目標
「駄目ですね・・若菜さん、何故、この鳩を訓練して来なかったのか・・悔やみが残るでしょう?違いますか?」
若菜は、しかし、その言葉を肯定するように頷いた。
「はい。残ります。400キロレース以上の参加をしないで、訓練も余りしませんでした」
「それでは、この鳩をこの神奈川から、根室に放鳩すると言う意義は、貴女の思いだけのもので、無謀になりませんか?また、今までのレースから真逆になるコース設定、そして、いきなり1000キロレースに参加させる意義とは?」
「コース設定と、能力とは違うと思います」
反論する若菜に、世界一の鳩博士に向かって、何て事を言うの?美弥は驚いた。
「ふふ・・」
香月が笑う。続けて・・
「分かりました・・本心とは逆の言葉を用いましたが、この鳩は、稀に見る正に長距離系の鳩です。当然ながら、既にこの年ならば、1000キロレース以上を1回、2回飛んでいても不思議はありませんが、南部×今西系の非常に晩生な体ですね。やっと、5歳になって出来た体です。つまり・・若菜さんは、分かって居られたのですね。勿論大事に飼育されていた事は分かりますが、育てて来たと言うのが正しいのでしょう。その覚悟と貴女の競翔家としての非常に高い天分を理解しました。まさに・・北海道の大地が生んだ・・この鳩も「竜」ですね。若菜さんしか、この鳩を使翔出来る方は居ないでしょう」




