変化
須崎は、少し理由を納得し、深く一礼して、マンションを後にした。
こうして、須崎はこの若菜と言う少女と否応無く関わりを持たさせる事になって行く。そして、須崎と、前原雄一郎にも関係があると分るのはずっと後の事だった。それが分れば、須崎が単なる上司の追い出しで、根室支社に赴任されたのでは無かった事も分ってくる。
しかし、未だ本社内での騒動はもう少し先の事・・北海道支社の営業会議より、3日振りに戻って来た木下であった。
須崎は木下に、
「少し時間頂けませんか?所長」
配送の秋川が、ちらっと須崎を見たが、ふふんと鼻を鳴らすように事務所を出て行った。やる気の無い所長に売上の話をしたって無駄。自分だけ何を意気がって仕事に取り組むのだろう。他の紀伊や、甲斐など、とっくに須崎にそっぽを向いていると言うのに・・彼の態度は明らかにそうであった。又進藤主任にしても、まあまあなあなあの事なかれ主義で、営業活動に本腰など全く入れていない。根室営業所は、御用聞きで決まった注文を捌くだけで機能しているのだし、これからも仕事なんて増えないし、増やして貰いたくないねと彼は思っているのである。寮での須崎も、つい最近まで殆ど皆と食事を取る事も無く、毎晩のように飲みに出かけて行っており、彼らとは距離が開いていたのである。その点で行けば人畜無害、木下所長は何も小言を言わないし、指示を出す訳では無い。非常に居心地が良い職場なのだから・・




