帰還
「私に?何が出来ましょうか・・菊野の女将さんにも、そして佐伯さんにもこうやってお願いされますが、私に一体どのような?」
「話相手になってくれるだけで・・それで良い。君は信用出来る。長年色んな者も見てきた。だから人を見向く眼は持っているつもりだ。又若菜に接触出来る数少ない者が須崎君なんだよ。あの娘には、殆ど会話を交わせる者が居らんのだ・・」
こうやって、須崎は、何か分からぬままに若菜に関わって行く事になる。この日も、須崎は、彼女が可愛がっている、『うみ』の事を色々話して貰った。彼女との接点は、不思議な事に、鳩であった・・このキーワードが、何か分からぬが彼を不思議な輪廻の中に導いて行くのであった。
そして戻って来た、秀一、理恵船頭夫妻。しかし、まだ当面は、海洋保安庁の聴取や、騒がしいマスコミの取材中で、自宅に戻るには時間を要するのだが、佐伯は、孫娘若菜を連れて面会に行く。同行したのが須崎で、その運転を引き受けた。
若菜の顔を見ながら、秀一は大粒の涙を零しながら、やつれた顔で
「大きくなったな・・すまん、若菜。もうちょっとの辛抱だからな」
「うん・・」
若菜も父親の顔を見詰め、潤む眼で答えた。しかし、対照的だったのは母親理恵だった。
「若菜・・学校行って無いって聞いたけど、何してるの?貴女」
久し振りに合った母親の視線とは思えぬ厳しい眼で、見つめられた若菜は途端に項垂れ、無口になる。




