1−1 最初の記憶
あれはいくつの時だったんだろう。
何十年も経った今、あの頃の記憶は朧げだ。
自分が「れいちゃん」と呼ばれ、それに返事をしていたと言うことは、それなりの齢だったのだろう。
自分の名前が「零」だと、漢字で覚えるのはまだまだ先だった。
自分の周りには、何時も誰かがいた。
親や姉妹とは違う、その「誰か」が…。
その頃は怖いものではなく、いい遊び相手だった。
姉とは、仲が良くなかった。
自分の「何か」に気がついていたのだろう…。
二人も姉がいたというのに、今でもそのどちらとも連絡は取り合っていない。
その代わり、周りにいる「誰か」は色々なことを教えてくれた。
入れ代わり立ち代わりする「誰か」は、一人ではなく。
毎日違う人に、自分はさして驚きもせず、そういうものだと受け取っていた。
たとえ夜中に目を覚まして、自分の上に「誰か」が座っていたとしても。
毎日入れ替わる、「誰か」。
やがて、その中で三人の「誰か」が、常にいるようになった。
いや、正しくは一人と二匹なのだが。
一人は、子供だった。
三つ編みに白いワンピース。
名前を「ちぃちゃん」といった。
二匹は、犬と蛇だった。
大人になってから知った。
あれは犬じゃなく、狼だった。
あれは蛇ではなく、竜だった。
年端もいかない自分に、そんなことはわかるはずもなく。
犬にくぅ、蛇にりぃと名付けて、遊んでもらっていた。
くぅを背もたれに、ちぃちゃんとおしゃべりをして。
りぃの髭を引っ張ってみたりしていた。
くぅもりぃも、今の自分には見えない。
そして、そばにいるかどうかすら、定かではない。
それは、またいずれ分かる。
問題だったのは、ちぃちゃんだった。
いつの間にやら、一緒にいるようになった彼女。
あの頃の自分とそう変わらないと思われる、年端のいかない女の子。
彼女のおかげで、自分は身の周りにいる「誰か」が何者なのかを知り。
そして、恐れるようになっていく。




