帰郷
三鍋の目にうっすら涙が・・
「ど・・どうした?」
須崎は驚き、三鍋の顔を見る・・
「須崎さんは、例え勝てない相手にでも何時も向かってた。だから、どんな状況でも転んでも転んでも立ち上がる気概があった。」
「確かに・・言われてもしょうが無い。俺もやろうと一時は頑張った。でも、そこからは自力では何も生まれそうに無かったんだ」
正直な須崎は、自分を隠そうとはしない。その心情のまま美弥にそう言うと、
「けど、今の貴方の眼には何も感じられない。私はね、出世を例えしなくったって、きらきら眼をした須崎さんなら、どこへでも付いて行くつもりだった。だから・・御免ね・・別れましょう」
「えっ!何・・何で・・おい、美弥」
三鍋は数ヶ月ぶりに再会し、喜んで自分を迎えてくれたでは無いか、なのに、今突きつけられているのは、今にも零れ落ちそうな両瞼に一杯の涙をためた三鍋の、一瞬前の笑顔とは真逆の別れ話であった。彼女は走り出すように、その場から去って行く。須崎は流石に落ち込んだ。一体自分はどうなってしまうんだと、本当にこの数ヶ月の事を思うのだった。
翌日、須崎は本社にまた出社する。正式辞令を受けて、本社黒田専務直属部長補佐兼根室営業所長として、今後の方針を打ち合わせする為だった。そして、今日根室に帰る飛行機便に乗る。受付の三鍋をちらっと見た。彼女は頭を下げたが、その笑顔は消えていた。




