季節
若菜が、もう4年の大学生活をそのまま終える事は無かった。2年で全科目の単位を取得したのである。この時代には、優秀な学生は、そのまま学士の課程を終える事が出来る。既にオックスフォード大学院への編入が決まっていたが、その編入を若菜は先延ばししたのである。それは、当然の事・・北竜号の根室までのレースの準備の為であった。
初夏から、盛夏・・汗滴り落ちる季節。若菜は、海を眺めていた。ずっと、長い時間微動だにせず・・
「あの・・」
突然背後から掛けられた声に、彼女は振り返った。その人物は、*芳川浩二の孫、靖男であった。
「あ、靖男君、どうしたの?遠慮がちに」
「いや・・余りに、若菜さんが、海に向かって精神集中してたって言うか、声掛けられないオーラが出てたんで・・」
靖男は、高校三年生である。父のような競翔家を目指すつもりは無いが、幼い頃より、芳川浩二と言う競翔界でも名の通った、競翔家を眺めて来た、父のように全く鳩には興味が無く、さっさとこの沢木リゾートに委託した事もあるが、実際受験を控えている身にとって、たまに、この沢木リゾートに鳩を見に来る程度しか出来なかった。
*白い雲 隻眼の竜




