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季節
二人は笑い合った。
若菜は、自分の構想を美弥に示すのだった。それは、遥かに美弥の予想を超えて次元の違うものだった。天才とは、こう言う事を言うのだ。美弥は思った。若菜の奥ゆかすぎる性格ゆえに、今まで内に秘めていた驚愕の才能・・それは、湧き出る泉のように、現在の競翔そのものを変えてしまうだろうと美弥はこの時思ったのだった。後日・・次々とそれが明らかになって行く。
香月が、再び神奈川リゾートに姿を現したのは、初秋を迎えてやや涼しい風が吹く頃だった。医学博士となり、有名な医師としてその長男、香月昇星の運転する車で、やって来た。それは、突然の事で、とり達にも全く知らされては居なかった。
鳩小屋の中で、靖男に指示しながら、着々と秋レースに向けての調整を行っていた二人だが、
「わっ!香月博士に、昇星さん!」
先に声を出したのは、靖男だった。幼少の頃より特別の付き合いがある、故祖父芳川浩二とは家族同然の関係であった。
「よう、靖男君も、とうとう本格的に競翔世界に入ったんだね」
香月昇星がにこにことして言うと、若菜も鳩舎外に出て来た。




