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目標
洋司が眼を見開いた。とりの口から語られる、競翔に対する熱い思い。そして、それは故沢木 純なら、きっとこうしたかも知れないと言う考えであった。未優は、父の遺志を繋いでくれた、姉婿にこの時、その本音を知り、心より涙を溢して感謝したのであった。
春レースが終了した。既に初夏の香りが立ち込める季節になった。Tシャツ姿の若菜が、流れる汗も平気に、鳩舎の掃除をやっていた。そこへふらりと気品のある老紳士が顔を出した。
「構わないですか?見学させて頂いて」
「はい、どうぞどうぞ」
美弥もこの時、他の鳩舎内で一生懸命作業していた。余りに清潔そうで、かっこいいじいちゃんだな。若菜は思った。順番に種鳩鳩舎を見て行く老紳士。そして、若菜の作業している、鳩舎の前にまた戻って来て、
「素晴らしい管理ですね。貴女がここを全て管理されているのですか?」
「はい・・でも、私はまだ大学に通ってますので、授業の無い日、休日、祭日にはここに居て、管理メモに従って管理しております」




