

1−4 行方不明

くぅとりぃがついたとはいえ、自分はまだまだ不安定だった。


年齢が幼かったのもあるだろう。


それでも、自分でなんとなくは分かるようになってきていた。


自分を狙っている存在と、そうでない存在。

同じ場所に佇むモノもいれば、気まぐれのように行き交うモノ。


人間が様々なように、その存在も様々だった。


くぅとりぃは、出かけていることも多々あった。

これは、そんな時に起こった、とある事件である。



くぅとりぃが出かけている時、自分は家に篭ることが多かった。

それが自分の身を守る方法だと、幼いながらに考えたのだろう。

家にある絵本を見ながら、一日を過ごそうとしていた。


ページを捲る手を止めて、目線を本から他へと移す。

何時もと違う…霊とは違う存在を感じたから。


目の前には、何時もと同じ景色。

どこから来て、どこへ行くのか、分からない存在たち。


…違う。『何か』いる。


そのことに気がついた瞬間、身体が勝手に動いた。

立ち上がり、玄関へ行って、靴をはく。


自分を狙っている訳ではなさそうだった。

そんな感じは全くと言ってしなかった。

ただただ遊んで欲しい。

そんな感じがしたのだ。


家に面した道路まで出て来て、自分はその『存在』を見上げた。


希薄なその存在は、ゆらゆらと揺らめきながら自分を包み込んだ。


ちぃちゃんの時の様なことはなかった。


目を閉じて、その不思議な感じを確かめる。

そして目を開けると、そこには知らない風景が広がっていた。

木々に囲まれた、原っぱ。

傍らには、狐のお面を横にかぶり、昔の様な着物を着た、子供が一人。


「遊ぼう。」


彼女か、彼か。

性別の分からないその子は、そう言って自分の手を引く。


「うん、遊ぼう。」


怖さはなかった。


くぅやりぃに嫌という程、教え込まれたせいもあるのだろう。

その頃の自分は、過剰なほど、この手の『存在』を恐れていたというのに。

その時は恐れもせずに、彼女の手を取ったのだ。


原っぱを走り回り、摘んだ花で花輪を編む。

飽きたら、また走り、木の影に隠れておどかし合う。


日が暮れることもなく。

お腹が空くこともなく。


拾ったどんぐりや松笠をおもちゃに、おままごと。


時間が経つのも忘れて、自分はその子と遊んでいた。


ふと、何かが鳴いた。

いや、鳴いたような気がしただけかも知れない。


けれども、今まで一緒に遊んでいたその子は、立ち上がり、空を見上げて、少しだけ悲しそうな顔をした。


「どうしたの?」


釣られて自分も立ち上がる。


「…ごめんね、もう行かなきゃ。」


そう言ってその子は私を抱きしめた。

また思わず目を閉じる。


「…また遊ぼうね。」


そんな声が微かに聞こえた気がした。


目を開けると、そこは家の前だった。

しかし真っ暗、離れた所にある街灯が、うっすらと長い影を作る。

空を見上げると、細い月と無数の星が見えた。



親からはしっかり説教された。

自分は丸二日、いなくなっていたと言う。

何処へ行ってたのかと問う親に、説明しても分かってはもらえなかった。


ただ、


「まぁ、『アレ』だし。」


と妙な納得はされたが。


くぅとりぃは何も言わなかった。

自分を見て、


『…なるほどね。』


と言っただけだった。


大きくなって、その現象が


『神隠し』


と言うことを知った時に、自分が遊んでいた存在を知るのではあるが。


そしてくぅが、


『ありゃお狐さんの子供だったんだろうよ。

聞こえた鳴き声は、おそらく親が呼び戻しに来たんだろう。』


と正体を明かしてくれた。


もっとも、その時の自分の感想は、


『よく帰ってこれたな。』


だった。



実はその子とは、その後何度か遊んだ。

ただ、お互いに時間には気をつけるようになった。

それだけである。


もちろん、くぅとりぃがいない時だけだったが。

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